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誰よりも集団行動ができない「悪夢の発表会」から1年。自閉症診断、療育通いを経て得たものは

LITALICO発達ナビ

誰よりも集団行動ができない「悪夢の発表会」から1年。自閉症診断、療育通いを経て得たものは

監修:井上雅彦

鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー

幼稚園で初めての発表会。楽しみにしていた母を待ち受けていたのは…

運動会や発表会といった行事といえば、親にとってはわが子の頑張っている姿から成長を感じられ、一生の思い出となる輝かしいイベントたちですよね。分かる。でも発達に特性がある子どもたちにとっては普段と違う環境で、普段と違うことをしなければならない……場合によっては超絶苦手なイベントだったりします。

思い出される最古の行事は、あー年少の時の発表会。この時の私はまだ、無邪気に発表会を楽しみにしていました。みんなの前で歌い踊る、楽しい姿が見られるんだろうなあと。この後何が起こるかなんて知らずに……。

期待で胸を高鳴らせて待機列に並んでいると、担任の先生が駆け寄って来て私に告げました。「あーちゃんはすごく頑張っているし、楽しんでいるんです。もしかしたらほかの子とは違う動きがあるかもしれませんが、楽しんでいるので……!」……何それ? 途端に血の気が引きました。これは……ほかの子と同じようにはできないというフラグ……しかも、「どんな状態でもショック受けないでね」って予防線張りにきてるじゃん……!?

さっきまでとは異なる不穏な胸の鼓動と共に幕が上がりました。すると目の前には……一人だけ衣装を着ておらず、お面だけつけているあーがいました。そして、明らかにあーの出演シーンではない、ほかの子の踊りの時も、あーは(端っこではあるけれど)ずーっと舞台の上に出ずっぱり……。途中で飽きたのか、教室外に走ってゆき、廊下で先生に捕まえられ、ひたすらそこにある跳び箱から飛び降りる常同行動。「これをやっていると落ち着くみたいで」と言いながら見守る補助の先生の横で、私は足もとがガラガラと崩れていくような感覚に陥っていました。

誰よりも集団行動ができていない息子の姿を目の当たりに。現実を受け止めきれず…

集団の中で浮きまくっているあーの行動を目の当たりにして、私は大きな衝撃を受けていました。

みんなと同じ行動ができない。同じことをして楽しめない。その前に先生の言うことが聞けない。これは「個性」という言葉で片づけていい問題なんだろうか。そもそも人間はみんな個性的であるはずなのに、あーほど何もできていない子、していない子はいない。できなくて固まっている子、泣いている子はいるけれど、その子たちは「ここにいる」意味は分かっているように見受けられる。あーはそれすら怪しいのではないか……?

この頃は、発達障害の疑いはありつつも、まだ医療機関での確定診断は出ておらず、グレーゾーンの段階でした。しかし、突きつけられた確かな現実を受け止めきれず、途方に暮れていたような記憶があります。

発達障害の診断、療育通いを経て……1年後の年中の発表会では?

そして1年後、年中の発表会が近づいてきました。この1年の間に、あーはASD(自閉スペクトラム症)と診断され、療育にも通い、相談先も増えるなど、さまざまな変化がありました。何より、1年間あーを見てきた私は、あーがとても成長したことを実感していました。しかし……いざ発表会を迎えるとなると、やっぱり親は不安。できれば、去年の悪夢を少しでも払拭したい……!

でも……と、療育を1年受けた母は考えます。できないこと、意欲の向かないことを無理にさせても仕方がないな、と。そわそわくらいは仕方ない、セリフなんか言えなくても構わない、劇の進行に不要なおしゃべりだけセーブできればいいのでは?と、求めるハードルをぐーんと下げたのです。

療育や幼稚園の先生、医療機関にも相談して、例えば待っている間に何か小さな本を読んでもいいことにしたらどうか、声の大きさを調整する練習をしようか、などとアイディアもいろいろいただきました。あー本人が嫌がること、またはやる気にならないものは取り下げたり、なんとかできそうなものは少しずつ取り入れて……と1か月ほど試行錯誤しました。

そして迎えた発表会の本番。やり切った……と本番前にすでに満足の母。こちらとしては打てる手は打ったし、あとはどうなってもいいし、どんなあーでも受け止められる気がする。1年前とは心構え自体が全然違ってきていたと思います。これが(親の)療育の成果か…… !?

実際のところ、本番のあーは花丸のできでした。 程よい緊張が功を奏したのか、そわそわもおしゃべりもなく、自分の役もそつなくこなし……(ここで母大号泣!!)えらいなあ!すごいなあ!成長したなあ!ゆっくりだけど大きくなってるなあ!将来楽しみだなあ!喜びの感情が押し寄せ、頭の中は1人祭り状態でした……!!!

今となっては懐かしくもある、幼稚園時代の試行錯誤の日々。振り返って得たものは

年中の発表会の結果だけを見れば、あーは予想以上にできて私は大喜び……の大団円であるし、あー自身の成長、頑張りがあったのは大前提なんですが……、何をもって成功とするかは、親の心構えみたいなところでもだいぶ変わると思うんです。

年少の発表会の衝撃からの1年間で私が緩やかに手に入れたのは、「許容する心」と「相談先」。発表会に向けていろいろ手を尽くしたことは無駄ではなかったと思いますが、その目的はあくまでも「あーの成功体験のため」であって、「発表会をうまくやり遂げること」ではありませんでした。

「みんなと同じじゃなくていい」「ほかの子と比べず、わが子の成長を見る」「心配だと思ったらすぐに相談する」自らの育児を振り返ってみると、行事関連に限らず、このあたりの考え方を会得した頃からサバイブしやすくなったのかなと思います。とはいっても、いまだに上記の考え方が及ばないことは数多くあり、諦観の境地に至るにはまだまだ長い遥かな道のりがかかりそうなんですけどね……(現在あー中1です)!

執筆/よいこ

(監修:井上先生より)
当時は初めての行事参加で、親御さんはかなり緊張されたと思います。その後の1年間でさまざまな支援者とつながり、お子さんも親御さんも少し余裕を持って迎えられた2年目は、大きな成功体験になったのではないかと思います。親御さんだけでなく、お子さん自身も、不安なことや少しでも困ったことを周囲に相談できるスキルを身につけておくことは、思春期以降に大切になってくると思います。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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