独立系書店が選ぶ「学びのきほん」──古本と新刊scene 編【学びのきほんフェア2025】
書店インタビュー
「学びのきほん」シリーズ おすすめの1冊(第1回)
刊行開始から5年で、累計70万部以上を発行している「学びのきほん」シリーズ。2025年2月現在、全国の書店とNHK出版公式サイトにて、「学びのきほん」キャンペーンを実施中です。
今回は、「学びのきほん」シリーズを応援してくださっている書店にインタビュー。お店の紹介とあわせて、「学びのきほん」からおすすめの1冊を教えていただきました。
第1弾は熊本県熊本市にお店をかまえる「古本と新刊scene」の店主・高岡さんにお話をうかがいました。
「中心ではないところ」で本屋を営む
──お店がある場所は、熊本の中心部からは少しだけ離れていますよね。今の場所を選ばれた理由はありますか?
高岡: 熊本では「上通り」「下通り」というアーケードがある近辺のことを「街」と呼ぶんですが、そのあたりに行けば買い物や食事はひと通りできます。ここ数年で熊本駅やバスターミナルに新しい商業施設ができたりしていて、その周辺に色んなものが集中しています。本屋さんも、TSUTAYAさんや長﨑書店さん、歴史のある古本屋さんが何軒かあるので、そことは離れたところで本屋をやりたいという思いがあり、自分が住んでいるところの近くの物件を探しました。あと、自分が本屋でやろうとしていることを考えると、立地をそれほど重視しなくても、来てもらえるお店になるかなと思いました。
──「自分のやろうとしていること」とは具体的に?
高岡:一人で店をやるとしたら小さいお店がいいし、そんなに多くの本を置けないとなると、必然的に普通の本屋さんとは違う品ぞろえになるだろうと思っていました。それならば人がたくさん集まる場所であることを重視する必要はそんなにないだろうと。お店でこういう本を取り扱ってますよ、ということを知ってもらって、来てもらう、といった感じにしないといけないと思っていました。
──あらためて、お店の規模感などを聞かせてください。
高岡:お店の広さは12坪くらいで、個人書店の中では少しゆとりのある方です。在庫数は2000冊くらいだと思います。そんなに多くはなくて、まだまだスペース的には収納できます。
──新刊も基本的に買切ですか?
高岡:そうです。取次との取引はないので、9割以上は買切です。
──残りの1割は、ZINEとかですか?
高岡:はい。あとは一部の出版社さんですね。
──どんなお客さんが来られますか?
高岡:年齢的には20~40代という感じです。もう少し上の方もいらっしゃるかな。僕は来た人と必ずおしゃべりするタイプではないので、どういう人なのかを必ずしも把握しているわけではないのですが、自分と同じように個人経営をされている方や、デザインや編集など出版物に携わるお仕事をされている方は結構いらっしゃいます。
「正直」でいられる仕事
──お店を始めようと思った動機を教えてください。
高岡:最初に仕事として本に携わったのは、大学を卒業後、もともと好きだったヴィレッジヴァンガードでアルバイトとして働いたときです。
10代の頃に福岡・天神の地下にある店舗に初めて行ったとき、それまではいわゆる町の本屋さんにしか行ったことがなかったので、ラインナップやディスプレイの仕方に衝撃的を受けました。お店にいる人がちゃんと売り場を作っているというか、ここで働いている人はこの商品を「売りたい」と意図があってお店に置いているんだな、ということをすごく感じたんです。
7年くらい楽しく働かせてもらいましたが、会社の成長に伴って商品のラインナップが変化し、自分が店長になる頃には本の仕事があまりできなくなっていました。それで最初に入った頃にやりたいと思っていたことができなくなってきて、退職することにしました。
そのタイミングで、自分で本屋さんをやってみたいなと思い、ホームページを作って手持ちの古本を通販で売ってみました。それからは、いろいろな仕事をしながら、通販で本を売ったり、間借りしてお店の一角で本を売らせてもらったり、イベントに出たりしつつ、いつか本屋をやれたらいいなと思っていました。いろんなタイミングのめぐりあわせで、2022年から店舗を構えることができ、今に至っています。
──もう3年目なんですね。本屋さんの醍醐味や大変さはどう感じていますか?
高岡:自分と同じように個人で書店をやっている人と話す機会もありますが、なかなか難しいと感じています。別の仕事をしながら書店を運営している方もいますし。でも、それでも続けたいと思える楽しさは確かにあります。自分がいいなと思ったものを置いて、それを手に取ってもらってお金を頂戴している仕事なので、シンプルだし、自分に正直でいられる仕事だと思います。そこがいちばん、この仕事をずっと続けたいと思えるところなのではと思います。
──「正直でいられる」というのは、売りたくない本は売らないでいられる、というようなことですか?
高岡:そうですね。世の中良い本ばかりではないと思うので。「自分は好きじゃない」くらいの話ならいいですが、「この考え方を広めることは世の中に対して悪影響になるんじゃないか」と思う本は売らないとか、自分の中ではっきり線引きすることができます。それはひとりでやっているからこそ可能なのかなと思います。
古本と新刊sceneと学びのきほん
──「学びのきほん」はどこで知ってもらえたのでしょうか?
高岡:人文書のなかで、専門的というより幅広い層の人に手に取ってもらえる本を置きたいと思っていたので、お店を始めたころに何冊かピックアップして置いてたんじゃないかと思います。
──どの本がいちばん人気ですか?
高岡:『大人のためのお金学』とか、『はじめての利他学』とかですね。
──「学びのきほん」は、どういう感じで置かれていますか?
高岡:お店の棚割はテーマ制で、「生き方、働き方を考える本」というテーマで人文書をひとくくりにしています。その中に「学びのきほん」を入れています。
──学びのきほんは「2時間で読める教養の入り口」を主眼にしていて、値段を750円に設定しているのですが、やはり売る側としては安いですか?
高岡:安いですが、安いからこそいいと思っています。例えば1000円台後半、2000円の本を2~3冊手に取ってもらった後に、もう1冊、と手に取っていただける価格帯だと思うので、ありがたいです。文庫本以外でなかなか1000円以下の価格帯で買える本はないと思うので。
──今回、シリーズの中からお勧めの1冊を選んでいただいています。宮地尚子さんの『傷つきのこころ学』ですね。
高岡:宮地尚子さんの著作は何作か読んでいて、とても良い内容の本ばかりだったので、「学びのきほん」から出ることを知って、必ず置こうと思っていました。
自分が傷つくことも他人を傷つけることも、誰にでもいつでも起こりうることだし、常に付き合っていかないといけませんよね。そのことを、この本はすごくコンパクトにまとめていて、10代くらいの若い世代の子にも読んでもらえる内容になっていると思います。特に学校社会で生活している思春期の子は、そういうことに直面しがちな時期なので、この本を手に取って読んでもらうことが助けになるんじゃないかと思います。
自分が傷ついたかどうかには敏感になれるけれど、自分が誰かを傷つけることに関しては無意識だったり、思いもよらないところで傷つけてしまうことがありますよね。そういうことを、この本を通して知ることが大事なのかなと思いました。
古本と新刊 scene
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今回ご紹介した『NHK出版 学びのきほん 傷つきのこころ学』などは、全国の書店、またNHK出版の特設ページでも展開しています。