【お金】老後の資産はどう使うのが正解? FPが教える「おすすめの取り崩し方」
資産をつみたて投資などで『貯めて、殖やす』方法はよく語られていても、資産を『取り崩す』方法はあまり知られていません。
自分は『人生のゴール』をどのように迎えたいのか、貯めた資産をどう使い、誰にどれだけ残したいのか、一度考えてみませんか。
日本人の金融資産額が最高になるのは「60代~70代」
「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」という書籍が、2024年のベストセラー(ビジネス単行本/日販・トーハン調べ)となったのはご存知でしょうか。
「ゼロで死ね」という衝撃的なタイトルですが、書籍の内容は
「どんな金持ちも、あの世にお金は持っていけない。」
「限られた時間の中で幸福を最大化するためには、人生の早いうちに(お金を使って)良い経験を積み重ねることが大事だ。」
と主張するもので、多くの方がうなずけるものだと思います。
一方で、日本人の保有する金融資産は高齢者にかたよっており、日銀金融広報中央委員会の調査による最新の調査(家計の金融行動に関する世論調査・令和5年)においては、年代別金融資産保有額の中央値は30代が337万円であるのに対し、60代が1200万円、70代が1100万円です。
令和3年における同調査においては調査中の最高齢年代である70代が最も金融資産保有額が多く、中央値で「1500万円」となっていました。多くの方が退職金を受け取るタイミングの60~70代で、金融資産額がピークを迎えることが読み取れる結果です。
多くの方が仕事を引退し始め、保有する金融資産額が最も多くなる60代からは、「老後の働き方・資産の取り崩し方」を真剣に考えていく必要があると、筆者には思えます。今回の記事では、資産を老後にどのように取り崩していくのか、どれだけ残していくのかを考えていきましょう。
老後の『働き方』と『資産の残し方』を3パターンで考えてみよう
老後資産の取り崩し方を考えるためには、まず自分が老後にどのような人生を送り、どれほどの遺産を残していきたいのかを、できるだけ具体的に考える必要があります。
筆者は最近行った現役世代向けのマネーセミナーで、「『中高年になったあとの働き方』と、『死後の資産の残し方』について、それぞれ3パターンを考え、組み合わせてみよう」という項目を作り、参加者の皆様にも自分の将来について考えていただきました。
筆者が提案した『中高年になったあとの働き方』3パターンと『死後の資産の残し方』3パターンは、以下のとおりです
中高年になったあとの働き方
A.「リスタート」コース
→退職後に再就職・独立し、多めに勤労収入を得る。
B.「サイドFIRE(※)」コース
→退職後は無理なく・ゆるく働き、わずかに勤労収入を得る。
C.「本格FIRE」コース
→退職後は一切働かず、資産を取り崩しながら生きる。
※「FIRE」とは「Financial Independence, Retire Early」の略称で、経済的自立と早期退職を意味する言葉。ここでは仕事を完全に引退し、勤労収入がゼロになることをさす。
死後の資産の残し方
A.「DIE WITH ZERO」ゴール
→自分が稼いだお金は自分の世代で全て使い、保有資産をゼロにして旅立つ。
B.「次世代にバトンを」ゴール
→自分の子どもや弟子・生徒などが、少し生きやすくなる程度には資産を遺す。
C.「よりよい社会を」ゴール
→自分の積み上げた資産や仕事のノウハウ、理念などを、会社・財団などの形にして社会に遺す。
お気付きの通り、上記のパターンは両方ともA→Cの順で「難易度」が高くなります。
(最も実現しやすいのは「リスタート」コース×「DIE WITH ZERO」ゴール、最も困難なのは「本格FIRE」コース×「よりよい社会を」ゴール)
それを理解したうえで、自分が「理想とする退職後の生き方・旅立ち方」を考えて「コース」と「ゴール」を組み合わせ、そのためには「いつまでにどれだけの資産が必要で、今からどのような行動をすればいいのか?」を考えていきます。
実現が難しそうだと感じるのであれば、自分が選び取るべき「コース」「ゴール」を変更することもためらうべきではありません。自分と、後世に残る家族などが最も幸せになるため、真剣に考え、ご家族で話し合っていただきたいです。
自分が望む「人生のゴール」で資産の取り崩し方は変わる
筆者としては、老後の資産取り崩しについては以下の手順のように行うことをおすすめしており、自分自身もそのようにするつもりでいます。
1.資産管理をする口座は「生活費用」「緊急用」「投資用」に分ける
→「生活費用」口座は普通預金など、直ぐに現金を引き出せる口座に、最大で生活費5ヶ月分を入れておく。
→「緊急用」口座は国債など、低リスクで換金性の高い商品で運用する。生活費1年~2年分を用意し、高額な医療費や臨時支出があった場合に、必要な分だけ換金して引き出す。
→「投資用」口座は新NISAなどを活用し、損失リスクがあるが利回りの高い商品で運用して、高めの運用益を狙う。基本的に「生活費用」「緊急用」の口座資金を除いたすべての財産をここに入れる。
2.「生活費用」口座の残高が生活費2ヶ月分を割り込んだら、「投資用」口座から「生活費3ヶ月分」だけ、投資商品を現金化して「生活費用」口座に移す。
3.「緊急用」口座に手を付けることがあったら、残高の減少分と同額だけ「投資用」口座から投資商品を現金化して「緊急用」口座に移す。
4.年金受取や臨時収入があった場合はまず「生活費用」口座に振り込み、生活費用口座の残高が「生活費の5ヶ月分」を超えた場合は、超えた分を「投資用」口座に振り込み、投資商品を購入する。
このような形で資産を管理することで、緊急支出が発生した場合に備えつつ、老後の資産減少を最低限にすることが可能です。読者の皆様も、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
ただ、ここで強調しておきたいのは、人生で最も大事なことは、決して「いくら財産を遺して死んだか」ではないことです。それぞれの人生・価値観に合わせて、必要なお金の使い方、そしてタイミングというものがあります。
体が元気であるうちに、旅行やグルメなどの様々な経験をしたい方もいらっしゃるでしょう。まとまった資金を活用して、昔からやってみたいと思っていた事業立ち上げにチャレンジするのもよいでしょう。
子どもや孫が元気に育ち、幸せな人生を送れるためにお金を使うこと、遺すことが生きがいだという方もいらっしゃるでしょう。
自分が必要だと思い、使うことに幸せ・充実を感じることのできることに対してお金をしっかりと使い、それぞれの方がそれぞれの人生全体の満足度を最高にできるよう、自分が積み上げた資産の取り崩し方を早いうちから考えていただきたいと、筆者は心から願っています。
【執筆者プロフィール】
山田 圭佑(KYお金と仕事の相談所 所長)
キッズ・マネー・ステーション認定講師、国家資格キャリアコンサルタント、ファイナシャルプランナー技能士2級・AFP、琉球古典音楽 野村流伝統音楽協会 歌三線 師範、八重山古典民謡保存会 歌三線 教師
東京都出身。大学入学と同時に沖縄県へ移住。大学卒業後、沖縄県庁にて18年間奉職した後にキャリアチェンジ。現在はフリーランスのキャリアコンサルタント・ファイナンシャルプランナー・歌三線師範として幅広く活動。2022年7月に「KYお金と仕事の相談所」を開設。所長を務めている。
(ハピママ*/キッズ・マネー・ステーション)