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劇場アニメ『ひゃくえむ。』公開記念 内山昂輝さん(財津役)×津田健次郎さん(海棠役)が演じた“最強のライバル関係”【インタビュー】

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

昨年秋から今春までアニメが放送されて話題になった『チ。―地球の運動について―』の原作者、魚豊(うおと)さんの原点とも言われる『ひゃくえむ。』がついにアニメ映画になって、2025年9月19日より全国公開!

生まれつき足が速く、小学生の頃から全国大会に出場し、注目されていたトガシ(CV.松坂桃李)と、小学6年生の頃に転校してきて、現実を忘れるために闇雲に走っていた小宮(CV.染谷将太)。トガシが小宮に走り方を教えるようになったことをきっかけに、大人になるまで100m走に青春や人生を懸けていく――そんな生々しくも熱い人間ドラマです。

映画の完成を記念して連続対談企画をお届けします。第二弾は主人公のトガシ(CV.松坂桃李)と小宮(CV.染谷将太)が学生だった頃から日本陸上界で長く君臨する財津役を演じる内山昂輝さんと、同じ時代に競いながらも財津に一度も勝てない海棠役の津田健次郎さんです。財津と海棠にとって視界に入っていなかったトガシや小宮が同じレースで並んだ時、どんな心境で臨み、どんなレースを繰り広げられるのかも見どころです。そんな先陣を走っていた財津と海棠をお二人はどう演じていたのでしょうか?

 

 

【写真】『ひゃくえむ。』内山昂輝×津田健次郎が演じた“最強のライバル関係”【インタビュー】

財津は誰にも理解できない孤高の天才、海棠は哲学者のような重厚感があるキャラ

──『ひゃくえむ。』の原作を読んだり、演じた感想をお聞かせください。

財津役 内山昂輝さん(以下、内山):これまでスポーツものの作品はいろいろ関わらせていただきましたが、「人生とは何か?」みたいな哲学的な問いをはらんだスポーツものは異色で珍しいなと。以前、僕がスマイル役で出演させていただいた『ピンポン』(松本大洋さん原作)をふと思い出しました。

あと主人公のトガシは小学生の頃は全国でも名が知られるスプリンターだったのに、中学、高校と時間がどんどん経過していき、社会人では会社から契約を切られるかもしれないほど、切羽詰まった状態で。順風満帆にいかないところも個性的だなと思いました。

 

 
海棠役 津田健次郎さん(以下、津田):独特のスポーツものですが、ちゃんとスポ根もしていて、リアルで生々しいけど、エンタメも抑えてくれているんだなと思いました。でも各キャラクターの置かれている状況や発言などはすごく奥深くて、情緒的なので、すぐに自分の中に入ってこないセリフもありました。こういう独自のスポーツものと出会えて嬉しかったです。

──演じるキャラクターの印象をお聞かせください。

内山:財津はずっとトップで、ライバルさえもいない絶対的な存在だったので、彼ならではの世界や考え方があるけど、誰も彼の気持ちを理解できない孤高のキャラクターだなと思いました。

津田:海棠は独特の重厚感がある哲学者みたいなキャラクターです。ずっと財津の背中を追い続けて、一度も追い抜くことができないがゆえに到達している境地や領域はおもしろいなと思っています。

──演じる時に意識した点はありますか?

内山:トリッキーで風変わりではない方向性で、雰囲気があるキャラクターにできたらいいなと思っていました。レース中、前方はもちろん横を見ても誰もいない孤独感を感じながらも走ってきて、ずっとトップスプリンターの座を維持してきた財津らしさをセリフで表現できればと思いながら演じました。アフレコ現場では収録前やテストの時に岩井澤監督とお話ししながらセリフのスピード感や雰囲気を微調整していきながら段々とできあがっていった感じがします。

 

 
津田:海棠のキャラクターは割とスムーズに立ち上がりました。彼は見た目が完全なおっさんなんですけど、まだ現役なので意外と若いんですよね(笑)。なので、重くなり過ぎないように意識しながらやりました。

内山:高校の全国大会は財津と一緒に走ってましたよね?

津田:ということは2歳くらいしか変わらないということ? 海棠が3年で財津が1年?

