自動車の任意保険未加入のリスクは?結婚前に見直したい備えとお金
FPオフィス「フォルテシモ」へ依頼されたお客さまの家計簿を、mymoで診断する【うちの家計簿】。今回は26歳男性Kさん、一人暮らしの家計簿です。結婚を控え、これまで無頓着だったお金の使い方を見直したいと考えるようになったとのこと。診断の中で見えてきたのは「任意の自動車保険未加入」という重大なリスクでした。この記事では、任意である自動車保険加入の必要性とともに、Kさんの結婚後の生活を見据えたお金と暮らしの守り方について考えてみます。
26歳男性Kさんのご相談内容
今年結婚することになりました。今まで一人暮らしだったこともあり、無計画にお金を使っていましたが、これからはちゃんとお金のことも考えて生活していきたいと思います。何から始めていけば良いでしょうか。
Kさんの家計簿は…?
手取り額は22万8570円です。今まで家計簿はつけたことがないとのことで、今回は通帳の記帳などから分かる範囲で教えていただきました。手取りの約23%の5万3280円が何に使ったか分からないお金となっています。毎月決まった金額の貯金はしていません。現在、民間の保険には未加入です。
保険の役割とKさんの保険加入状況
保険は公的なものと民間のものがあり、それぞれ大きく分けて損害保険と生命保険があります。
公的保険には国などが運営している保険の健康保険や年金保険、雇用保険などがあります。民間の保険は、民間の保険会社が販売している保険です。
民間の保険には保障の種類により損害保険と生命保険があります。損害保険は交通事故や火災などの偶然の事故に、生命保険は人の死亡などに備えるものです。
Kさんは車を所有されていますが、車についての保険は法律で義務付けられている自賠責保険に加入しているのみ。任意で加入する自動車保険には加入していません。車を所有しているにも関わらず任意保険に入っていない場合は、どのようなリスクがあるのでしょうか。自賠責保険と自動車保険の違いや、それぞれの補償内容について補償の範囲や内容を確認し、任意保険未加入のリスクについて考えてみましょう。
自賠責保険と自動車保険の違い
自賠責保険(自動車損害保険賠償責任保険)は法律で加入が義務付けられている保険です。自動車事故で他人を死傷させ賠償責任を負った場合に、一定の限度額まで保険金が支払われます。
自賠責保険は自動車損害賠償保障法に基づき契約が義務付けられている「強制保険」であるのに対し、「自動車保険」は任意で契約することができる保険です。
自動車保険は自動車によって他人を死傷させ賠償責任を負った場合に、自賠責保険から支払われる額の超過部分に対して保険金が支払われるほか、他人の財物を壊して賠償責任を負った場合や自分や搭乗者が死傷した場合、または自分の自動車に損害を被った場合に保険金が支払われます。
自賠責保険の補償内容
自賠責保険は自動車事故で他人の生命・身体に損害を与え、法律上の賠償責任を負う場合に保険金が支払われます。
支払われる保険金額
法律上の損害賠償責任額が支払われますが、支払限度額は以下のように定められています。
保険金が支払われないケース
① 悪意による事故の場合
わざと人を轢こうとした場合や、わざと衝突して他人を死傷させた場合など悪意による事故の場合には保険金が支払われません。
② 同一の自動車に複数の自賠責保険が契約されている場合
同一の自動車に複数の自賠責保険が契約されている場合は契約の締結が最も早い契約以外の契約については保険金が支払われません。
③ 自損事故の場合
電柱に自ら衝突し死傷した場合など賠償責任を負う「加害者」がいない場合
④ 自動車事故で他人の車や建物など物を壊した場合
任意の自動車保険の補償内容
自動車保険の主な補償として以下の補償があります。
自動車保険の加入率
「2023年度自動車保険の概況」(損害保険料率算出機構)によると、保険会社が取り扱う「自動車保険」と全労済やJA共済などの共済が取り扱う「自動車共済」の対人賠償の普及率は88.4%となっています。つまり、11.6%の車が自動車保険に加入しておらず、9台に1台の車が自動車保険に加入していないことが分かります。下記は自動車保険の加入率(対人賠償の普及率)です。
