仲間由紀恵さんインタビュー「私にとってはご縁しかないお話でした」|映画『STEP OUT にーにーのニライカナイ』
年齢を重ねてなお華やかさを失わず、確かな光を放つ俳優の仲間由恵さん。最新主演映画『STEP OUT にーにーのニライカナイ』が公開されます。彼女が演じるのは、昼夜の仕事を掛け持ちして子どもを育てる照屋朱音。ダンサーを夢見る息子の背中を懸命に後押ししようとするシングルマザーです。映画のこと、幼少期の宮古島での思い出。仲間さんに聞きました。
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掲載:2025年4月・5月合併号
なかま・ゆきえ●1979年生まれ、沖縄県浦添市出身。2000年、『リング0 バースデイ』で映画初主演。代表作に堤幸彦演出の「TRICK」シリーズや、「ごくせん」シリーズがある。最近の主な出演作は『ちむどんどん』『大奥season2 医療編』。
約10年ぶりの映画主演作は故郷の沖縄が舞台
「今回、堤監督からのオファーということで、しかも沖縄を舞台にした沖縄の家族の話で、その母親役でした。私にとってはご縁しかないお話で、〝ぜひに〞とお答えし、実現いたしました」
最新主演映画『STEP OUT にーにーのニライカナイ』への出演の経緯を、仲間由紀恵さんはそう振り返る。監督は「TRICK」シリーズ、舞台『テンペスト』で組んだ堤幸彦さんで、オール沖縄ロケを敢行。沖縄出身の仲間さんは双子の男の子の母親と、まさに〝ご縁〞のある作品。しかも映画の主演は、じつに約10年ぶりだった。
「その間にお話をいただいたこともありましたが、実現できなくて。久しぶりに映画に出られることもうれしかったです。またそれを、昔から沖縄や宮古島を好きでいてくださる堤監督に撮っていただけるのも」
仲間さんが演じるのは沖縄市コザで中学生の息子、踊(よう)とまだ幼い娘の舞と3人で暮らす照屋朱音(てるやあかね)。
「金銭的に厳しい暮らしのなか、それでもやるしかない!というどこか吹っ切れた強さを持っています。母親としてはもうちょっと……みたいなところもありますが、疲れてボロボロになって帰っても、みんなで協力してやっていこう!というサバサバした感じがある。私自身はシングルマザーではありませんが、自分のことは横に置き、〝とにかく目の前のことをこなさなきゃ、すべては子どもたちのために〞という思いにはとても共感できます。そうして朱音の事情、その気持ちに少しずつ寄り添っていきました」
息子の踊は口数の少ない妹の世話をし、家事も担う。そんな踊がダンスに興味を抱く。「レッスンに行ってみたら?」と言う朱音に背中を押されて向かったダンススクール。イキイキと踊るリサと出会い、甘酸っぱい思いを抱く。
「朱音はレッスン代として5000円を渡します。踊との会話は不器用過ぎて、何かと5000円を渡すんです(笑)。1000円でも1万円でもなく、5000円っていうのがなんだか堤監督らしくて。憧れたものになりたい!という息子の思いに打たれ、親として応援してあげたい、夢に向かって進む姿を見守りたいという、強い思いで寄り添う朱音の姿はすてきだなと」
でも「そんなふうに見守るのは難しい」と続ける仲間さん。その言葉には、子育て中の母親としての実感がこもる。
「子育てで気をつけなければいけないことは、たくさんあります。でも目の前で何か事が起きるとどうしても口が出るし、手伝おうとしてしまう。小さいころからお世話をしてきた〝お世話癖〞がついてしまっていて」
確かに、男の子2人が元気よく走り回っていたら、ついからだが動いてしまいそう。頭の中に、「こらこら」なんて言いながら小さい男の子を追いかけ回す仲間さんが浮かぶ。
「動きが速いし、ちっちゃいから何かと雑だったりするので危ないし。でも失敗しても、間違って何かを壊したり汚してもいい。黙っていようとしますが……まあ難しいです。こちらが鍛えられるというか、試されているよう」
まだ幼い子どもたちは、踊のように子育てや家事の一端を担ってくれるわけではない。
「それでもちょっとずつですけど、日々成長していくのを目の前で見られる。できなかったことができるようになることは、彼らの頑張りや努力と結び付いています。そう思うと、たくましくも頼もしくも思えて励まされますね。それは私にとっても、力になることで」
一方、その成長が親にとってうれしい悲鳴になることも。
「昔より、ごまかしがきかなくなってきます。こちらが言うことに対して、以前は素直に〝うん!〞と答えていたのが、なぜそういうことを言うのか? こちらの思惑がわかってしまうようになって(笑)。するとそこに噓があってはいけない。見破られても、ちゃんと理由があるという接し方をしないと」
年齢を重ねるにつれ、当たり前だけれど、コミュニケーションの取り方は変化する。
「こんなふうに考えながら話さなきゃいけないんだ……と。すると、じゃあ今までの自分は、こんなに深く考えながら人と会話できていただろうか?と。何も考えずに言葉を口にすることは少なくなった気がします」
しかも双子の男の子と対峙するには、それぞれの個性に合わせる必要がありそう。
「一人は元気がよくて明るくて。〝これをやろう!〞と促すと、〝ああ、いいね!〞とのってくれる。けれどもう一人は、素直に気持ちに入っていかないようで、無理やり進めようとすると時間がかかります。彼のスピードやリズムに合わせて、うまく誘導してあげています」
堤幸彦監督は雨を降らせる天才!?
