すべての映画好きに刺さる「グーニーズ×はじめてのおつかい」なキッズアドベンチャー『リトル・ワンダーズ』
世界の映画祭を席巻!『リトル・ワンダーズ』
カンヌ国際映画祭やトロント国際映画祭で話題を呼んだ映画『リトル・ワンダーズ』が10月25日(金)より劇場公開。『グーニーズ』(1985年)や『スタンド・バイ・ミー』(1986年)、『ホーム・アローン』(1990年)や『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016年~)、「はじめてのおつかい」まで彷彿させるジュブナイル映画/キッズアドベンチャーだ。
悪ガキ3人組“不死身のワニ団”、アリス(フィービー・フェロ)、ヘイゼル(チャーリー・ストーバー)、ジョディ(スカイラー・ピーターズ)は大の仲良し。ある日、ビデオゲームで遊ぶ交換条件としてママの大好きなブルーベリーパイを手に入れるために出かけるが、レシピに絶対不可欠な「卵」を謎の男(チャールズ・ハルフォード)に横取りされてしまう。
卵を奪い返すために男を追いかけた3人は、魔女(リオ・ティプトン)率いる謎の集団“魔法の剣一味”に遭遇し、怪しい企みに巻き込まれてしまう。森で出会った魔女の娘ペタル(ローレライ・モート)を仲間に入れ、4人は悪そうな大人たちに立ち向かうのだが……。果たしてこどもたちの運命は? 無事にパイを手に入れ、ゲームをプレイできるのか!?
すべての映画好きに刺さる! 普遍的なキッズアドベンチャー
本作は(おばあちゃんの手編みっぽい)毛糸の目出し帽をかぶった、ちびっ子ギャング風の3人がモトクロスバイクで登場し、ビデオゲームを盗み出すところから始まる。その佇まいは、まるで『BMXアドベンチャー』(1983年)。16mmカメラで撮られたザラザラとした柔らかな本作の映像はレトロだが、映像の端々から現代のお話だと推察できる。
舞台となるのはド田舎の町ながら、オールドイングリッシュ風のタイトルフォントなど細かい演出はにゼロ年代以降のソレで、最近のインディー・ロックバンドのミュージックビデオのような趣も。しかし子どもたちが持つ小道具は実用性抜群で、地味ながらリアルな効果音も心地良い。ということで観客は、これから一体どんなお話が始まるのか、ワクワク見守ることになるのだが――。
のほほんサスペンス展開に貢献する意外な有名キャスト
冒頭でママから受託した「ブルーベリーパイGETミッション」がキッズたちの“冒険”のきっかけではあるのだが、謎の一味と出会ってからは、森の中なのに急速に治安が悪化。ヒッピーのような一味は良からぬ企みを秘めている様子で、ときおり不思議な呪文を唱えたりしつつ、その言動は抽象的で謎めいている。
一味のボスを演じるリオ・ティプトンは、傑作ロマコメ『ラブ・アゲイン』(2011年)で主人公の息子から求愛されるベビーシッターを演じていた、あの人だ(旧名アナリー・ティプトン)。リオは2021年にノンバイナリーであることをカミングアウトしており、本作ではどっしり骨太な存在感を見せてくれる。
そして娘のペタルを演じるローレライは、アリスたちの素朴さが新鮮に感じるほどのこまっしゃくれぶりで、「この子、素人じゃないな!」と思わせる演技派。『星の国から来た仲間』(1975年)や『炎の少女チャーリー』(1984年)を彷彿させるペタル(もっと呑気だが)が3人と出会ってからお話は大きく回りはじめ、やんちゃな冒険物語に怪しいオカルト系サスペンスのような気配が漂いはじめる。
とはいえ最大の目的が「卵を取り返してパイを作ること」だけに、スコンと抜けた牧歌的なバイブスはキープ。ヘイゼルとジョディ兄弟の実家ほか映画を覆うビジュアルはカントリー/フォークロア調で、いわゆる“アメリカの田舎こわい”みたいなスリラー要素ではなく、世界名作劇場のアニメに近い暖かさすら感じさせる。
決して“お子ちゃま”扱いしない、目線を合わせたキッズ映画
自ら出演もしている監督のウェストン・ラズーリは、キッズ映画らしい幼さゆえの無謀な冒険を描きながらも、子どもたちをナメていない。ただ無邪気で無軌道なドタバタ劇ではなく、理にかなった計画と大人を出し抜く覚めた目線をしっかり描写。かなりの低予算であろう本作を支えるのは子役たち一人ひとりの個性だということを理解していて、演者たちの実年齢とはアンバランスなほどのセリフを与えてもいる。
そんな本作だがハラハラ・ドキドキのアドベンチャーというよりも、カウチポテトなチルアウトムービーと言うべきかもしれない。バキバキなデジタル映像では味わえないレトロな映像は心地よい没入感があり、手に汗こそ握らないもののスクリーンから目が離せなくなる。そして最後に“ある名作ホラー”のテーマ曲が流れたとき、ふっと現実世界に戻ってきたような感覚を覚えるだろう。
『リトル・ワンダーズ』は2024年10月25日(金)より新宿武蔵野ほか全国公開