ひろゆきがFF14吉田直樹に聞く「海外でもヒットさせるって難しくないですか?」
ひろゆきが聞く!
ひろゆきさんが「今、話したい人」と対談する本連載。
今回のゲストは、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、FF14)プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹さんです。
ゲーマーでもあるひろゆきさんから吉田さんへの最初の質問は
ひろゆきさん:FF14は、なぜ海外でも人気になれたんですかね?
多くのゲームやITサービスが鳴かず飛ばずで終わってしまう中、世界中のユーザーに楽しまれているFF14。その独自の取り組みから、長く愛される秘訣が見えてきました。
スクウェア・エニックス
取締役 兼 執行役員 兼 クリエイティブスタジオ3 スタジオヘッド
ゲーム開発者
吉田直樹さん
1973年生まれ。2005年にスクウェア・エニックスに入社。2010年12月から旧FF14の立て直しプロジェクトに尽力し、世界的MMORPGへと導いた「FF14」のプロデューサー兼ディレクター。手掛けたタイトルはアーケードゲーム『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』、『ドラゴンクエストX』『FF14』『FF16』がある
ひろゆきさん(
@hirox246)
本名・西村博之。1976年生まれ。「2ちゃんねる」開設者。東京プラス株式会社代表取締役、有限会社未来検索ブラジル取締役など、多くの企業に携わり、プログラマーとしても活躍する。2005年に株式会社ニワンゴ取締役管理人に就任。06年、「ニコニコ動画」を開始。09年「2ちゃんねる」の譲渡を発表。15年に英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。著書に『働き方 完全無双』(大和書房)『プログラマーは世界をどう見ているのか』(SBクリエイティブ)『1%の努力』(ダイヤモンド社)など多数。ABEMAで配信中の『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』も好評
「海外でもウケるもの」を作るって難しくない?
ひろゆきさん:相変わらずFF14は世界でめちゃくちゃ遊ばれているMMO*として君臨してますよね。
最初は日本人向けだったと思うんですが、いつから海外受けを意識して作り始めたんですか?
*MMO…Massively Multiplayer Onlineの略。大人数が一度に同じサーバーにログインして,同じ空間を共有して遊ぶタイプのオンラインゲームの名称。
吉田さん:意外かもしれませんが、2010年12月にFF14を引き継いだ当初からですね。新生エオルゼアとして作り直した最初のシステム設計から世界標準に対応する、という意識でやってきています。
ひろゆきさん:へえ、そうなんですね。
吉田さん:当時のMMORPG市場を考えた場合、ターゲットを日本に絞ると市場規模的にみて採算が合わないのと、MMORPGの王者である『World of Warcraft』(以下、WoW)が存在する以上、それと比較されることは避けられないからです。
「WoWにできることの最低限はFF14でもできるようにする」、その上で、「ウチにしかない特徴」を示さないと勝負にならないと考えました。
ひろゆきさん:「海外でも売りたい」と英語版を作る日本のゲームやITサービスはありますが、ほとんどが泣かず飛ばずで終わる気がしていて。
一方で、FF14は世界中のユーザーに楽しまれている。日本ならまだしも、海外の人にウケる感覚を養うのって難しくないですか?
吉田さん:確かに難しいですね。
ひろゆきさん:何か特別にやってることってあるんですか?
吉田さん:特別かどうかは分かりませんが、エンジニア含め、日頃から世界標準のエンタメやシステムは自分たちでとことん触っています。遊んでいる、が正しいかもしれませんが(笑)
MMORPGはエンタメではありますが、いちサービスとしての提供価値も上げる必要があるので、WoWや他のMMOを自分たちでとことん遊ぶ。そこで遊ぶ人たち、それこそ海外の人ともめちゃくちゃ話す。
そうやって「ウケているであろう感覚」を自分たちなりに理解した上で、最後に「自分たちの色を載せる」という感じでしょうか。巨大な継続型サービスだからこその方法かもしれませんが。
ひろゆきさん:パッケージゲームと違って、オンラインゲームは、遊んでるユーザーとゲームの中で直接話が聞けるってのがいいですよね。海外の人の反応も逐一感じ取れちゃうわけですね。
吉田さん:ですね。遊んだ感覚を共有しやすいし、ユーザーの不満点や共感ポイントを自分たちも実感しやすいのはオンラインゲームやオンラインサービスの強みかなと。
まあ、色を載せるフェーズで、しくじる場合はあると思いますし、僕たちも失敗を重ねつつ成長させていただいています(苦笑)
「ウケている」の判断ってどうするの?