映画の中の朱音も、一人の女性として、母として、明るくたくましく生きている。息子の踊は近くにいてその姿に触れながらも、幼さゆえにまだ本当にはわからないもどかしさを抱える。ある日2人は、美しい沖縄の海を前に、互いの本音をぶつけ合う。
「日常的にいっぱいいっぱいな朱音は、子どもの成長につれ、彼を理解できていない未熟さを感じて反省して。それでもわかってあげたいと、母親として一歩上へ行こうとする。それをなんとか言葉で伝えようとするシーンで、心を込めて演じました。ただ……そういう大事なシーンの日に限ってですね、堤監督は雨を降らせる才能があるんです。そこはもう天才で! 昔から、撮影初日に雨が降らなかった日はないくらいです。今回も雨雲を見ながら、ああ……だよねって(笑)。でも大事なシーンでしたから、雨ごときに負けられない!と空を見ていたら、晴れ間が見えてきて小雨になって。なんとか撮影できました」
そうして朱音という役柄を通して、中学生男子の母親を生きた仲間さん。親離れ子離れが、テーマの一つでもある。
「私自身はまだ実感が湧きませんが、とてつもない寂しさに襲われるのだろうなと。そこでどれだけぐっとこらえられるか。彼らは自分で選んだ夢を自力で歩きたいわけで、手を出してほしいわけじゃない。一歩を踏み出すことを応援してあげられる親になれるかどうか……。怖いけど、ちゃんとそうできる親でありたいなと思っています」
家事は作業を細分化。少しずつこまめに
仲間さん自身、仕事と子育てに忙しい日々。朱音には踊の手助けがあったけれど、自身はどうやって家事に取り組んでいるのだろう?
「いや、だからなかなかできないんです(笑)。この時間は家事をする、と決めてできないので、気づいたときにちょっとずつやるというのが私のやり方で。家中全部に毎日掃除機はかけられないけど、今日は5分だけ時間があるから洗面所回りとリビングとキッチンをやる。次の日は、本当はそこも毎日やりたいけど、昨日できなかった別の部屋をやるとか。歯がゆいですが、そうして分けてやったほうがまあ進むかなという感じで」
でも時間がない!ことはマイナス面ばかりではない。
「こまめにやると、疲れ過ぎない面もあります。時間があれば、ずっと片付けをしていたいんですよ。例えば棚なら全部を出し、いるものといらないものに分けてキレイにしまいたい。そんなことを考えるのが好きで。でもどうしても時間がかかります。好きなことばっかりやっていると、気づいたら疲れてしまうんです(笑)。掃除をすると、倒れるぐらいに疲れるじゃないですか」
それほど掃除に集中を!?と驚くが、なんでも真剣に、全力で取り組むのがこの人のやり方なのだろう。
「すっごく集中し、は〜疲れた!と、一日の体力をそこに注いでしまう。ウチにいるとずっと動いています。やらなきゃいけないことが止まらなくて。それで仕事の現場ではこうして座っている時間が長かったりするので、確実にからだは休まるんですよね(笑)」
思い出深い宮古島。サトウキビ畑の大冒険
「田舎暮らし、気になります。里山いいですよね。庭付きのおうちで菜園をつくったり、楽しそう」
そういう仲間さんの故郷は沖縄県浦添市。今回の映画のロケ地だったコザは「本土の方がイメージする戦後の、昔ながらの沖縄街という感じ」だが、それとは違った街並みだそう。
「那覇市の隣にある住宅地で、観光に来た方が素通りするようなところです。そこで生まれて育って。学校が終わって家に戻ると、また学校に戻って遊ぶみたいなことをずっとしていました。中学生くらいになると、学校が終わって海の近くに歩いていって遊んだり。やっぱり思い出深いまちです」
映画の中で、庭をのっそりと歩き回るリクガメが登場する。沖縄って、庭にカメが?
