釜石・根浜海岸の歌碑「おかえりなさい」 島倉千代子さんの十三回忌前に ファンら集う
釜石市鵜住居町の根浜海岸に、2013年に亡くなった歌手島倉千代子さんが歌った「おかえりなさい」の歌碑がある。♪あなたの帰りを待っている…。この歌い出しや呼びかけるような歌詞に東日本大震災被災地への思いを重ねていた島倉さんの気持ちをくみ取ったファンらが15年に建立した。今年は十三回忌にあたり、ファンらでつくる後援会が歌碑のそばでしのぶツアーを企画。9月12日、全国から集った18人が刻まれた歌詞を見つめながら「大好きな人」を思い浮かべた。
07年に発表された同曲には「おかえりなさい」「帰っておいで」との歌詞があり、島倉さんは震災(11年)を受け、犠牲になった人やいまだ行方が分からない人へ向けた呼びかけのように感じていたという。「被災地が落ち着いたら、歌いに行きたい」と望んだが、その思いを遂げられぬまま、13年11月8日に他界した。
そうした思いを聞いていた後援会が寄付を募り、縁があって釜石に歌碑を立てた。場所は旅館「宝来館」の裏山にある避難路入り口付近。17年には歌碑近くに音声装置を設置した。
後援会メンバーらは除幕式や七回忌など節目に訪れてきた。4回目となる今回は「十三回忌奉納花火パブリックビューイングツアー」として実施。新潟県小千谷市片貝町の「片貝まつり(浅間神社秋季例大祭奉納大煙火)」の模様を、島倉さんが思いを寄せた場所で一緒に見ることにした。
関西、関東を中心に集まったツアー参加者は旅館に着くと、すぐに歌碑の前へ。音声装置のボタンを押し、島倉さんの温かみのある歌声を聴いた。♪あなたの帰りを待っている 変わらぬ心がここにある……おかえりなさい。声を合わせて歌ったりした。
島倉さんの付き人だった綿引あつ子さん(82)=千葉県=もファンの一人。「会って話したいことがあるから」と来釜した。着物姿でしっとり、か細く、優しい人柄で守ってあげたい印象の島倉さんに引かれたというが、素は「芯がしっかりし、頼れる人。決断が速い。意外にも普段着はジーパンにTシャツなの」としのぶ。歌碑を見つめ、「今も心にとめ集まってくれるファンがいる。今で言う“押し”への情熱が本当にすごい」と、つぶやいた表情にはうれしさがにじんでいた。
夕食時にユーチューブ配信された片貝まつりのライブ映像を視聴。奉納した花火(大スターマイン)には、地震や台風、豪雨などで被災した人らに対し「一日も早く『おかえりなさい』『ただいま』と言えるような心休まる日常を取り戻せますように」との願いを込めた。花火の打ち上げに向け募った寄付金や、関西の後援会が催すビデオ上映会でのグッズ販売の益金などを充てたという。
歌碑建立の計画時から中心的な役割を担った関西地区の後援会代表の吉田恵美子さん(75)=大阪府=は「全国のファンの応援、協力があったからできた」と感謝する。ツアーを企画することで、初めて現地を訪れることができたファンもいて、「良かった。この場所で島倉さんの思いや、震災のことを考えてもらえたら」と希望。「ここは帰る場所。『おかえりなさい』と待っているから、一日も早く『ただいま』と家族の元へ帰ってきてほしい」と祈るように話した。
後援会メンバーやファンは年齢層が高めで、活動は控えめになっているという。そんな中、30代のファンが資料館を運営したりツアーの調整役を担ったり、うれしい動きも。吉田さんは頼もしく感じている。「(島倉さんは)魅力がある人だから」。忘れない―大切な人を思う場所であり続けることを切望する。
片貝まつり奉納花火の模様は10月18日にBSフジで午後7時から放送(録画)される予定だという。