セント・ヘレナの「スポッツウッド」が40回目の記念ヴィンテージをお披露目
セント・ヘレナの「スポッツウッド」が40回目の記念ヴィンテージをお披露目ナパで初めて有機栽培を実践し、バイオダイナミック農法や最新の*リジェネラティヴ(環境再生型)農業でもリーダー格の「スポッツウッド・エステート ヴィンヤード&ワイナリー」から2代目のベス・ウェーバー・ノヴァックCEOが来日し、40年を振り返るオールドヴィンテージを披露した。
*微生物やカバークロップなどを利用して生きた土壌を取リ戻し、環境を再生させる取り組み
沿革とノヴァック家
1882年、ドイツ移民のジョージ・ショーンヴァルドが建設したヴィクトリア様式の邸宅と庭園を、現オーナーのノヴァック家が手に入れるまでには何人かの所有者を経ているが、「スポッツウッド」の名は禁酒法以前に居住していたアルバート・スポッツ夫人が命名したものである。南カリフォルニアで開業医をしていたジャック・ノヴァック博士と妻メアリーさんが、育ち盛りの5人の子どもたちのために、住みやすい環境と広い邸宅を求めてナパ・ヴァレーへの移住を決断、1972年にセント・ヘレナの西端に位置する歴史ある建造物スポッツウッドを購入した。
5年ぶりに来日したベス・ウェーバー・ノヴァックCEOが手にしているのは、1982年のファーストヴィンテージから40回目となる『スポッツウッド ファミリー・エステート・グロウン』の『カベルネ・ソーヴィニヨン 2021年』。環境と地域社会への配慮に長け、芯の強さと育ちの良さを感じさせるベスさんのイメージは、手掛けるそのワインの味わいにも反映されている
席上配付された回顧録『Looking Back』の中に、「ジャックはスポッツウッドの歴史的なエステートを訪れた時、その可能性に興味をひかれた。私は美しい庭園に魅了され、マヤカマス山脈のふもとにあるブドウ園で子どもたちを育てられると思った」という記述を見つけた。ベスさんのご両親が“新天地ナパ・ヴァレーで描いた夢”が伝わってくるくだりだ。
エステート・カベルネ・ソーヴィニヨンの40回目のヴィンテージを記念して作成された『Looking Back』は、セント・ヘレナでの最初の年のファミリーヒストリー。笑顔溢れる若きノヴァックご夫妻、ベスさんが大邸宅に抱いた感想や兄弟たちの言葉が綴られている
40歳で転居し、農作業に注力していたノヴァック博士が、医者の仕事に復帰して間もなく心臓病で急死(享年44歳)するという事態に。最愛のパートナーを失ったメアリーさんは南カリフォルニアに戻るか、セント・ヘレナに留まるかの選択を迫られるが、セント・ヘレナで生計を立てていく道を選び、付き合いのあった「シェーファー」や「ダッグホーン」などにブドウを販売しながら、‟素晴らしい品質”との評価を得ていたブドウでワイン造りをしていく覚悟を決める。
1982年、スポッツウッド初のワインが誕生! フラッグシップのエステート・カベルネ・ソーヴィニヨンは、くしくもエステート設立から100年目の記念の年で、これにより亡き夫との“共通の夢”が現実のものとなる。
畑に敬意を払う
自社畑は約17ヘクタール。1973年~75年の間、禁酒法以前からあったブドウ樹を引き抜き、AxR₁の台木を使ってカベルネ・ソーヴィニヨンやジンファンデル、ソーヴィニヨン・ブランを植え替えた。この台木はブドウ害虫フィロキセラへの耐性がなかったため、1980年代~90年代初頭にかけてナパを襲ったフィロキセラの害を受け、新たなブドウ樹の植樹を余儀なくされた。
スポッツウッドの敷地内の区画に表記してある数字はフィロキセラ禍以降のブドウ植樹年で、栽培しているのはカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド&ソーヴィニヨン・ブラン。少量生産に徹し、商品はエステート・カベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、リンデンハースト、フィールド・ブックの4種類のみである(出典:スポッツウッド)
ワインメーカーに起用されたトニー・ソーター氏は最初は醸造のみだったが、畑の潜在能力を見抜き有機栽培を導入、1985年からは栽培面も担当した。彼のつてで小規模ながら良質なブドウを栽培している農家との付き合いも広がった。オレゴンでワイナリーを立ち上げ独立したソーター氏に代わり、2019年から醸造家兼栽培マネジャーとしてアーロン・ヴァインカウフ氏が就任。スポッツウッドは1992年のCCOF(California Certified Organic Farmers)を契機に、Napa Green、ビオディナミ農法のDemeter、B-Corpほか、環境にやさしい組織から多くの認証を受けている。直近では2023年にパタゴニアが管理するROC(Regenerative Organic Certified)を取得。これは、気候危機、土壌劣化、生物多様性の損失などの対処のために創設された環境再生型農業の最新認証である。
ベス・ウェーバー・ノヴァックCEOをリーダーとするスポッツウッド・エステート ヴィンヤード&ワイナリーの哲学は、バランス、骨格、エレガンス、一貫性、そして熟成能力を備えたワイン造りであり“畑に敬意を払う”気持ちがすべてに息付いている。