「普通は……いません(笑)。あれは堤監督のギャグかも。沖縄を知らないと、あれは本当?と思うような、ぎりぎりのところを狙われたのかもしれません。私もちっちゃいカメやウサギを飼っていましたけど」
沖縄には、今もまめに帰るそう。特に夏場、む〜んとむせかえる湿度の高さが好きとか。
「肌がむしっとする湿気の中で育ったので、あれが懐かしいんです。暑い中、汗をかきながら眠りたい。なんなら車の中で、エアコンを切って寝たい!と思うくらいで」
幼いころは祖父母の暮らす宮古島で夏休みを過ごした。
「当時、大きなサトウキビ畑があったんです。サトウキビって背が高く、大人が入っても迷子になるくらい。小学生だと、本当に迷子になります。出口がどこかわからなくなっちゃって、迷うのが冒険みたい。兄と一緒におばあちゃんの飼っていた、小さな雑種でしたけど、犬を連れて。お菓子を持って、探検だ!って。一日中そこで遊び、いよいよ出られない!みたいな焦りが出ると、〝おばあちゃ〜ん、どーこー?〞って(笑)」
まるで『フィールド・オブ・ドリームス』! 大きなトウモロコシ畑から伝説の野球選手が現れる映画のワンシーンのよう。
「本当に楽しいんですよ」、仲間さんは急に饒舌になる。
映画には琉球舞踊も登場する。沖縄では、生活に歌や踊りが根付いている。仲間さんにとってもなじみ深いもの。
「私が習っていたのは映画に出てきたものと近い流派、〝宮城流〞でした。ただ、沖縄にしか師匠がいなくて。ちょうど先日、この映画の取材で久しぶりにその師匠さんとお会いできました。またやりたいなあと思っているんですけど」
踊りとの出合いは、さかのぼって幼稚園児のころだった。
「家の向かいがまさに琉球舞踊の研究所、お稽古場で。毎日、音が流れてきました。それにつられて遊びに行くと、皆さんが練習なさってて。〝やりたいの?〞と聞かれ、〝やりたい!〞とそのまま通わせていただくようになりました。三線の音も心地いいし、音に合わせてからだを動かすのもいい。中学3年生くらいまで続けました。楽しかったんでしょうね」
そんな彼女にとって、沖縄で映画を撮るのは夢の一つでもあったそう。映画のタイトルにある〝ニライカナイ〞は理想郷のこと。夢をまた一つかなえ、俳優として、母として、これからもその先へと進んでいく。
『STEP OUT にーにーのニライカナイ』
(配給:ギャガ)
●監督:堤幸彦 ●共同監督:平一紘 ●脚本:谷口純一郎 ●出演:仲間由紀恵、Soul、又吉怜音、伊波れいり、松田るか、津波竜斗、内田樹、蘆礼欧、玉城敦子、城間やよい、津嘉山正種、橘ケンチ(EXI LE)ほか ●3月7日(金)より沖縄県先行公開、3月14日(金)より全国公開
©「STEP OUT」製作委員会
シングルマザーの照屋朱音(仲間由紀恵)は息子の踊(Soul )、その妹の舞(又吉怜音)と3人暮らし。踊はダンススクールでリサ(伊波れいり)と出会い、ダンスに夢中になっていく。踊は沖縄出身の音楽プロデューサー、HIROKI(橘ケンチ)によるダンスオーディションに、リサとペアで出場しようとするが…。
文/浅見祥子 写真/鈴木千佳
ヘアメイク/杉田和人(POOL) スタイリスト/十川ヒロコ(THIS)