冬だけしか見えない奇跡の「ニョロニョロ」?に逢いに行く秘境への探検【山形県米沢市】
山形と福島の県境にある「栗子隧道(くりこずいどう)」は、日本の土木建築史を現在に伝える近代化産業遺産のひとつだ。標高880m、長さ876m。1881(明治14)年に完成した当時は日本一長いトンネルとして誕生し、馬車が行き交う重要な交通路として多くの人々に利用されていた。
しかし、開通から18年後に鉄道が開通し輸送手段が汽車へと移り変わると、時代の流れとともにこの隧道を利用する人はほとんどいなくなる。その後、廃道となったものの、現在では厳冬期には「氷筍(ひょうじゅん)」という自然が作り出す光景が広がり、積雪時のアクティビティとして静かな人気を呼んでいる。
国道13号を米沢市内から福島方面に向かうと見えてくるのは「萬世大路*隧道入口」の大きな看板。これが栗子隧道に続く道への目印だ。
この道は、無雪期には作業用車道として使われており、「七曲り(ななむずり)」と呼ばれるカーブが続く。しかし、積雪期には雪で道が埋もれてしまうため、この時期ならではのショートカットルートで進むことができる。雪を踏みしめる音が耳に心地よく響き、冷たい風が頬をかすめるたび、目の前の風景がその美しさを増していくのも魅力だ。
そして、歩き始めて約2時間。やっと「栗子隧道」に到着した。冷えた指先で触れたトンネルの冷たい壁が、今この瞬間を現実のものと実感させる。
入り口が雪に半分埋もれてしまってはいるが、コンクリート製の二代目栗子隧道の中に入って、中の様子を見てみる。
トンネル内部は天井のコンクリートが剝がれている場所もあり、先に進むのは危険だ。この少し先に初代隧道との合流点があるが、残念ながら見に行くのは無理。ざっと隧道内を見渡した後いったん外に出て、隣にある初代隧道に向かう。
二代目の隧道内部の氷筍は初代に比べると数は少ないものの、約4mの高さから落ちたツララが太い柱状になっているものがあり、初代隧道とはちょっと違った雰囲気だ。一本一本の氷がしっかり眺められ、冬ごとに変わる風景が見られるのも魅力だ。
ふもとから隧道までの往復には体力が必要だが、それだけにたどり着いたときの感動は格別だ。かつて通ったであろう旅人の息づかいをイメージしながらのスノーシュートレッキングは、冒険心をくすぐるアクティビティそのもの。
帰路に着くころには心地よい疲労感に包まれるが、普段見ることができない栗子隧道の姿を楽しみたいなら冬がベストシーズン。隧道内に広がる光景は、触れることさえためらうほどの造形美だ。
「この冬は何か新しい冒険をしたい」と思うなら、好奇心を持ってこの冬の冒険に出かけてみてはいかがだろうか。冬限定の栗子隧道の風景は、ここでしか楽しめない一生ものの思い出になるだろう。
*当記事では、完成当時の命名また画像内の看板記載にならい、表記を「萬世大路」で統一
◆注意事項◆ 掲載内容は取材時点のものです。
参考資料:歴史の道土木遺産萬世大路保存会 https://banseitairo.info/
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