ひろゆきさん:載せた色の当たりはずれは、ユーザーのプレイ時間とか数字で判断するんですか?
吉田さん:載せた色の当たり外れについては、正直言うと3~4年ほど数値は全く見ていませんでした。「実感」と「改善」と「追加のスピード」、そして遊びの「物量」こそが大切だと思っていたからです。
とはいえ、サブスクライバーは増え、ユーザーのプレイ時間も継続期間も伸びてはいたので「今の方針で進めてよさそうだ」と判断していました。
ひろゆきさん:ただ、間違った方向に進んでたとしても、3〜4年は気づかないという最悪のパターンになったりしませんか?
吉田さん:それはその通り。
ひろゆきさん:あと、目新しいものを出しまくると、短期ではウケが良くても長期的には上手くいかない場合もありそうですよね。
吉田さん:いや、割とあたりは付けられると思います。
ひろゆきさん:ほう。
吉田さん:というのも、当時MMORPGには大きく分けて二つのタイプがありました。レベリング型とコンテンツ型です。
レベリング型はFF11に代表されるような、レベル上げそのものが遊びになっているものです。レベリング型はそもそも、なかなかレベルカンストしない作りになっています。
吉田さん:経験値を少しずつ稼ぎ、倒れるとデスペナルティが重い。レベリングを軸に遊びが縦方向に遊びが構築されています。
しかし、前述のWoWがここに風穴を開けて、カンストし易く、そこからエンドコンテンツを遊んでいく、というコンテンツ拡充型みたいなトレンドができました。FF14はこのパターンです。
吉田さん:つまり、当面のアップデートの目標は「ひたすらコンテンツを増やすこと」だった。遊園地に例えると「アトラクションを作り続けること」みたいに明確なんです。
アトラクションのタイプを見誤ると大惨事ですが、FF14の場合は、初期はとにかくダンジョンやレイドと呼ばれる戦うタイプのコンテンツ拡充に的を絞りました。
ハウジング*とかPvP(Player vs Player)*という方向もありましたが、まずはPvE(Player vs. Environment)*、つまりモンスターやボスとの戦いに主軸を置こうと。ハウジングやPvPも存在はしていましたが最低限に留めた。とにかく最初の3~4年はPvEに軸を置いていました。
*ハウジング…オンラインゲームの世界内に、自分の家を持つことが出来るシステム
*PvP...Player vs Playerの略。人と人が対戦するゲーム
*PvE...人とコンピューターが対戦するシステム
吉田さん:ここはそれを求める人の割合で決めるので、あまり間違える気はしなかったんです。ただ、多くのサービスでは、このコンテンツ拡充がそもそも上手くいかないことが多いです。
ひろゆきさん:なぜです?
吉田さん:理由はさまざまで、資金不足や開発者不足、基礎システムの不安定さなどが要因だったりします。
だから、ある意味でコンテンツ拡充さえ必死に続けられれば、徐々に勝ち目が見えてくる。ちょっと特殊ですよね。
燃え尽き症候群を誘発する「果てのないレベリング」
吉田さん:ちなみにこの方針は2本目の拡張である紅蓮のリベレーターまで続いて、そのリリース後に、ゲーム全体の多様性の拡大と拡張に手をつけ始めました。麻雀の実装をジリジリ始めたのもこの頃です。
ひろゆきさん:FF14は麻雀あるよとか、結婚できるとか「できること」が語られがちですが、そうじゃなくて「戦いが面白いよね」という基本に時間を掛けてたんすね。
FFシリーズとかドラクエとかRPGゲームを語る時って多くの人がストーリーの話ばかりしますけど、実際には戦闘してレベル上げをしてる時間が長い訳で。
そこを面白くすると言うのは大事なんですけど、「ユーザー体験として良かった所」としては、あまり語られないですよね。
吉田さん:スタンドアローンのゲームだと「バトルシステムが面白い」と言われることはあっても、FF14などのオンラインRPGの場合、「このボス戦は面白かった」とか、「このコンテンツ良かったよね」と語られることが多い気はしますね。
ひろゆきさん:お金も掛かるし、システム弄るのも大変だし。コンテンツ拡充をしないで、ひたすら戦闘をしてくゲームの方が利益率は高そうに見えますけど、、、
そこは、WoWの味を知ってしまったユーザーは、戦闘していくだけのゲームだと付いてこなくなると言う読みだったんですか?