内山:白髪ロマンスグレーの風貌だと30代半ばに見えますよね。

津田:ハーフなのかな?(笑) なのであまりおっさんすぎないようにしようと思ったけど、言っていることは重厚感や深みがあるので(笑)。そのあたりのバランスは監督にジャッジしていただきました。

 

 

──原作の魚豊先生と岩井澤監督のインタビューをした時、監督が津田さんと内山さんのキャスティングはマストでお願いしたと言われていました。

津田:そうなんですか? 初めて聞きました。ありがたいです。

内山:僕はうっすら知っていました。

津田:そうなの?

内山:監督が財津のキャスティングを決める時に、僕が以前出演した作品を参考でご覧になったのがきっかけと聞いて、「あの作品に出ておいてよかったな」と思いました(笑)。ちなみにその作品は『ピンポン』ではありません。

──津田さんは『チ。』で魚豊先生原作のアニメに出演していますね。

内山:最初に『ひゃくえむ。』を観た時、津田さんがしゃべり出すから「あれ? 『チ。』だっけ?」と思いました(笑)。

津田:風貌もどこか海棠とノヴァクも近いしね(笑)。

 

 
内山:でも監督に選んでいただいて、とても光栄です。

──主役の松坂さんと染谷さんもすごいですが、声優陣も芝居が上手な人ばかりで。

内山:トガシと小宮の幼少期が種﨑(敦美)さんと悠木碧ちゃんだったので、「なるほど」と。何も言うことがないキャスティングだなと思ったし、むしろうますぎるのが欠点かもと思ったくらい(笑)。

津田:完成した映画を観ても皆さん素晴らしかったです。

 

 

エンタメ性とアーティスティックな表現の両立

──お二人はトガシ役の松坂桃李さんや小宮役の染谷将太さんと掛け合いをされたそうですが、感想はいかがでしたか?

内山:僕は染谷さんとご一緒した時、沼野役の榎木(淳弥)くんもいて、3人で収録しました。染谷さんは他にもアニメ作品に出演されていたこともあってか、俳優さんと声優さんのカルチャーの違いで歩み寄る必要は一切ありませんでした。『ひゃくえむ。』の世界を一緒に作れたんじゃないかなと思います。空き時間では3人でそれぞれの業界事情を聞いて、情報交換したりして。内容はほとんど雑談だった気がします(笑)。

 

 
津田:僕はトガシ役の松坂さんと収録しましたが、フラットで生っぽいお芝居で掛け合うことができました。松坂さんはとても抑制された表現で、僕もやっていて楽しかったです。とはいえ、海棠はしゃべり始めるとセリフが長いので、あまり会話にはならないんですけど(笑)。海棠が絡んでいないシーンも聴かせていただきましたが、すごく生っぽいお芝居で、とても心地よかったです。

──津田さんは休憩などで松坂さんとお話しされましたか?

津田:大事なシーンを控えていたので、それほどお話しはできませんでした。今回初めましてでしたが、丁寧な物腰で接していただいて、嬉しかったです。

──財津や海棠の会話から生っぽさを感じましたが、そのあたりは意識されたのでしょうか?

内山:リアルな感情を大事にしたいなと思いつつも財津のキャラクター性もあるので、等身大ではないリアルなキャラクターの方向性という絶妙なところを突ければいいなと考えていました。

津田:ロトスコープ(実写映像を1コマずつトレースして描く技法)を使うことや松坂さんと染谷さんが出演することをお聞きしていたので、キャラ立ちさせるよりもしっかりと会話ができればいいなと思ってやっていました。

 

 

──完成した映像をご覧になった感想をお聞かせください。

内山:圧倒されました。エンドロールがパートごとで作画スタッフが分かれて表記されているのも初めて観て、それぞれどんなパート分けをされたのか気になりました。またいろいろな手法が投入されていて、アニメっぽさを活かしたところもあれば、実写っぽいところを狙ったロトスコープやカメラワークなど、一度観ただけでは咀嚼し切れない感じがあって。すごい作品が生まれたなと思いました。

津田:アニメ作品としてすごくクオリティーが高く、しっかりエンタメしていながらもエンタメとは離れてよりアーティスティックな表現もあって。いろいろなところを行ったり来たりするので、ひとつのカラーで括れないおもしろさみたいなものがあるけど、ちゃんとスポーツものの感動もしっかりあるので、おもしろかったです。

