斉藤由貴 40th Anniversary Tour “水辺の扉” ~Single Best Collection~ 独占ライブ配信
斉藤由貴デビュー40周年、スペシャルな一夜がU-NEXTにて配信中
歌手デビュー40周年を記念した全国ツアー『斉藤由貴 40th Anniversary Tour “水辺の扉” 〜Single Best Collection〜』。デビュー日(2月21日)からスタートした全国7ヶ所8公演が去る3月23日に最後のステージを迎えた。 最後の舞台は、昭和女子大学人見記念講堂。斉藤由貴のイメージにぴったりの会場だった。女子学生たちを迎える校門も、並木道のようなキャンパスの雰囲気も、彼女の世界観に見事に調和し、まるで音楽の世界を描き出す “1つの装置” のように感じられた。
そんな記念すべきライブの模様が、6月28日よりU-NEXTにて配信されている。このスペシャルな一夜を振り返ってみたい。
40周年記念ライブはすべてソールドアウト
デビュー40周年を前に、スタッフから周年企画を持ちかけられた際、斉藤本人は “やらなくていいんじゃないかと思っていた” と控えめに語っていた。けれど、蓋を開けてみれば、全公演がソールドアウト。 その記念日を共に祝いたいと願う人たちが、彼女の歌声を心待ちにしていた。しかもシングル曲を当時のアレンジで披露するとあって、長年のファンにとってたまらない構成であり、昭和歌謡に惹かれる若い世代にとっても、一度は観てみたいと思わせる公演だった。
ステージは、バンドマスターであり、これまで斉藤の楽曲アレンジを数多く手がけてきた武部聡志の鍵盤の音から幕を開けた。そこに斉藤のポエトリーリーディングが重なると、観客を瞬く間に斉藤由貴の世界へと誘っていく。2部構成の第1部オープニングでは、海の中のようなブルーのグラデーションを作るライティングの中、「初戀」のイントロが響き渡る中、斉藤が登場。ブルーにも藤色にも見える幾重にも重なったチュールドレスが艶やかで、思わず息をのむ。
最終公演ということもあってか、大きな瞳にはすでに涙が浮かんでいるようにも見えた。ステージの斉藤は、デビュー当時と変わらぬ姿で、“一体どうなっているの?” と思わず声が漏れそうになるほど、少女のように美しく、眩しかった。この美しさを纏いながら、1曲ごとに曲の世界観に合わせ表情を変えていく。時に、そんなさまを本人は “女優歌唱” と表現する。
「初戀」のピュアな歌声に続く「白い炎」でも、その言葉通り、曲の世界を演じるかのように歌い上げる姿は圧巻だった。武部のピアノが奏でるエモーショナルなイントロがクールでシリアスな楽曲へと染め上げていく。そこにバンドの音が重なると、斉藤が凜とした佇まいと澄んだ歌声で混ざり合う。迷いを知らぬ少女期のまっすぐな思いが「♪あなたが好きです」というフレーズに込められ、心へと突き刺さる。
続いて、世界は一変。大人の妖艶さが際立つ「情熱」へ。まるで主人公の女性が憑依したようにドラマチックなパフォーマンスに圧倒される。思春期には理解しきれなかった大人の世界が、今だからこそ見えてくる。それは、斉藤自身にとっても同じだったかもしれない。女優として、歌い手として、経験を重ねてきた彼女の表現力が、よりこの曲に深みを与えているように見えた。
神秘性と祈り。斉藤由貴にしか生み出せない唯一無二の世界
アコーディオンの音色が曲に鮮やかな色を添える「街角のスナップ」、少女のような笑顔が印象的な「少女時代」。MCを挟み、名曲「MAY」へ。「MAY」のイントロが流れた瞬間、会場の空気が一気に高まるのを感じた。
恋する気持ちのピュアさ、美しさが、せつなさをより強調していく。「♪好きよ 好きよ 誰よりも好きよ」という透明感あふれる歌声が訴えかけるメッセージ。ふわりと揺らぎ、今にもどこかへ行ってしまいそうな揺れる歌声は、斉藤由貴ならではのもの。中でも、繰り返されるフレーズ “好きよ” 一言の重み。涙を堪えながら、タメを作るように口にしたその姿に、たちまち胸が締めつけられる。 せつなさが静かに、けれど確かに広がっていく。これほどまでに感情を繊細に伝えられる歌い手は、他にいない。唯一無二の存在だと痛感した。
続く「ORACIÓN -祈り-」では澄んだ歌声が響き渡り、「予感」では “どうしてもこの歌詞のままで歌いたいとディレクターに頼んだ” と語るなど、作詞への強いこだわりも明かされた。この両曲からは神秘的な空気が漂い、まさに祈りのような静けさと荘厳さが広がっていく。こうした世界観を生み出せることこそ、斉藤由貴の真骨頂だ。
武部聡志との深い絆、日替わり曲で見せた心の素顔
第2部では真っ白なドレス姿に衣装を変え、ファンからの熱い支持を集める「土曜日のタマネギ」「ストローハットの夏想い」「AXIA〜かなしいことり~」と次々に名曲を披露していく。続く、武部聡志との2人のコーナーはスペシャル感が満載。「3年目」では、長年の信頼と “阿吽の呼吸” が感じられる演奏と澄み渡る歌声に思わず胸が熱くなった。
同時に、「卒業」「初戀」「情熱」の作詞を手がけた松本隆が、斉藤を “詩人” と称したことを思い出す。21歳の頃に書かれた「3年目」の歌詞には、人は変化という宿命を背負いながら生きていくという哲学的な視点が込められている。そしてそれを “孤独” と呼ぶのだとしたら、けっしてそれは悲しいものではなく、静かに受け止めるべきものだと… 。そんな心情を、この若さで歌詞に込めた斉藤由貴の感性の鋭さに心が震える。