吉田さん:いや、ちょっとニュアンスが違っていて。WoWがそちらへ舵を切ったのは「ひたすら戦い続ける、果てのないレベリング」について来られるユーザーの絶対数が少ない、あるいは減っている、と考えたんだと思います。
レベリング型のデザインは僕も大好きですし、ユーザー体験としてはドラマがあるし、唯一無二ですが、それを知る人や経験者であればあるほど、新作でこれをゼロからやるのか…となる。皆躊躇するんです。燃え尽き症候群というか…
ひろゆきさん:長年MMOをやり続けてる勢の過去の努力を無にしない様にするには、いきなり始めた人が超強いみたいにはできないですもんね、、
そうすると、レベル上げ以外の面白さを作らないと、新規ユーザーが入ってこないので先細りになるしかない、、と。
ひろゆきさん:以前、「MMOの賞味期限は2年くらい」だと吉田さんは言っていましたが、今のFF14はその予測とは全然違うことになってますよね。
参照元
吉田さん:これは1プレイヤー当たりの平均で、一般的なMMORPGの継続年数を見ると、最大値はこのくらいだろう、という予測でそれは今も変わりません。
例えば、進学とか卒業、就職、転職、結婚とか、概ね3年くらいで人の人生は大きく変わるタイミングがあります。そうしたタイミングは、継続しているものを精査する機会でもあるのでMMOからも離れやすい時期になる。
転機は3年周期でも、準備期間を入れると2~2年半くらいですかね。
ひろゆきさん:なるほど。
吉田さん:そこで無理矢理その方の手を掴んで、止めないで!というアップデートを多くすると、ゲームの仕様や報酬のシステムがコア化してしまうんです。
だから、新規ユーザーを招き入れる意識が常に必要で、全体のユーザー総数を維持、拡大する必要があると思っています。
結果、個人単位じゃなく、全体として賞味期限を伸ばすというか、常にゲーム全体をフレッシュに保つのが大切になってくる。現在の数字にだけ固執すると、アップデートの方針を見誤る気がするんです......
吉田さん:FF14が企業コラボや話題化施策が多いのは、常にフレッシュな印象を作ることを重要視しているからです。古いと感じられてしまうと、新規の方は遊んでみようとは思ってくれませんから。
ひろゆきさん:おぉ、、そうすると光の戦士は結構入れ替わってるんすね。ネットだとコアなファンがずっとやり続けてるような印象でした。
ひろゆきさん:古参ユーザーを満足させつつ、新規ユーザーも増やすっていうのは、誰もがやりたいことだけど難しい。
実際、他のオンラインゲームではなかなか実現できていないし、ピークを更新し続ける好循環はほとんど生まれてないですよね。
他社のゲームもいろいろな試行錯誤をする中でFF14がうまくいってる理由はなんなのだろう、、と思っていて。
吉田さん:うーん、古参ユーザーを大切にしながら、新規ユーザーも増やしていくっていうのは当たり前すぎるし、理想論に聞こえちゃいますよね。
でも、その理想をサービスやビジネス、クリエイティブの内容によって実現するべく、施策の立案や実行をしています。愚直に努力するというか……ただ、それってモノやサービスによって「やること」は異なるので、他のエンタメやビジネス、システムに共通の「ナニカ」に言い換えるというのは難しいなぁ......。
ひろゆきさん:たまたまじゃない気がするんですよね、、、
FF14が長く愛されるのは「たまたまじゃない」としたら一体何なのか……?
その話が深まる【後編】はこちらから読めます
吉田直樹さん写真撮影/スクウェア・エニックス提供
ひろゆきさん写真撮影/桑原美樹
編集/玉城智子(編集部)