──走るシーンのこだわりや100m走にかけたドラマもリアルだなと思いました。

津田:100m走を題材にした作品もありましたが、今までの手法や表現とは違う形で描きながらもオーソドックスなところも押さえているのがすごいですね。劇中のレースでは100mの距離を何本も走らないといけないので、練習や予選、決勝のレースに臨む各選手のドラマにスポットが当たっているところも緻密に計算されて作り上げられているなと感じました。また劇中の100m走のレースそれぞれに見せ場が違うところもおもしろいなと思いました。それと一度実写で撮影しているのもすごいですね。なんて手が込んだことをやっているんだろうと(笑)。

 

 
内山:実写映画とアニメ映画の2本を作っているみたいな。アフレコの時も実写の写真があって、俳優さんの顔を見ながら声をあてていました。

津田:実写で演じている人、声をあてている僕ら、いろいろな人がひとつのキャラクターを演じているのもおもしろいですね。

──岩井澤監督は『音楽』で長編アニメを1人で、手描きで作ってしまう方なので。

津田:そうですね(笑)。岩井澤監督はこの作品もすごい執念で作られていますね。

 

津田さんがプライベートでも100m走が好きでよく観ている理由とは?

──この作品の中で一番共感できるキャラクターや自分に近いキャラクターを挙げるとすれば?

津田:トガシは小学生時代は天才で順調でしたが、途中から凡人になっていって、社会人になったら苦労しているので、彼のことは理解できます。財津や海棠、そして小宮はちょっと突き抜けているので、理解しにくいかも(笑)。

内山:う~ん……。

津田:財津は?

内山:財津は自分とは全然違いますね(笑)。ただ何を考えていて、その心の奥には何があるのかなというのはすごく気になります。この作品ではどのキャラクターも家族がほとんど描かれていなくて。「このキャラは家に帰ったらどうなるのかな?」と想像したり、きっと家族も応援していると思うし。ストイックな構成になっていることで、より想像が膨らむんですよね。その中でも財津に共感はできなかったけど、ずっと気になるキャラクターでした。

 

 

──100m走は陸上でも花形競技ですが、だからこそ光と影のコントラストが大きくて。先日行われた日本選手権を観た時もそれぞれのランナーの想いを想像して、せつなくなってしまいました。

内山:レースが始まったらたった10秒なので、一瞬で終わっちゃいますからね。

津田:僕が物心ついた時からだと100m走にはスターがいてカール・ルイスから始まって、いろいろなスターを見てきました。でもウサイン・ボルトが出てきた瞬間、他の選手の心情を想像してしまって。絶対に届かない領域の超人が現れた時の絶望感や挫折感がすごいと思うんです。北京五輪の100m走の決勝で、世界記録(9秒69)を出した時、横を向いて胸を叩きながらゴールテープを切る姿を見て、大きな衝撃を受けました。

内山:後ろをチラっと見て、勝利を確信したパフォーマンスでしたね。

津田:あんなに余裕でぶっち切れる人間が出てきたら、他の選手はみんな、嫌になっちゃうだろうなと思いました。

──でも速い選手でも必ず勝てる保証もないし、ケガをして選手生命を絶たれることもあるんですよね。

津田:わずか100m、たったの10秒に多くの練習や時間、いわば人生をかけて臨んでもちょっとしたコンディション不良や調整ミスが起きただけで、すべてが台無しになってしまう……辛いなあ。しかも100mだと短過ぎて、スタートをしくじったら逆転するのも難しいし。だからこそ好きで、スポーツの中でも一番よく観るのが100m走なんです。

 

 

──楽しみにされている皆さんへメッセージをお願いします。

内山:原作ファンの方には、この映画はアニメならではの描写があり、異色の方向性のアニ
メとして『ひゃくえむ。』の物語とそれぞれのキャラクターが描かれているので、違ったアプローチの『ひゃくえむ。』を楽しんでいただきたいです。

まだ『ひゃくえむ。』をご覧になったことがない方は、まず映画を観てから原作を読むのもいいですし、その逆でもおもしろさが半減しない作品だと思うので、どちらからでもいいので触れていただいて、最終的に両方共、楽しんでもらえたら嬉しいです。個人的には原作を読んでから映画を観るのがおすすめです(笑)。

津田:原作ファンの方もまだ読んだことがない方もあまり変わらない気がします。映像ならではの良さがあって、それが原作の良さを損なわない形で描かれています。原作は静止画で余白のある部分もしっかりアニメで残しています。トガシと小宮の人生、そこに交わる財津と海棠にも注目して観てください。

 
[文・永井和幸]

 

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