中谷潤人の4団体統一を阻むWBAの愚行…ブランク2年のドネアが暫定王座決定戦へ
堤聖也が休養王者となり、バルガスが正規王者に昇格
プロボクシングのWBC・IBFバンタム級王座統一戦が8日、東京・有明コロシアムで行われ、WBC王者・中谷潤人(27=M.T)がIBF王者・西田凌佑(28=六島)に6回終了TKO勝ちし、2団体統一王者となった。
バンタム級は先日まで主要4団体を日本人王者が独占しており、日本人同士の統一戦はファン待望のカードだった。1階級上の井上尚弥(大橋)と来年5月に対戦することが既定路線で、パウンド・フォー・パウンドに名を連ねる中谷と堂々と対峙し、堅いガードと射るようなボディブローでダウンすることなくリングを下りた前IBF王者に、まずは敬意を表したい。
パワーの違いを見せつけた中谷なら4団体統一も難しくないと見られるが、来年5月の井上戦から逆算すると、この試合を最後にバンタム級を卒業する可能性が高そうだ。なぜならWBO王者・武居由樹(大橋)は秋に同級1位クリスチャン・メディナ(メキシコ)との指名試合を受けねばならず、WBAはさらに話がややこしくなっている。
WBA王者・堤聖也(角海老宝石)は2月に比嘉大吾(志成)と引き分けて初防衛に成功したが、左目のケガでしばらく試合をできないため「休養王者」となった。これに伴い、暫定王者だったアントニオ・バルガス(アメリカ)が正規王者に昇格。バルガスは現WBA3位の比嘉と防衛戦を行い、その勝者が堤と王座統一戦を行う方向という。
中谷以外のバンタム級王者は今後の予定が詰まっていて、クリアすべき仕事が多いのだ。中谷に4団体統一する実力があり、本人がそれを望んでも、統一戦を組めなければどうしようもない。
WBA総会開催中に暫定王座決定戦
暫定王者とは本来、ケガなどで王者が防衛戦を行えない場合に設置される、文字通り暫定的な王者。しかし、堤は2024年10月に井上拓真(大橋)に判定勝ちして王座を獲得し、4カ月後に初防衛戦を行っている。
それにもかかわらず暫定王座が設置されたことが、まず不可解。当時WBA1位だったバルガスは同級9位ウィンストン・ゲレロ(ニカラグア)に10回TKO勝ちして暫定王座を獲得した。
暫定王座決定戦の開催地はなんと、WBA総会開催中のアメリカ・フロリダ州オーランド。世界のボクシング関係者が集まる総会の目玉イベントとして開催されたことは想像に難くない。「興行優先」と批判されても仕方ないだろう。
そして、堤が休養王者になると、バルガスは労せずして正規王者に昇格。世界のベルトは王者に勝って手に入れるものだが、これではまるでサラリーマンの人事異動だ。
さらに7月と噂される防衛戦の相手は比嘉大吾。フライ級時代に日本タイ記録の15連続KO勝ちをマークしたハードパンチャーだが、ここ2戦は武居に判定負け、堤とドローと世界にあと一歩届かない試合を続けている。
それでも3試合連続で世界戦のリングに上がれるのは喜ばしいことである半面、WBAや王者サイドが今や「金のなる木」となった日本のバンタム級戦線に目を付けたからではないかと勘繰りたくなる。世界タイトルマッチを行うには統括団体に承認料を支払う必要があり、WBAとしては試合が多ければ多いほど潤うのだ。
また、ルイス・ネリ(メキシコ)が日本で5試合を行う契約に合意したという報道もあった。世界トップクラスのボクサーが多い日本の軽量級戦線は、テレビから動画配信に移行して以降ファイトマネーも上昇しており、海外選手から垂涎の的になっている。
「世界バンタム級王者」は何人いるのか?
そして、さらに不可解なのが井上尚弥に2度敗れた元5階級王者ノニト・ドネア(フィリピン)が6月14日にアルゼンチンでWBAバンタム級暫定王座決定戦に出場すること。休養王者に堤、正規王者にバルガスがいて、両者とも今後の試合予定が決まっているにもかかわらず、まだ暫定王座を設置するのは理解に苦しむ。
そもそもドネアは井上に2回TKO負けした後、2023年7月にアレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)に敗れ、それ以降はリングに上がっていない。5階級制覇し、マニー・パッキャオに次ぐフィリピンのスーパースターとしての実績は揺るがないが、2年近くもブランクのあるボクサーが突然、WBAバンタム級5位にランキング入りし、同級8位アンドレス·カンポス(チリ)と暫定王座を争うのだ。
仮にドネアが暫定王座に就けば、その後も数多い日本人ボクサーとの試合が組める。那須川天心(帝拳)もバンタム級で世界挑戦目前だ。ドネアは日本でも知名度が高く、中谷が4団体統一して試合数が減ることに比べると、興行的な旨みは雲泥の差だろう。
しかし、ベルトの安売りはボクシング界全体にとってマイナスだ。中谷という強い王者がいるにもかかわらず、バンタム級だけで「世界王者」が何人いるのか。
大昔なら世界王者になれば国民的ヒーローだったが、今は世界王者になっても知名度は上がらない。苦しい練習に耐え、あらゆる犠牲を払ってリングに上がるボクサーに罪はない。統括団体が自ら権威性を失墜させるような愚行はやめ、襟を正さなければならない。
【関連記事】
・マニー・パッキャオが現役復帰へ…危険伴う唐突な世界戦に批判も
・井上尚弥は衰えたのか?カルデナス戦をデータ検証、KO期待されるハードパンチャーの宿命
・佐々木尽が挑戦する世界ウェルター級王者ノーマンJrが早くも来日、36年ぶり注目の大一番
記事:SPAIA編集部