【自閉症きょうだいの日常】ちょっと独特!?大学院生と通信制高校生、家での過ごし方
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
大学院生の兄と自宅学習中の妹
わが家のASD(自閉スペクトラム症)きょうだい、お兄ちゃんのタケルは修士課程の2年生です。朝早くフィールドワークに出かけ、昼頃には帰宅します。授業がある日は午後から大学に行くこともありますが、家が近いこともあって授業が終わればすぐに帰宅し、データ入力や分析を繰り返しています。
妹のいっちゃんは通信制高校の3年生。睡眠障害があるため起床時間が不規則ですが、勉強も趣味のゲームも自宅でできるため、外出する機会は少なめです。
ただし、習い事に通ったり私の買い物に同行したりすることもあるので、「外に出たくない」というわけではなく、「暇だから街に出かける」という発想がないだけのようです。
そんな二人は、必然的に家に同時にいることが多くなります。
それは遊びなのか?お兄ちゃんの「カテキョごっこ」
よく見かける二人の「遊び」は、いっちゃんがタケルに何かを教えてもらう場面です。内容は数学や漢字などの勉強に限らず、役に立たないけれど面白い雑学が多いです。こうした雑学こそ、子どもたちにとっては楽しいようです。
タケルの話し方には、ASD特有の早口や長いセンテンスという特徴がありますが、同じASDのいっちゃんはそれを気にせず、身振り手振りを交えて楽しそうに聞いています。
「私は説を言います」きょうだいで検証
タケルが話題を振ることもあります。それはたいてい「私は説を言います」という言葉で始まります。もちろん、取り立てて大きな「説」ではないのですが……。
いっちゃんは兄の考えたネタを手早く画像や音楽に落とし込み、それをタケルが自身のSNSの掲示板に投稿することもあります。その反応やコメントを二人で楽しむのが日常です。
スポーツやショッピングも嫌いじゃないけれど…
二人が言葉や表現で「遊び」を生み出すようになった背景には、漫画やゲーム、インターネット動画の影響が大きいと思います。特に、科学的な考察や検証をテーマにした自然系動画はきょうだいの普段の口調や興味に大きな影響を与えています。
友だちとスポーツをしたり、街に出かけて刺激を受けたりすることがなくて大丈夫なのか、と心配されることもありますが、ASD特有の事情があります。たとえば、「友だちと時間を合わせて定期的に練習するのが難しい」「感覚過敏のため街に出るのは控えたい」といった理由です。その結果、「そもそもそこまでスポーツやショッピングに興味がないので頑張りたくない」という結論に至るようです。
家の中に閉じこもっているだけに見える二人ですが、それぞれの視点で世界を捉え、独自の楽しみを見つけています。私はその様子を見ながら、わが家が「ゆりかご」となり、何か大きなものが育っていくといいなあと期待しているのです。
執筆/寺島ヒロ
(監修:室伏先生より)
ごきょうだいの関係性やご自宅での過ごし方について、詳しく共有くださりありがとうございました。きょうだいは、小さい頃は一緒に遊んでいても、年齢が離れるごとにコミュニケーションが減っていってしまいがちですが、今でもとても素敵な関係性を維持されているのですね!お互いに得意なことを持ち寄って、お二人で素晴らしい世界を育てている姿に感銘を受けました。家庭の内外にかかわらず、強く信頼で結ばれていて、一緒に楽しむことのできる人間関係を持っていることは、これから生きていく上で大きな強みになりますね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。