任意の自動車保険未加入のリスク
自賠責保険は人身事故による被害者を救済するための保険です。そのため自賠責保険は相手の死傷に関する対人賠償のみと限られており、事故で物を壊してしまった際の損害賠償や、自身のけがの治療費については、自賠責保険では補償されません。また被害者への損害賠償のうち自賠責保険でまかなえない部分は、自己負担になります。
過去の賠償事例を確認すると、相手の死傷に対する対人の賠償事例で5億円以上、物を壊した場合の対物賠償についても2億円以上の事例が発生しています。
対人事故
・5億2,853万円 41歳の男性眼科開業医が死亡
・4億5,381万円 30歳の公務員の男性に後遺障害が残る
・4億5,375万円 50歳のコンサルタントの男性に後遺障害が残る
対物事故
・2億6,135万円 被害物件 積荷(呉服・洋服・毛皮)
・1億3,450万円 被害物件 店舗(パチンコ店)
・1億1,798万円 被害物件 トレーラー
出典:損害保険料率算出機構「2023年度_自動車保険の概況」より一部抜粋
被害者との示談交渉は自分で対応する必要がある
加害者が任意保険に加入していない場合、被害者との示談交渉は加害者自ら行わなければなりません。示談交渉は大きな負担となり、精神的にも辛い交渉となることを考える必要があります。
一方、任意保険に加入していれば、交通事故に関する被害者との示談交渉は保険会社に任せることができます。
ただし、保険会社の示談の代行は「対人賠償責任保険」「対物賠償責任保険」の事故が起きた場合に行われるものなので、契約者に責任がゼロで賠償責任が発生しない場合には保険会社は示談代行をしてくれません。
契約者の責任がゼロの事故についても保険会社に相手方と示談交渉をして欲しい場合には弁護士費用特約への加入を検討しましょう。
自動車事故などへの補償は保険で備えを
9台に1台の車が任意保険に加入していないことを考えると、KさんやKさんの車に乗る人も、任意保険に加入していない車と事故を起こしてしまう可能性もあります。十分な賠償を受けられない場合には生活に支障をきたすことも考えられます。
自分で車を所有し運転する場合には、まず民間の自動車保険へ加入することを検討してください。自分で安全運転を心がけていても急な飛び出しなど予想できない事故も考えられます。
家計管理についてのアドバイス~使途不明金の可視化を~
現在はKさんの収入のうちの約4分の1が使途不明金となっています。収入が自分の思い通りの目的に使えているか、どのようなことにお金を使っているか、まずは家計の内容を把握することから始めましょう。
レシートを読み取るだけで支出が自動で記録されるアプリなども複数あります。3カ月ほど続けると家計の中身が把握できると思います。その中身を確認し、できるだけ手取りの一部を計画的に貯められるよう支出を見直すことを検討してください。
一人暮らしより二人で暮らすほうが住居費や光熱費の面などで効率的になります。二人でこれからのライフプランを具体的にイメージして、やりたいことを書き出してみましょう。
やりたいことを実現するために家計を見つめ無駄を省き、まずは自動車保険へのご加入をおすすめします。至急検討してみてください。
アドバイスを受けたKさん談
家族と彼女に相談し、すぐに自動車保険に加入しました。保険についてもあまり深く考えたことがなかったのですが、今まで事故がなくて本当に良かったです!次はお話があった家計の使途不明金をなくすようアプリで管理してみようと思います。何にお金を使っているかよく分からないのではどうしようもないなと思いました。
家計簿診断を終えて
2023年度の自動車保険の概況によると、2022年の事故件数は全国で1日あたり平均824.2件発生しています。車は私たちの生活には欠かせない身近な乗り物ですが、事故を他人事と考えず「自分ごと」として車を保有し、運転するようにしたいですね。