時給がアップしても……パート女性の210万人が仕事を抑制、「年収の壁」を意識か 野村総研調査
野村総合研究所(東京都千代田区、NRI)は9月18日、年収が一定額以下になるよう就業時間や日数を減らす、いわゆる「就業調整」の実態を把握するための調査を実施し、その結果を発表した。
7割以上が時給上昇を理由に、さらに就業調整をする意向あり
パートタイムもしくはアルバイトとして働く、配偶者のいる全国の20歳から69歳の女性(以下、有配偶パート女性)2060人に調査。
回答者の61.5%が、自身の年収を一定額以下に抑えるために、就業時間や日数を「調整している」ことがわかった。NRIは2年前も同様の質問をしているが、その割合は61.9%と変わらない。
就業調整をしている人うち、60.6%が「昨年と比べて時給が上がった」と答えている。そこで、時給上昇を理由としてさらに就業調整をしたかを聞いたところ、過半数が「した」と回答(51.3%)。
「今後実施予定」(23.3%)と合わせると、時給の上昇に伴って「さらなる就業調整」をする意向のある人は、7割以上に達することが明らかになった。
NRIの試算では、時給上昇を理由に「さらなる就業調整」をする意向のある有配偶パート女性の数を約210万人と算出。人手不足が深刻な中、就業自体は可能な約210万人の労働者が就業を抑制する事態について、早急な解消が求められる、と指摘する。
働き損にならないなら、約8割が今より多く働きたいと思っている
年収が一定額以下になるように「就業調整」を行う要因として、その金額を超えると、税や社会保険料の負担額が増えるなどして、手取り収入の減少が生じる境目、いわゆる「年収の壁」を意識していることが挙げられる。
NRIが2022年に実施した調査で、「年収の壁」がなくなった場合、現在より年収が多くなるように働きたいかを聞いたところ、8割近くが、手取りが減らなければ今より多く働きたい、と考えていることが明らかになっている(78.8%、「とてもそう思う」「まあそう思う」の合計)。
年収の壁を意識するパート就労者、配偶者手当を廃止する企業の動きも
一定額を超えると世帯年収が減少する年収の壁だが、現行ルールでは103万円を超えると所得税納付が発生し、配偶者控除(38万円)が受けられなくなる。
NRIが2022年に発表した資料では、前提を置いた上で、有配偶パート女性の年収が「年収の壁」を超えて増えた場合、世帯での手取り年収額がどのように変化するかについて試算。たとえば、106万円を超えて社会保険に加入し、103万円超で家族手当が支給停止する場合、有配偶パート女性の年収が4割増(138万円)にならないと、世帯の手取り額水準が戻らない、つまり「働き損」が発生することが示された。
配偶者手当を廃止する企業の動きもみられる。南海電気鉄道(大阪市中央区)は5月末に配偶者への家族手当を廃止し、子供への家族手当を1万1500円に大幅に引き上げた。
「有配偶パート女性の就労実態に関する調査」は8月23日から8月25日の間、パートタイマーもしくはアルバイトとして働く、配偶者のいる全国の20歳~69歳の女性2060人を対象に、インターネットアンケートで実施。総務省「令和4年就業構造基本調査結果」に基づき、有配偶のパート・アルバイト女性の年代別の構成比(10歳刻み)に合わせて、ウエイトバック集計を行っている。