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宮本浩次 ソロ活動5周年記念ツアー大宮公演で見た、地に足を付けた歌の包容力と濃密な一体感

SPICE

宮本浩次

ソロ活動5周年記念ツアー「今、俺の行きたい場所」
2024年11月1日(金)埼玉県・大宮ソニックシティ 大ホール

なんと愛にあふれた空間なのだろうか。終演直後の会場内は笑顔と泣き顔だらけだ。感動と熱狂の余韻があたりに充満していた。ツアーの9本目となる大宮ソニックシティ。筆者にとっては、初日の東京・北区王子の北とぴあ以来、2本目の鑑賞である。初日も歌の素晴らしさに衝撃を受けたが、大宮でもその衝撃の強さが更新された。驚きが薄れないのは、毎回、宮本とバンドが鮮度の高い歌と演奏を展開して、各地で最高到達点を伸ばし続けているからだろう。ただし、それぞれのステージにはそれぞれの良さがあるので、単純に比較できない部分もある。

この日の大宮公演、「地元感を感じていました」と宮本がステージ上で語っていた。“エレカシを育てたライブハウスFREAKSのあった場所”で、宮本は地に足を着けながら、歌の世界を深化させ、さらなる高みを目指していると感じた。孤高の高みではない。会場内の全員を一緒にその高い場所へと連れていくような包容力を備えたステージになっていたからだ。宮本の歌によって、客席がともに燃え、ともに笑い、感動の涙を浮かべている。「俺の行きたい場所」とは、宮本にゆかりのある街であると同時に、この濃密な一体感が漂う空間でもあるのだろう。

宮本のライブを観ていると、コンサート全体がひとつの“生き物”のようだと感じる瞬間がある。ひとつとして同じステージも同じ歌もないからだ。王子公演と大宮公演とでも、冒頭から歌の表情はかなり違っていた。北とぴあでの1曲目は、野球にたとえるならば、豪速球投手が160キロを超える速球を投げ込むような歌声だった。歌から思いがあふれだしていた。大宮ソニックシティでの1曲目は、制球力抜群の投手がピンポイントでキレのある球を投げ込むような歌声だ。“ほとばしる情熱”と“内に秘める情熱”の違いといえるかもしれない。

「みんなに全力で緩急を付けてお届けするので、楽しんでください」との宮本のMCもあった。確かにこれは“全力を投入すること”と“緩急を付けること”とが両立するステージだ。歌の中に没入していく宮本とコンサート全体を俯瞰で見つめる宮本とが存在していたのだ。ソロでのコンサートではあるのだが、バンド形態での表現の可能性を追求したステージでもあった。“五人衆”が歌心とロックンロールスピリッツとを兼ね備えているからこそ、絶妙のアンサンブルが生まれるのだろう。

バンドは小林武史(Key)、名越由貴夫(Gt)、須藤優(Ba)、椎野恭一(Dr)という編成。初日とはドラムだけ、顔ぶれが違う。今回のツアーはスケジュール的なこともあり、椎野と玉田豊夢の2人体制となっていたのだ。椎野も玉田同様に、宮本が絶大な信頼を寄せているドラマーである。椎野は2020年に行われる予定だったツアー『宮本、独歩』の参加メンバーでもあった。このツアーはコロナ禍ですべて中止になってしまったが、4年越しで椎野のツアー参加が実現したことになる。そして、2人のドラマーの個性の違いを楽しめるツアーになったのだ。玉田のタイトかつしなやかなドラムも素晴らしいが、椎野のソリッドかつ深みのあるドラムも素晴らしい。それぞれ豊かなニュアンスを表現できる卓越したドラマーだ。椎野のドラムはこの日がツアー参加の最後とのことで、気迫あふれるプレイによって見事に締めくくっていた。

ソロ曲、カバー曲、エレファントカシマシの曲によって構成されたコンサートで、すべての曲が“聴きどころ”だ。「日本のロックンロール!」という宮本のMCに続いて、70年代の歌謡曲のカバーが演奏される場面もあった。宮本の言葉に間違いはない。歌謡曲の名曲をこの歌唱・アレンジ・演奏で届けることで、アグレッシブなロックンロールナンバーへと生まれ変わっていたからだ。ただし、宮本は無から有を生み出したわけではないだろう。この曲の根底にあったロック成分を拾い上げて、増幅させていたのだ。宮本の曲紹介の言葉を聞いた瞬間、筆者が思い出したのは忌野清志郎だった。RCサクセションが坂本九の「上を向いて歩こう」のカバーを演奏する際に、忌野は「日本の有名なロックンロール!」と紹介していた。宮本にとっても忌野はルーツのひとりだろう。そのスピリットを受け継ぐロックなカバーだ。

セットリストは初日と基本的にはほぼ同じだった。“ほぼ”と書いたのは、一部分、曲の順番が入れ替えになっていたからだ。曲と曲との繋がり、全体の流れがより有機的になり、映像や照明を使った演出はより効果的になっていると感じた。おそらく本人、メンバー、スタッフ含めた全員が細かな調整や修正を行い、ブラッシュアップし続けているのだろう。だからこそ、自在でありながら、洗練されたステージが成立しているのだ。コンサート全体が生き物のようだと書いたが、宮本の歌も“生きている”。何度も聴いていた曲なのに、毎回、新しい感動や驚きがあるのだ。

