「なんのために働くのか?」に迷ったらアンパンマンを聴け!歌詞が現代のビジネスパーソンに刺さる理由
アンパンマン原作者・やなせたかしさん夫妻をモデルにしたNHK朝ドラ『あんぱん』。終盤に向けて盛り上がりを見せていますが、改めてこの作品に共感する大人が増えています。
なかでも話題になっているのが、アンパンマンの主題歌『アンパンマンのマーチ』。
なんのために生まれて なにをして生きるのか
こらえられないなんて そんなのはいやだ!
「アンパンマンのマーチ」作詞:やなせたかし
引用元:『やなせたかし 明日をひらく言葉』(PHP文庫)
子どもの頃は何気なく口ずさんでいたフレーズですが、生きる意味を問いかける歌詞が、大人になった今、胸に深く刺さるという声が広がっています。
なぜ、この歌詞が私たちの心に刺さるのでしょうか?
それは、現代のビジネスパーソンが「働く意味とは何か」を改めて考える機会が増えているからです。企業だけでなく、個人にも MVV(ミッション・ビジョン・バリュー) が求められる時代。にもかかわらず、 多くの人が自分の軸や目的を見失い、働き方に迷いを感じているのです 。
今回は、元グラフィックデザイナーでブランディング専門家の松下一功さんに、 『アンパンマンのマーチ』の歌詞をヒントに「働く意味」や「個人のMVV」について話を聞きました 。
【松下一功(まつした いっこう)】
経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者。株式会社SKY PHILOSOPHY 会長。40年近く、企業アイデンティティーやブランドコンセプトの確立を専門とし活動。
なぜ今、『アンパンマンのマーチ』が大人に響くのか?
テーマの核心に入る前に、まずアンパンマンが現代に与えている影響から見ていきましょう。
『アンパンマンのマーチ』の作詞を手がけたやなせたかしさんは、戦争の悲劇を身近に経験しており、特に弟さんが戦死したことが歌詞づりに影響を与えたと言われています。
そして、アンパンマンが自分の顔を差し出すシーンからは、多くの人が「困っている人を助けるために自分を犠牲にする」というテーマを感じ取り、深い共感を寄せています。
こうした背景やテーマがあることから、『アンパンマンのマーチ』は単なる子ども向けの歌にとどまらず、時代を超えて多くの人の心に響き、支持されてきたという歴史があるのです。
では、なぜ『アンパンマンのマーチ』が、現代のビジネスパーソンである私たちの胸に深く突き刺さるのでしょうか?
その背景には、ITやAIの進化によって「作業の価値」そのものが薄れた構造的な変化があると考えられます。まずはその変化の背景を振り返ってみましょう。
かつて、第二次世界大戦で敗戦した日本は、食べ物も含め、生活に必要なあらゆるモノが不足し、安心して暮らすことが難しい時代がありました。その後、経済発展の著しかった欧米に追いつけ追い越せという気概のもと、高度経済成長期を迎えた日本では、全国の人々にモノが行きわたるようになり、安心かつ快適な暮らしを手に入れます。
ところが、企業はニーズの有無にかかわらず、新商品の開発と販売を続けました。その結果、モノは飽和し、どの業界でもコモディティ化が進行。価格競争が激化していきました。
やがて価格だけでなく、機能やデザインの面でも製品間の差が見えにくくなり、消費者の目は肥えていきました。さらに不況の影響もあり、 人々は「本当に欲しいもの」にしかお金を払わなくなっていきます 。
ニーズが見えにくくなった時代の中で、企業は商品やブランドに唯一無二の個性や意味を持たせようとしはじめました。そこに訪れたのが、ITやAIによる急速な作業の自動化です。
これまで 人が行っていた作業の多くが自動で処理されるようになり、作業自体に対する評価や価値は、急速に低下していった のです。
「手作業の価値」が失われた時代の働き方
この「作業価値の変化」について、私自身の体験を交えてお伝えしたいと思います。
私がデザイナーの世界に足を踏み入れた1990年代初頭、作品はすべて手描きが基本でした。下っ端が最初に覚えるのは、「線」の描き方。ブレのない真っすぐな線を引けるようになって、やっとスタートラインに立てた、そんな時代です。
逆に言えば、真っすぐな線を引けるというだけで、一定の作業を任されるだけの価値があったということです。
ところが今では、線は人の手ではなくPCで描くのが当たり前になりました。手で線を引く作業がなくなったことで、その作業に宿っていた価値も消えてしまいました。
これはグラフィックデザインの世界に限った話ではありません。かつて人が手作業で行っていた多くの業務、例えば、データ入力、請求書の作成や送付、問い合わせの一次対応、会議の議事録作成なども、今ではAIによって自動化されつつあります。
「AIに仕事を奪われた」と感じる人もいるかもしれません。けれども、 こうした進化は私たちの意思に関係なく進んでいく抗えない流れであり、現代人に課せられた宿命 のようなものでしょう。
しかし、悲観する必要はありません。近年も私たちは、PCの普及、インターネットの浸透、スマートフォンの登場などの変化を無事に乗り越えてきました。ただし気を付けたいのは、 今回の変化には、大きなマインドチェンジが必要 だということです。
