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器の枠を超えて ― 菊池寛実記念 智美術館「現代陶芸のすすめ」(読者レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

いったいこれは陶芸の作品なのだろうか。金属製の鳥かごにはいっているのは顔のような白い物体。2020年に亡くなった陶芸家鯉江良二が1982年に造った「証言」だ。その後ろには金色の小さな椅子が焼き物でできた座布団の上に鎮座する走泥社のメンバーだった川上力三の作品「座」(1981年)。社会的なメッセージ性の強い衝撃的な作品が並ぶ。


鯉江良二「証言」 1982年

川上力三 「座」 1981年


館内改修のため休館していた陶芸専門の菊池寛実記念 智美術館が今年1月に再開した。始まったのは「現代陶芸のすすめ」展。菊池コレクションから現代陶芸の代表作61点を見ることができる。


看板


私たちにとって焼き物と言えば日常使われる皿や鉢、茶碗など口があり見た目が美しく使い勝手がいい器を思い浮かべる。しかし最近では器にも自らの思考や美意識を強く感じさせるものが多く登場している。さらに土を使った造形物、つまりオブジェとしての陶芸作品に挑む作家も多く、木や金属と同じく社会的なメッセージや時代性を色濃く反映した作品には現代陶芸の多様性を感じさせる。

今回の展覧会は20世紀後半以降の陶芸作品に魅了され精力的に収集し、陶芸専門の美術館を作った菊池智(1932年~2016年)のコレクションから器とオブジェというジャンルに大きく分けて展示するものだ。


展示風景


菊池コレクションとしてこれまで国内はもとより海外でも紹介されてきた。その一つが1983年にアメリカのスミソニアン国立自然史博物館で開催された好評を博した「現代日本陶芸展」だ。この展覧会では菊池コレクションから日本の若手陶芸家100人のおよそ300点の作品が展示され、高い評価を得た。この展覧会はその後イギリスにも巡回し、現代陶芸を通した文化交流に大きな役割を果たした。今回の「現代陶芸のすすめ」展に出品されている61点のうち36点はこのとき海を渡った作品だ。


展示風景


智美術館の長いらせん階段を降り地下の展示室に向かうとまず出会うのが走泥社の創設者の一人 鈴木治の「鳥」だ。形は単純だがその造形はどこか鳥のイメージ。見る者の創造力を掻き立てるオブジェ的な作品の代表作だろう。

そして次に登場するのが岡田謙三の「壺」。高さ36センチ、幅、奥行きともに33センチ、黒いひだによって構成された存在感のある大きな壺だ。


鈴木治「鳥」1981年

岡田謙三「塩釉折面壺」1981年


今回の展覧会は大きく分けて前半が器、後半がオブジェという展示になっている。前半の器のコーナーには独特の形と色彩で人気が高い加守田章二の壺や皿、異端の作家といわれる河本五郎や備前焼の金重素山などの作品が並ぶ。器として使うというよりも見るだけでも価値のある作品だ。


加守田章二(奥)「彩色鉢」1975年、(手前)「壺」1979年

河本五郎 「色絵渦紋飾瓶」1982年


そして後半がオブジェのコーナー。冒頭に紹介した2作品もそうだが、社会的なメッセージ性を強く感じさせる作品もあり、戦争や社会の分断、孤独など現代社会を思い起こさせる。


オブジェコーナー風景


中でも注目したのが器とオブジェ両方に作品が並ぶ作者がいることだ。あの夢に出てくるようなオブジェを作り続けた藤平伸。馬にのった二人の人物を表現した「春の日」はその代表作。そして「飾筥 薔薇」は色の感じが「春の日」にどこか通じるものがあり、いかにも藤平らしい器だ。作者の意識には器やオブジェといった境界はもはや存在せず、見る者に不思議な感動を与える。


藤平伸「飾筥 薔薇」1988年

藤平伸「春の日」1989年


分厚い菊池コレクションの中の一端を垣間見ることのできる今回の展覧会。いずれの作品からも日本の伝統的な産地に由来したどちらかというと機能性重視の陶芸作品とはまた違った、世界的にもまれにみる日本の現代陶芸の豊かさ、奥深さを感じることができる。

[ 取材・撮影・文:小平信行 / 2025年1月17日 ]

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