出産費用が自己負担なしになるって本当?対象外となるものにも注意
政府は少子化対策の一環として、2026年度にも出産費用を自己負担なしにする方向で検討を進めていると発表しました。今回の法案により、妊産婦の経済的負担を減らすことが可能である一方で、無痛分娩は対象外など条件がある点に注意しなくてはなりません。本記事では、出産費用が自己負担なしとなる法案の概要や目的、導入にあたっての懸念事項についてまとめてみました。
2026年から出産費用の自己負担がなくなるって本当?
政府は2026年度から出産費用に公的医療保険を適用し、自己負担を求めない法案を検討中と発表しました。この法案が実現すると、出産費用が全国一律の価格となります。具体的な調整を図るべく、厚生労働省とこども家庭庁によって有識者会議を新設し、本格的に議論を進めることを明らかにしています。
導入の背景
近年出生数が過去最少を記録する中、出産費用を保険適用にすることで経済的な負担を減らし、少子化対策に繋げたいといった考えから「異次元の少子化対策」の施策の一つとして打ち出されました。保険適用により、より多くの人が経済的な心配をせずに出産を選択できるようになることが期待されています。
無痛分娩は対象外
この法案は正常分娩による出産費用のみ対象であり、無痛分娩に対しては適用されません。そのため、無痛分娩を選択する場合は、従来通り無痛分娩にかかる費用は実費での支払いが必要です。
そもそも無痛分娩は対応している医療機関が少なく、費用が高い傾向にあります。出産一時金だけでは賄えず、無痛分娩を希望したくても予算面を考慮して諦めたという人も少なくありません。このように需要がある無痛分娩を対象外にすることに対して疑問を感じる人も多く、賛否両論の意見が挙がっています。
出産にかかる費用の相場は
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出産にかかる費用は全国平均で約50万3000円(正常分娩の場合)といわれていますが、地域によって大きく異なり、20万円以上の差が生じることもあります。そのため、出産一時金の50万円だけであらゆるケースに対応するのは難しいといえるでしょう。
前提として出産費用は医療機関がそれぞれ自由に定められます。そのため、出産一時金が引き上げられた際、値上げを図った医療機関も多く見受けられたほか物価高騰などの影響を受けて、年々出産費用は増加傾向にあります。
また、出産にかかる費用は分娩だけに留まりません。妊婦検診やマタニティ用品の購入、産前・産後ケアなども含めると総額が50万円を超える可能性も十分考えられるでしょう。各種助成金制度の利用で自己負担額を軽減する手もありますが、それでも経済的負担は大きいのが現状です。
導入には産科存続の懸念事項もある
今回の法案は妊産婦にとってコスト面でメリットがあることは確かである一方、医療機関には大きなダメージを与えかねません。出産費用が保険適用になった場合、医療機関に支払われる金額(保険点数)が今以上に高い設定になれば問題ありませんが、低い設定になった場合には医療機関への負担は大きなものになるでしょう。
そもそも分娩を取り扱っている医療機関は、24時間体制で妊産婦のケアをする必要があるといった重労働の環境にあります。そこに経済的な負担を強いてしまうと、経営が成り立たなくなり、分娩を取りやめる医療機関が相次ぐ恐れがあります。その結果、出産できる医療機関が限られてしまい、安心して出産に臨める環境が近隣になくなるといった事態に陥りかねません。今回の法案を導入するにあたってはこのような懸念事項もあるため、どのように調整していくのか動向を注視する必要があります。
出産までの検診費用の負担も大きい
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出産費用の負担をなくする取り組みは、妊産婦にとって大きなメリットといえます。しかし、出産費用の負担がなくなったとしても、妊婦健診等にかかる負担等は現状のままです。実際、私も2人の妊娠と出産を経験しましたが、妊婦健診の補助券を利用しても毎回の検診で支払う額はそれなりに高かったことを覚えています。また出産予定日を過ぎたり、なんらかの事情で検診回数が増えて補助券を使い切ってしまったりした場合、全額を自身で負担しなければなりません。
検診時に費用が多くかかる場合、病院で診てもらうのを躊躇する人も出てくるでしょう。出産する当日まで何が起こるか分からない中、コスト面でも不安が生じてしまうのは辛いことです。そのため、今回のような出産自体のみに焦点をあてた法案ではなく、出産全体に関わるコスト面についても見直すべきなのではないかと思います。世論の声や時代のニーズに合わせて、少子化対策に繋がる法案を期待しています。