こうした感性を持つ斉藤だからこそ、どの曲にも、どこかせつなさが滲むのだろう。そのせつなさの奥には、優しさと共に、ほんの少しの “毒” のようなものが混ざっているようにも感じられる。柔らかで独特な揺らぎを持つ歌声の中に、小さな隙間からのぞく鋭さ。それが楽曲に奥行きを与え、リアリティを生んでいくのではないだろうか。
そして、日替わり曲として披露された「家族の食卓」のシーンは、とても深く心に残った。最終日を迎えるにあたって曲選びに悩んだ武部に、斉藤が自ら提案したのがこの曲だったという。MCでは “両親は来られないんだけど、姉が来ているので… 子供の頃のことを思い出して、どうしてもこの歌を歌いたいと思って選ばせてもらいました” と語り、その瞳からは大粒の涙が溢れ出した。“ごめんなさい、(涙を流すなんて)いけない” と涙を堪える姿すら絵になってしまい、余計に胸を締めつけられた。
歌うたびに、大きな瞳からこぼれ落ちる涙には、家族への深い愛情がにじんでいた。きっとその優しく温かな歌声に包まれて、会場にいた誰もが、それぞれの家族と囲む食卓の風景を思い浮かべていたに違いない。かつては子どもの視点で聴いていたこの曲が、大人になった今は、自分が築いた家族を見守る気持ちとも重なって聴こえてきた人も多かったかもしれない。
「卒業」で見せた涙と観客との絆
第2部の後半からは、明るい笑顔を見せながら、軽快なリズムに乗せて「砂の城」「青空のかけら」「悲しみよこんにちは」と次々にポップチューンを披露していく。そして本編最後を飾ったのは、デビュー曲「卒業」。歌詞の世界とリンクするかのように、制服のスカーフのようなリボンが髪に揺れる。万感の思いを込めた斉藤の歌声が会場に響きわたる。
セーラーの薄いスカーフで
止まった時間を結びたい
だけど東京で変わってく
あなたの未来は縛れない
過ぎゆく時間をスカーフで結ぶことはできないけれど、この日、斉藤の歌声は多くのファンの心をしっかりと結びつけたことだろう。
「夢の中へ」のイントロが聞こえてくると観客は総立ち
アンコールではツアーTシャツ姿で再登場。MCを挟んで、 “あれを歌いますよ” のひと言から「夢の中へ」のイントロが聞こえてくると、観客は総立ちとなり、斉藤の笑顔とともに会場が揺れた。
そして、最後の曲を前に語った言葉がとても斉藤由貴らしく、印象的なものだったので記しておきたい。 ありがとうと何度伝えても足りない気持ちを前置きして、
「本当に大事なことは、結局はいつもとても月並みです。そのことと向き合うことが怖かったり恥ずかしかったり照れくさかったりしますけど、大切なことは目には見えないし、本当に凡庸なものだなと思うんですね。ですから最後にもう一度お礼を伝えさせてください。こんな景色を見せてくださって、40周年なんて照れくさかったけれど、ありがとうございます」
そう言って頭を下げた。そう、最後を飾ったのはやはりこの曲「さよなら」。温かくてまばゆい光のようなナンバーに、斉藤の優しい歌声が溶け込んでいく。
「さよなら」そんな言葉この世に
けっしてないと思う
「さよなら」 今 言われてもきっと
ずっと好きでいられる
“すべての物事には終わりがあってしかるべきですけど、さよならではない、きっとまた…”。そんな想いを込めて、客席に向かって大きく手を振りながら歌い上げる斉藤の頬を一筋の涙がつたっていた。その姿には、ツアーをやり遂げた安堵と喜び、そしてファンやスタッフへの感謝の思いが、静かに、そして確かに滲んでいた。当初はあまり乗り気ではなかった斉藤を後押ししたのは、ファンはもちろん、最後に花束を手渡した武部をはじめ、彼女を深く愛するスタッフたちだったに違いない。その想いに応えるように、斉藤は最後の1曲まで心を込めて歌いきった。
今回のツアーで披露されたアンコールを含む全19曲は、懐かしさに包まれると同時に、大人になった今だからこそ気づける新たな解釈や想いをもたらしてくれた。こうして時代を越え、さまざまな人の心に寄り添い続けることこそが、音楽の持つ力なのだと強く実感する。 優れた音楽は、時代を超えて生き続ける。私たちは楽曲とともに年を重ね、それぞれの人生に寄り添う形で、その歌は形を変えながらも、心の中で息づいていく。これからも、変わらず歌い続けてほしいと願ってやまない。
U-NEXTでの配信は7/12までだが、9月10日にはライブ映像とライブアルバム「40th Anniversary Tour “水辺の扉”~Single Best Collection~」がそれぞれリリースされることも決定。まだまだ斉藤由貴から目が離せそうにない。ぜひ、必見のライブを映像と音で楽しんで!斉藤由貴さん、40周年、心からおめでとうございます。
Information
斉藤由貴 40th Anniversary Tour “水辺の扉” 〜Single Best Collection〜
・U-NEXT独占配信
・配信期間:2025年7月12日(土)23:59
https://help.unext.jp/info/info019b