『スポッツウッド ソーヴィニヨン・ブラン 2023年』
ブドウ品種:ソーヴィニヨン・ブラン93%、セミヨン7%。発酵にステンレス製小樽、フレンチオーク樽、アンフォラ、セラミック製発酵槽1台、コンクリート製発酵槽2台を組み合わせ、複雑味をもたせている。白桃や杏、レモンやミカンの果実味、青草やハーブのニュアンス、エレガントな酸味と膨らみのある味わいが長く続き、好印象。「骨格、バランス、エネルギー、酸味&フレッシュ感がある」とベスさん
『スポッツウッド ソーヴィニヨン・ブラン 2013年』
ブドウ品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%。発酵にはステンレス製小樽、フレンチオーク樽、コンクリート製発酵槽を使用。完熟した白桃や洋梨、ヴァニラ、ロースト風味。リリースから10年を経たワインはブドウ本来の熟度が伝わってくる味わいと余韻の広がりが魅力
カベルネ・ソーヴィニヨンの垂直テイスティング。左から
『スポッツウッド リンデンハースト カベルネ・ソーヴィニヨン 2021年』
ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニヨン79.2%、メルロ10.6%、プティ・ヴェルド3.8%、カベルネ・フラン3.5%、マルベック2.9%。樽熟成20カ月、新樽比率40%。自社畑と有機栽培農家からのブドウを使用。華やかなアロマ、黒系果実のブラックベリーやダークチェリー、オールスパイス、酸味はソフトで、味わいはスムース。中盤以降、果実の旨味とフレッシュ感
『エステート・グロウン カベルネ・ソーヴィニヨン 2021年』
ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニヨン87%、カベルネ・フラン9%、プティ・ヴェルド4%。樽熟成20カ月、新樽比率60%。自社畑のブドウ100%。濃深なガーネット色、カシスやブルーベリー、マロラクティック発酵由来のヨーグルトニュアンス、きめ細かいながら存在感のあるタンニンと酸味、骨格とエレガントさを備えたワイン
『エステート・グロウン カベルネ・ソーヴィニヨン 2016年』
ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニヨン85%、カベルネ・フラン9%、プティ・ヴェルド6%。樽熟成20カ月、新樽比率60%。自社畑のブドウ100%。2009年から使い始めたのがプティ・ヴェルド。「ブレンドすることで色調に締まりが出て、コクも表現できる」とベスさん。母親メアリーさんが他界した2016年ヴィンテージは個性、活気、若々しさのあるワイン。ベリー系果実、シダ、黒鉛など、熟成によるアロマが層になって広がり、熟成のポテンシャルあり
『エステート・グロウン カベルネ・ソーヴィニヨン 2006年』
ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニヨン98.5%、カベルネ・フラン1.5%。樽熟成24カ月、新樽比率70%。自社畑のブドウ100%。2009年に市場にリリースされたワインで、ブラックカラントやエスプレッソ、スパイス、ドライフラワーのアロマ。タンニン滑らか、口中クリーミー。飲みごろで、会場「チャイナブルー」の料理と一番フードフレンドリーだったワイン
『エステート・グロウン カベルネ・ソーヴィニヨン 1996年』
ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニヨン95%、カベルネ・フラン5%。樽熟成24カ月(フレンチオーク100%)、瓶熟成1年。すべて自社畑。1970年代にノヴァック博士が植樹した樹とフィロキセラ禍以降の樹から収穫したブドウをブレンド。マグナムサイズで熟成させたフラッグシップのワインからはブラックベリーやプラム、ドライフルーツやドライローズのアロマ、中華系スパイス。タンニンは柔らか、シームレスな食感で、ナパのエレガントかつバランスの良いカベルネスタイルを実感
左から
『スポッツウッド ソーヴィニヨン・ブラン 2023年』 。ファーストヴィンテージが1984年だったので40回目の記念ヴィンテージ
最新ヴィンテージから10年の熟成を経た 『スポッツウッド ソーヴィニヨン・ブラン 2013年』
菩提樹の名に由来する 『スポッツウッド リンデンハースト カベルネ・ソーヴィニヨン 2014年』
フラッグシップの 『エステート・グロウン カベルネ・ソーヴィニヨン 2021年』 。40回目の記念ヴィンテージ
『エステート・グロウン カベルネ・ソーヴィニヨン 2016年』 は35回目のヴィンテージ
『エステート・グロウン カベルネ・ソーヴィニヨン 2006年』 は25回目のヴィンテージ
『エステート・グロウン カベルネ・ソーヴィニヨン 1996年』 は15回目のヴィンテージ
text & photographs by Fumiko AOKI
【問い合わせ先】
WINE TO STYLE TEL.03-5413-8831