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ロロ・ピアーナ、100年の歩み

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ロロ・ピアーナ、100年の歩み

イタリアの名門、ロロ・ピアーナは昨年、創業100周年を迎えた。人々とテキスタイルの関係を根本から変えてきたこの老舗の歩みを、ここで振り返ってみたい。

authornick scott

錬金術のごとき生地作り

 原毛を紡ぎ、一本の糸にし、やがて美しい衣服へと仕立て上げる——ロロ・ピアーナのものづくりは、まさに錬金術に等しい。

 この春、上海の浦東美術館では、創業100周年を記念した展覧会「If You Know, You Know. Loro Piana’s Quest for Excellence」が開催された。6世代にわたるファミリーの歴史を辿るこの展覧会は、3つのギャラリーと15室、総面積1,000平方メートルに及ぶ大規模なものだった。

 キュレーションを手がけたのは、ファッションとミュージオロジー(博物館学)の教授ジュディス・クラーク。展示は「没入型」と呼ばれるスタイルで、来場者は驚きに満ちた体験を繰り返すことになる。

 たとえば「The Landscapes」では、カシミヤやビキューナといった希少繊維の故郷——アンデス、中国、ニュージーランド——の風景が描かれ、標高や湿度など環境が繊維に及ぼす影響が解説されていた。「Cocooning Room」では壁一面が柔らかなカシミヤで覆われ、触感への飽くなき探究を体現していた。

 さらに、アトリエの舞台裏を紹介する映像や、かぎ針編みのバルーンドレス、シーラ・ヒックスやアドリアナ・ムニエによるアート作品など、多彩なインスタレーションが来場者を魅了した。

ピエモンテから世界へ

 メゾンのルーツは、イタリア北部ピエモンテ州。ここでは何世紀もの間、羊飼いたちが羊毛を紡ぎ、清流で洗い、栗で染め、地元の木材で組んだ織機で布を織り上げてきた。

 創業者一族のピエトロ・ロロ・ピアーナは20世紀初頭、ヴァルセージア渓谷に機械化工場を設立。1930年代には、当時ファッションの定番であったストライプ地を中心に高品質なウール生地を生産するようになった。

 その後、甥のフランコが登場する。技術に精通し、鋭いファッション感覚を備えた彼は、戦後の楽観的な空気の中で「このテキスタイルはパリの高級メゾンにふさわしい」と確信。メゾンをラグジュアリー路線へと導いた。1970年代には、ブナの木とイヌワシ、ふたつの星を描いた紋章が、高級生地の象徴として広く知られるようになった。

 さらにフランコは、聖職者の衣服に着想を得て、タスマニア産の17ミクロンという超極細ウールを最新技術で紡ぐことを思いつく。1970年代後半に誕生した「タスマニアン」は、快適かつ万能で全天候に対応する画期的な生地として、ロロ・ピアーナを世界的メゾンへと押し上げた。

セルジオとピエール・ルイジ・ロロ・ピアーナ

 フランコの死後、メゾンは息子のセルジオとピエール・ルイジが継承した。兄セルジオはスタイル感覚に長けたファッションアイコンであり、弟ピエール・ルイジは世界中から最高の素材を見極め、調達し、加工する才覚に恵まれていた。

 ふたりはアンデス高原を訪れ、古代インカ皇帝のための繊維とされた伝説のビキューナを調査。平均12.5ミクロンという驚異的な細さと体温調節機能を持つこの繊維は、1994年、保護活動によって種の存続が確保されたのち、ついに製品化された。

 1980年代初頭には完成品の製造へと進出。第一弾はカシミヤ製フリンジスカーフ「グランデ・ウニタ」だった。その後も名品は次々と生まれた。

 1992年には、イタリア馬術オリンピック代表チームが着用した「ホーシィー®」ジャケット。1996年、防水防風機能を備えた「ストームシステム®」加工を施したカシミヤ製スキー・ジャケット「アイサー」。 2003年、伸縮性のある袖口と、ツーウェイジップを備えた「ボンバー」。 2007年、探検家の服装を彷彿とさせながら都会的に仕上げた「トラベラー」ジャケット、などである。

「ストームシステム®」を使った生地の広告。

生地革新の系譜

 ロロ・ピアーナは独自の革新で新素材を次々と発表してきた。

「ロータス・フラワー®」は、ミャンマー・インレー湖の蓮茎から採取した繊維で織られる生地で、たった1mを織るのに約6,500本の蓮の茎が必要である(しかも採取後24時間以内に木製の織機で織り上げねばならない)。

「ベビーカシミヤ」は、生後12か月未満のヒルカス山羊の下毛を使った、バターのように柔らかな素材。

「ペコラ・ネラ®」は、ニュージーランドのブリーダー、フィオナ・ガードナーの飼育によって実現した、無染色ながら豊かなダーク系の色合いを持つ羊毛。

「ザ・ギフト・オブ・キングス®」は、12ミクロンという細さを誇るメリノ羊毛(18世紀にスペイン国王がザクセン選帝侯へ贈った逸話にちなんで命名された)など枚挙に暇がない。

テキスタイルを超えた歩み

 ロロ・ピアーナはテキスタイルに留まらず、数々の活動で存在感を示してきた。スポンサーを務め、ピエール・ルイジが自らのヨット「マイ・ソング」で出場したポルト・チェルボで開催されたロロ・ピアーナ・スーパーヨット・レガッタ。2008年にペルーに設立された、ビキューナの保護と地域社会の支援を目的とする「ドクターフランコ・ロロ・ピアーナ保護区」。

 ロロ・ピアーナ・カシミヤ・オブ・ザ・イヤー賞の創設。ミラノ・デザインウィークでのロロ・ピアーナ・インテリアの発表。100周年を記念してハロッズの外観を彩った「ワークショップ・オブ・ワンダーズ」などが代表的である。

物語はいまも続く

 THE RAKEのコントリビューティング・エディターであり世界的作家のニック・フォルクスが記した『Master of Fibres』も昨年刊行されたばかりだ。ロロ・ピアーナの100年にわたる豊かな物語をさらに知りたい人に強く勧めたい。この本が示すもっとも重要な教訓は、ロロ・ピアーナの物語が現在進行形であるという事実である。

優れた素材と機能性でロングセラーを続けるロロ・ピアーナの定番商品。左:「アイサー・ジャケット」¥ 976,800 右:「ボンバー・ジャケット」¥ 432,300 both by Loro Piana

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