ある昭和の名曲のカバーでの熱唱にもやられた。ステージの中央に立ち、拍手を浴びる重みを知っている人間だからこそ、そしてまた、悲しみをこらえながら懸命に生きる姿の美しさを知っている人間だからこその歌だと感じた瞬間があったのだ。色気と殺気とが混在する歌もあった。宮本のカバー曲が突出しているのは、ジャンルもジェンダーも時代も越える普遍性を備えているからだと以前のレポートで書いた。人の心に寄り添い、同化する歌。だが、男性である宮本が女性の歌を歌うからこその魅力が見えてくる瞬間もあった。あるカバー曲では、宮本の内面にある“少年性”が浮上し、女性に対する思慕や憧憬の念がにじみでていると感じたからだ。

ソロ曲の魅力を再発見するステージでもあった。生の歌と演奏で聴くことで、さらにその輝きが増していると感じる曲がたくさんあった。それらの楽曲には、“惚れ直す”という表現がふさわしいかもしれない。一部の後半、二部の後半、そして三部では、全開の歌声と演奏に胸を揺さぶられた。身振りや手振り、ジャンプやスキップやダンスなど、自由奔放なパフォーマンスも含めて、歌の世界がダイレクトに届いてくる。12月4日に2枚同時にリリースされるシングル曲は、コンサートの核となっていることもあるので、曲名をあげてレポートしよう。

「『NEWS 23』は大好きな番組で、10代の頃からこの番組を観て眠りに就くのが習慣になっていました。まさか自分がそのテーマ曲を作るとは驚きです」とのMCに続いて演奏されたのは、TBS『NEWS 23』のエンディングテーマ曲「close your eyes」。初日は名越のギターと宮本の歌での始まりだったが、この日は曲の冒頭は、宮本のアコースティックギターの弾き語りで始まり、名越の多彩な音色のギターが入ってきた。すぐ近くで鳴っているような温かな歌と演奏だ。《シャラ・ライ・ララライ・ラライ》という言葉の響きと声色がひたすら心地良い。後半は宮本の歌声をループさせる構成。穏やかな高揚感と確かな安心感とを与えてくれる懐の深い歌だ。

「冬の花」はコンサートのハイライトとなる場面で披露された。宮本浩次名義で発表した最初の曲であり、エレファントカシマシのアルバム『LIFE』以来、約20年ぶりに小林武史とタッグを組んだ再会の曲であり、宮本のソロ歌手としての出発点の曲だ。この曲がその後のソロ作品やカバー作品の一連の流れの起点となっていたのは間違いないだろう。2019年の配信曲を5周年のタイミングでシングルにしたのは、宮本にとって新たな挑戦の始まりの曲であり、自信作であるからだろう。「冬の花」はそれまでに宮本が作ってきた楽曲とはまったく異質な曲だ。歌謡曲の要素が入っているからといって、日和ったわけではない。むしろ逆だ。実験的で冒険的で創造的。歌謡曲独特の儚さやせつなさに対する共感や情感が詰まっていながら、自己憐憫や諦観の要素は一切ない。冬という過酷な環境の中でも諦めることなく、凜として咲こうとする人間の意思、ロックンロールスピリッツに通じる気概が根底にある曲なのだ。冬の花に一筋の光を照らすような小林のピアノで始まり、生命力を秘めた宮本の歌声が響き渡る。冬の花の悲しみに共鳴し、エールを贈るようなボーカルだ。《私が負けるわけがない》というフレーズが鮮烈に響く。儚さとせつなさと強靱さとが共存する歌の世界は、宮本にしか表現し得ない境地だろう。

コンサート終盤では、宮本と小林の印象的なやり取りがあり、宮本とバンドとの麗しい関係性も見えてきた。終演時には、宮本はメンバー全員と握手とハグをしていた。

1本として同じコンサートはないが、完全燃焼する点では一致している。前半は丁寧に、後半はリミッターを外して突っ走っていく展開。宮本の歌に詰まった愛のエネルギーをたっぷり浴びた2時間半となった。愛の歌、希望の歌、そしてエールを贈る歌がたくさん披露された。人間が健康を保つために必要な三大栄養素が「炭水化物」「たんぱく質」「脂質」であるように、「愛」「希望」「エール」は、精神の健康を保つための重要な栄養素だろう。大宮公演はそれらのエネルギーをたっぷり補給させてくれるステージとなった。こんなにもたくさんの愛の歌を届けていたら、エネルギーが枯渇してしまってもおかしくはない。だが、心配は無用だ。宮本は客席から熱烈な歓声と拍手、そしてたくさんの愛を受け取り、体内で歌へと変換し、そしてその歌を届けているに違いないからだ。つまり、宮本の愛の歌とは、持続可能な循環エネルギーにも似た仕組みで成り立っているのではないか。この循環するエネルギーの一部となるのは至福の体験となるだろう。

「今日の喜びをポケットで持って帰って! また会おうぜ」との宮本からの言葉もあった。初日とは違って、ポケットに入れるものが、“時間”から“喜び”へと微妙に変化しているところがおかしかった。だが、かけがえのないものを受け取る場になっている点では一緒だ。ポケットがパンパンになったとしても、その中身が喜びや時間や思い出であるのだから、まだまだ入る余地はあるだろう。観れば観るほどまた観たくなるツアー。五人衆の旅は続いている。

取材・文=長谷川誠 撮影=岡田貴之

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