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駒込は第3のリトル・ヤンゴン!? ミャンマーの店が増えた街で存在感を放つ食堂『PEKO』

さんたつ

_IZM5434ミャンマー駒込

「駒込がこんなことになっていたとは……」山手線でもとりわけ存在感の薄い駅だろう。六義園(りくぎえん)のほかはいかにも下町といった風情の商店街が駅のまわりに広がるくらいだが、いまやその街並みの中にチラホラと、ミャンマー国旗が翻(ひるがえ)っている。

PEKO(ペコ)

ミャンマー連邦共和国

東南アジアの仏教国。軍による圧政が続き、日本にも留学生や技能実習生、特定技能といった立場で逃れてくる人が急増。日本には13万4574人が住むが、2024年から5万人近く増えた。半数ほどが首都圏在住。ほか大阪、名古屋など各地にコミュニティーがある。

駅周辺に20軒近くあるミャンマー関連の店

ミャンマー料理のレストラン、カラオケ、食材店、それに一見フツウのイタリアンなんだけどミャンマー人経営という店、最近はやりの担々麺の店かと思ってメニューを見たらすみっこに「ビリヤニ(=ダンバウ。スパイス炊き込みごはん)」なんて書いてある店もあって油断ならない。

ざっくり歩いてみたが、駅周辺にあれこれ合わせて20軒近く、ミャンマー関連の店があるようだ。

「高田馬場が最初のリトル・ヤンゴン、第2の高田馬場が大塚、駒込は3番目かもしれません」

カウン・テッ・アウンさんは言う。駒込初のミャンマー人の店という説もある『ペコ』を、姉夫婦と切り盛りする。オープンは2021年。

「どうして駒込なのかって、まわりのミャンマー人からは心配されたんです。そのとき駒込にミャンマー人は少なかったし、店はひとつもなかった」

(左から)カウンさん、博多ラーメンもつくれるティ・ルイン・ウーさん、妻でカウンさんの姉ナイン・ナイン・ルインさん。
『ペコ』の外観。

ミャンマー政情の変化が常に映し出されてきた

東京におけるミャンマー・コミュニティーのルーツは新宿区の中井だ。1980年代、日本ではまだ少数だった留学生や出稼ぎのミャンマー人が集まる場所だった。面倒見がよく外国人にも部屋を貸してくれる日本人の大家が管理するアパートがあったから、らしい。

そんな折、1988年だ。ミャンマーでは民主化を求めるデモが軍によって武力弾圧され、多くの人が国外に逃れた。一部は中井に合流していくが、人が増えるにつれ西武新宿線で2つ先の高田馬場にコミュニティーが移っていった。山手線も東西線も走り、外国人でも働ける職場の多い新宿が近いという便利さが好まれたといわれ、90年代後半から高田馬場は「リトル・ヤンゴン」と呼ばれ始めた。

ミャンマーの店には必ず仏教の祭壇がある。

やがて2010年代に入るとミャンマーでは少しずつ民主化が進んできたことで、弾圧から逃れるのではなく学ぶために来日する留学生が増えた。しかし2021年に軍は再度クーデターによって政権を強引に掌握。その結果ミャンマーではいま、「88世代」を超えるような人材流出が起きている。日本にも留学生や技能実習生、特定技能といった在留資格でやってくるミャンマー人が急増。もはや高田馬場が飽和状態になり、さらに「ミャンマー人にとって便利でわかりやすい」(カウンさん)山手線沿いで家賃の安いところを求めて、大塚が「第2の高田馬場」となっていく。

ミャンマー人はさらに東進。いまでは巣鴨、駒込、日暮里、そして上中里あたりにもコミュニティーは広がる。

「だからこのあたりの不動産屋は、ミャンマー語の案内を置いてるところもあるんです」

と話すカウンさんの姉夫婦は、高田馬場や大塚でいい物件が見つからずにやってきた駒込で、まずは博多とんこつラーメンの店を始めたんである。名前はもちろん「腹ペコ」という日本語から拝借した。

