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中華屋の五目焼きそばからたどる、料理そのものではなく、“食べ方”の戦後史

さんたつ

アートボード 1街の昭和

焼きそばが嫌いな日本人はあまりいないと思います。もちろん私も大好物で、特にお祭りや縁日に出かけると、腹が減っていなくても一パック、いや二パックくらい買ってしまいます。あのソースの香りにやられてしまうわけですが、もう一つ心奪われる焼きそばがあります。それは、

——五目焼きそば。

どこかへ出かけて、ふらっと入った中華屋さんで、まず頼んでしまうのがコレ。その発祥がいつなのかは知りません。おそらく近い料理は戦前にはあったのだろうと思いますが、焼いた麺の上に、海老やイカなど海鮮、きくらげに白菜やニンジンだのの野菜とともに炒め合わせた餡をかけるというフォーマットができ、各地に普及したのは、やっぱり戦後なんじゃないでしょうか。昭和30年代以降だと想像します。有名な、小樽のあんかけ焼きそばなども、たしかそのくらいの時期に生まれたのでしたよね。

何より驚かされたのは、その食べ方

実は、私が五目焼きそばをはじめて食べたのは結構遅くて、成人してからなんです。25年ほど前、私は千葉・市川の中華料理屋さんでバイトをしていました。その店の一番人気メニューだったのですよ。

一日百食くらいは出てたんじゃないでしょうか。時々これがまかないで出ました。それはもううれしかったですね。「くわい」というイモとレンコンの親戚のような野菜も、この料理で知りました。この店の餡は醤油が濃いので、キレがあるんです。忘れられない、くせになる餡でした。それをたっぷりかけた麺の横には、からしだけでなく豆板醤もそえていました。黄色と赤のペーストを混ぜ合わせながら食べるので、不思議な食べ物だなと思いましたが、その後、豆板醤をそえる店はお目にかからないですね。でも何よりビックリしたのが、お客さんたちの食べ方です。

テーブルに運ばれてくると、みんなおもむろに卓上調味料へ手を伸ばし、お酢の瓶を手にとります。そうして一口も食べていないのに、サーっと餡の上に回しかけるではないですか! 人によっては皿の上にお酢の水たまりができるほど。

「えっ! 味がつけてあるのになぜ?」

最初は驚きましたが、マネすると、これがよく合うんですね。以来、二十年以上、どこで五目焼きそばを食べてもお酢はかけます。最初はそのまま食べて、途中からチョロッとかける。最後はもう少し多めにかけると飽きずに完食できます。

その食べ方はどれも昔から

バイト中、またまた驚いたのは、同じ餡をかけたラーメン「広東麺」にもお酢をかける人が多いこと。店のマスターも、

「そんなもんじゃないよ。タンメンにもお酢をかけるんだよ。トポトポと、ひと瓶入れちゃうお客さんもいるよ」

といって笑っていました。もはや餡かけでなかろうとお酢なのね、と若干あきれましたが、やってみるとなかなか旨い。

そういえば、餃子もお酢と胡椒だけで食べる人がいますね。私も醤油味に飽きるとマネすることがありますが、さっぱりしておいしいです。

極めつき。私の学生時代の後輩は……なんと、チャーハンにもお酢をかけます。どうやら昔、親から教わった食べ方のようです。そう、どれも、それなりに昔からやられている食べ方なんですよね。

あの味と再会できる店

中華屋さんでの「過剰なお酢使い」、これ、いつごろ生まれて、どうやってあちこちに普及したんですかね。

私としては、冷蔵・冷凍技術が発達する前の時代、くたびれた素材のくさみを誤魔化すためにやられだしたのでは?なんて、推理してみましたがどんなものでしょう。いや、単に旨いから、というだけかな……。

そう、考えてみれば、料理そのものではなく、食べ方にも歴史ってあるのは当然ですよね。各地のご当地料理の発祥や歴史などを調べる人がいますが、こうした「食べ方の戦後史」は、すでにどこかに書かれているでしょうか。あるようなら、読んでみたいです。

市川の中華屋さんはとっくに閉店してしまいました。ああもうあの五目焼きそばが食べられないんだな、と思いだすとき、さびしくなったものですが……いや、実は見つけたんですよ。十五年ほど前に。あの味と方向性を同じくする五目焼きそばを!

現在、個人的にナンバーワン五目焼きそばは、神奈川・藤沢の『千里飯店』さんの一皿です。醤油のキレ、これだ!という感じ。ぜひ食べてみてください。もちろん、お酢をたっぷりかけて。

文=フリート横田
※画像はイメージです。

フリート横田
文筆家、路地徘徊家
戦後~高度成長期の古老の昔話を求めて街を徘徊。昭和や盛り場にまつわるエッセイやコラムを雑誌やウェブメディアで連載。近著は『横丁の戦後史』(中央公論新社)。現在、新刊を執筆中。

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