「作業中心」から「目的中心」へ意識を切り替えよ
これまで私たちは、日々の業務の中で「作業」に多くの時間を費やしてきました。けれども、ITやAIの進化によってその作業の多くが自動化され、 空いた時間で「何を考え、何を行うか」が問われる ようになっています。
ここで必要なのが、単なる効率化ではなく、 作業中心から目的中心へと意識を切り替えるマインドチェンジ です。つまり、作業が消えた分だけ、企業も個人も 「自分たちは何のためにこれをやるのか?」 という目的に向き合わざるを得なくなったのです。
そのとき、多くの企業が立ち返るのが MVV です。自社がどんな価値を提供し、社会にどんな未来を描きたいのかを示すMVVは、単なるスローガンではなく、その企業が本来持っている 「組織活動の中核となるべきもの」 です。
しかし、どれだけ素晴らしいMVVを掲げていても、 働く一人ひとりがその目的に共感できていなければ、「何のために働いているのだろう?」と思ってしまうのは、仕方がないこと なのかもしれません。
そんなとき、多くの人が感じるのは「自分の存在意義とは何か」「自分らしい働き方とは何か」という根本的な疑問です。同時に、「自分に何ができるのか」というジレンマから、「何者かになりたい」という言葉にならない渇望につながっているのかもしれません。
アンパンマンに学ぶ「個人のMVV」の力
企業のMVVがしっかりと定められていて、そこに社員一人ひとりが共感できている組織では、仕事の目的が明確で、迷いや不安が少ない傾向があります。
例えば、トヨタ自動車は創業以来、「クルマづくりを通じて社会に貢献する」という理念を掲げてきました。その精神は「カイゼン」という合言葉のもと、車の製造を超えて組織運営や街づくりにまで活かされ、近年では「持続可能な社会の実現」というビジョンのもと、スマートシティ構想にも挑戦しています。
こうした明確なビジョンに共感した社員は、自分の仕事がより良い社会の創造につながっているという誇りを持って、日々の業務にあたっていることでしょう。
とはいえ、企業のMVVがしっかりしているだけで、すべてがうまくいくわけではありません。それと同じくらい、いえ、それ以上に大切なのが、 「個人のMVV」を持っているかどうか です。
自分はどんな価値を大切にしていて、誰のために、どんな未来をつくりたいと思っているのか 。それを言葉にできるかどうかで、働く意味の輪郭は大きく変わってきます。
アンパンマンが空腹の人の前でためらうことなく自分の顔を差し出すのは、「自分が何のために生きているか」を理解しているからでしょう。たとえ傷ついたり、崩れたりしても、自分の存在意義を全うしているから、何度でも笑顔で立ち上がれるのです。
私たちが『アンパンマンのマーチ』に心打たれるのは、 アンパンマンがしっかりと自分のMVVを持ち、それを軸に生きていると感じるから だと言えます。
「自分のMVVを持つためには、マインドチェンジが必要」と聞くと、少し難しく感じるかもしれませんが、やることはシンプルです。 自分はどんな価値を大切にしていて、誰のために、どんな未来をつくりたいのかを思い出す 。ただそれだけです。
自分のMVVを見つけるヒントは「過去の自分」にあり
「自分はどんな価値を大切にしていて、誰のために、どんな未来をつくりたいのか」
その答えを見つける手がかりは過去の自分です。
もちろん、今の会社に入社した理由や、これまでの仕事の中で感じたやりがいに目を向けるのもいいでしょう。でもせっかくなら、もう少し深く自分の原点を掘り下げてみてほしいのです。
例えば、受験に失敗したとき、部活で思うような結果が出なかったとき、バイト先で大きなミスをしたときなど、 人生の中で訪れたピンチを思い出してみてください 。
そのとき、 あなたはどんな言葉を口にし、どんな行動をとったでしょうか。どんなことに怒り、何に涙を流し、誰のために踏ん張ろうと思ったか 。そこにこそ、あなただけの 「価値観=コアバリュー」 が隠れています。
それは、仕事における「自分なりのMVV」の原型になるものです。もし就活のときに自己分析をした経験があるなら、当時のメモやノートを開いてみるのもおすすめです。思わぬ原点が見つかるかもしれません。
いま改めて、 自分のMVVを問い直すことは、「なにをして生きるのか」を見つけ直すこと 。
自分が大切にしている信念や価値を、誰のために、どんなかたちで活かすのか。それを考えることは、アンパンマンのように「誰かの力になれる生き方」につながるだけでなく、「自分らしく、気持ちよく生きるための軸」にもなるでしょう。
プロフィール
松下一功(まつした いっこう)
経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者。株式会社SKY PHILOSOPHY 会長。40年近く、企業アイデンティティーやブランドコンセプトの確立を専門とし活動。2011年より「真のブランディングを世に伝える」ことをミッションに、講演、講師、コンサルティングを行う。2024年、著書『共感ブランディング®ドリル』で、自身の体系的オリジナルロジックを一般公開。ブランディングのわかりやすい実践書として高評価を得ている。
取材・文:安倍川モチ子
編集:求人ボックスジャーナル編集部 内藤瑠那