15歳女子の“いびつな絆”映し出す『九月と七月の姉妹』ほか 10代の《揺れ動く心》を捉えた名作5選
史上最年少で権威ある文学賞<マン・ブッカー賞>の候補となった作家デイジー・ジョンソンによる「九月と七月の姉妹」(原題:「Sisters」)に着想を得て制作された映画、『九月と七月の姉妹』が9月5日(金)より全国公開。
世界的に活躍するフランス人俳優アリアン・ラベドの長編デビュー作であり、2024年カンヌ国際映画祭でのプレミア上映以降も各国映画祭で大絶賛された話題作だ。
そんな本作の公開を記念し、《10代の揺れ動く心を捉えた名作》を5作品、厳選して紹介したい。
『九月と七月の姉妹』
9月5日(金)より全国公開
生まれはわずか10か月違い、常に一心同体で過ごしてきたセプテンバーとジュライの姉妹。強い意志で妹を支配する姉と、その支配を無自覚に受け入れる妹。互いに他を必要としないほど固い絆で結ばれていた。だが、二人が通うオックスフォードの学校で、ある事件を起こしたことをきっかけに、シングルマザーのシーラと共に、アイルランドの海辺近くにある長年放置されていた一族の家〈セトルハウス〉へと引っ越すことになる。
だが、新しい生活の中でジュライは次第に、姉セプテンバーとの関係が変容。次第に緊張を増し、外界と隔絶された家には不穏な気配が漂いはじめる。生まれてから最初に出会う〈他者〉でもある家族との絆が歪んだとき、いったい何が起こるのか――。
監督を務めたのは、ヨルゴス・ランティモス監督を中心として生まれた映画ムーブメント<ギリシャの奇妙な波(GreekWeird Wave)>を継ぐ作風で脚光を浴びた、アリアン・ラベド監督。2010年、ランティモス監督が制作・出演した『アッテンバーグ』(アティナ・ラヘル・ツァンガリ監督)で映画デビューを果たし、ヴェネツィア映画祭とアンジェ・プルミエ・プラン映画祭の最優秀女優賞を受賞。本作でランティモスと出会い2013年に結婚、同監督作『ロブスター』(2015年)にも出演した。また2014年には、『欲望の航路』でロカルノ映画祭最優秀女優賞を受賞、セザール賞新人女優賞にもノミネートされている。
10ヶ月違いで生まれた一心同体の姉妹・セプテンバーとジュライを演じたのは、“カンヌの新星”として演技を高く評価されたパスカル・カンとミア・サリア。また、『関心領域』でアカデミー賞音響賞に輝いたジョニー・バーンによるサウンドデザインが物語を不穏な予兆で充たしていく。
一体どこからどこまでが自分なのか、お互いの境目がわからないほど絡み合った姉妹の絆は、やがて醒めることのない悪夢へと姿を変える。姉と妹、母と子。その関係が転じたときに立ち現れる恐怖を、新人監督ならではのフレッシュな視点で描き出した。
『九月と七月の姉妹』は9月5日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開。
『ジュリーは沈黙したままで』
10月3日(金)より全国公開
将来を嘱望される15歳のテニスプレーヤー、ジュリー。だがある日、信頼していたコーチが指導停止となり、同時にその教え子アリーヌが不可解な状況で命を絶ったという不穏な噂が広がる。やがて、コーチと最も近しかったジュリー自身にも大きな重圧がのしかかる。
テニスに支障を来さぬよう日々のルーティンを守り、熱心にトレーニングを続けながらも、彼に関する調査については沈黙を貫くジュリー。周囲の都合で大人にも子供にも扱われる<10代のアスリート>という現実の中で、自分の心を守るために彼女が選んだ道とは――。
<自分を信じる>方法は自ら決めていい、と気づかせてくれる傑作。
『mid90s』(2020年)
1990年代半ばのロサンゼルス。母と兄と3人で暮らしていた、13歳のスティーヴィー。小柄でまだ幼さの残るスティーヴィーは、力で圧倒してくる兄に怯えながらも、どこかで彼に憧れも持っていた。そんなある日、街のスケートボード・ショップで出会ったのは、自由に笑い、無鉄砲で、そして驚くほどかっこいい少年たち。スティーヴィーは憧れにも似た気持ちで彼らの輪に飛び込もうとするが――。
目の前にある圧倒的な<強さ>が、実は儚く、脆く、そして痛みに満ちた現実だということ。それでも、ぶつかり合い、笑い合い、転びながら駆け抜けた日々は、かけがえのない輝きとなって焼きついていく。大人になる一歩手前の少年たちが放つ、危うくも眩しい光。その一瞬の痛みと煌めきを、鮮烈に刻み込んだ青春映画。
『カモン カモン』(2021年)
NYでラジオジャーナリストとして暮らすジョニー(ホアキン・フェニックス)は、LAに住む妹に頼まれ、9歳の甥・ジェシーを数日間世話することに。ジョニーが独身でいる理由や自分の父親の病気について率直に問いかけ、ジョニーを困惑させる好奇心旺盛なジェシーだったが、本音でぶつかり合う時間を共に過ごすことで、二人は徐々に心を通わせていく。やがて妹の留守が長引くことになり、仕事の都合でNYへ戻らなければならなくなったジョニーは、ジェシーも一緒に連れて行く決断をするが――。
これまで見て見ぬふりをしてきたジョニーの心が、ジェシーのまっすぐな想いと会話によって少しずつほどかれていく様子に、観る者の胸もそっと揺さぶられる物語。
『ぼくのお日さま』(2024年)
吃音のあるアイスホッケー少年・タクヤ(越山敬達)は、「月の光」に合わせフィギュアスケートを練習する少女・さくら(中西希亜良)の姿に、心を奪われてしまう。ある日、さくらのコーチ荒川(池松壮亮)は、ホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て何度も転ぶタクヤを見つける。タクヤの恋の応援をしたくなった荒川は、彼にスケート靴を貸し、タクヤの練習につきあうことに。しばらくして荒川の提案から、タクヤとさくらはペアを組み、アイスダンスの練習をはじめることになり……。
「言ってしまったこと」「言えなかったこと」――登場人物の少年少女たちが持つ純粋さと残酷さを通して、思わずジワジワと自らの過去を引っ張り出したくなるような切ない痛みを伴う作品。架空の街を舞台にした雪景色の映像も圧倒的な美しさ。