「その頃はミャンマー人が少なかったし、おじさんはずっとラーメン屋で働いていて、豚骨スープめっちゃおいしくつくるんです」

日本人客でずいぶんにぎわったそうだが、駒込もだんだんとミャンマー人が増えてくる。試しにミャンマー料理を少しだけ出したところ、あれもつくってくれ、これはできないかと要望が殺到。それならと業態を変え、ミャンマー食堂&カラオケ、さらに食材店も始めたところ大人気に。

ミャンマー食材がびっしり並ぶ3階はアジアの市場感たっぷり。
発酵茶葉1500円なり。

『ペコ』の入るビルはほかにも別のミャンマー食材店やミャンマー美容室なども入り、さながら高田馬場のミャンマービル「タックイレブン」のスモール版といった感じだ。このビルの存在もあり、駒込はどんどん第3の「リトル・ヤンゴン」へと成長していった。店が一気に増えたのは「この1、2年だと思う」とカウンさん。

高田馬場、大塚、十条などにも展開するミャンマー食材店『MM』も当然、進出済み。

ナマズ+タマリンドと黒いマンゴーがうまい

ランチはヒン(ミャンマー風のカレー)各種からひとつ選ぶと、日替わりの総菜が2種、それにスープやサラダ、ドリンクもついて1100円。ここで選べる「魚タマリンド料理」なるヒンがいけた。ナマズの一種の白身魚の脂ののった味わいと、タマリンドの酸味がよく合う。これは白米ばくばく進むやつだ。単品でも注文可。

留学生の友ランチセットはおなかいっぱい食べられる。

もうひとつ、ほかのミャンマー料理店ではあまり見ないメニューを発見。タマネギやおろしニンニク、唐辛子、ナンプラーなどを炒めてつくったペーストに、皮のままカットしたマンゴーを和えたもの。ねっとりと甘酸っぱく辛みもあって、これも飯のアテになる。

ミャンマーでは発酵した茶葉を料理に使うことでも知られ、代表的なものがラペットゥというサラダだが、それにマトンを加えたのもここでは出している。また、カウンさんたち一家はビルマ人だが、牛ハチノスのサラダなどラカイン族の料理も提供。駒込など山手線の北辺には少数民族もけっこう住んでいるのだ。

ミャンマー料理は和え物が多い。

ほかに「日本人にも食べやすいやつ」とリクエストしたら、カウンさんの姉がチェーオーを勧めてくれた。「日本人、これ1回食べたらまた食べる」。ビーフンのような米麺料理だ。鶏や豚の内臓やつみれたっぷり、スープのアリ・ナシが選べる。

左上から時計回りに、チェーオーシーチェ(ミャンマー風汁なし米麺)1100円、タヤッティータナッ(マンゴーの炒め煮)800円、ラペッイェ(ミャンマー風ミルクティー)300円、セイラペットゥ(お茶の葉とマトンのサラダ)1200円、アメーウジャント(牛ハチノスサラダ)1000円、ナーダンマジー(ナマズとタマリンドのカレー)1100円。

「駒込のミャンマー人は留学生が多いですね。普通の会社員もいます。僕もなんですが、30代のミャンマー人は自分で会社をつくる人が増えています」

高田馬場のリトル・ヤンゴンは「88世代」が作り上げた。駒込や大塚は若い「2021世代」が主役になっているようだ。

PEKO(ペコ)
住所:東京都豊島区駒込1-24-9 ザ・シティ駒込2F/営業時間:11:30~翌5:00(ランチメニュー~16:00)/定休日:無/アクセス:JR山手線・地下鉄南北線駒込駅から徒歩3分

取材・文=室橋裕和 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2025年7月号より

室橋裕和
ライター
1974年生まれ。新大久保在住。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年にわたりタイや周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。おもな著書は『ルポ新大久保』(辰巳出版)、『日本の異国』(晶文社)、『カレー移民の謎』(集英社新書)。

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