管理栄養士の年収はどう決まる?学歴と職場別の収入傾向からキャリア戦略を考える
管理栄養士は、厚生労働大臣から免許を受ける国家資格であり、栄養のプロフェッショナルとして栄養指導・管理をおこなう専門職です。活躍の場は多岐にわたり、病院や介護施設、学校、企業など幅広い職場で活躍しています。そんな管理栄養士の年収は、果たしてどの程度なのでしょうか。
本稿では、統計データをもとに、管理栄養士の年収傾向を深堀りしていきます。
管理栄養士の年収は?
管理栄養士・栄養士の平均年収は約379万円
厚生労働省が実施した「賃金構造基本統計調査」(2022年)によると、栄養士・管理栄養士の平均年収は379万円です。
一方、国税庁の「民間給与実態統計調査」(2022年)では、給与所得者の全産業平均年収は男性が563万円、女性が314万円、男女計で458万円と報告されています。
このデータを比較すると、管理栄養士・栄養士の平均年収は、全職種の平均よりもやや低い水準にあるようにも見えます。
ここで見落としがちなのが男女比です。
実は管理栄養士・栄養士は圧倒的に女性が多く、男性1:女性9であるとも言われています。これを勘案し、女性の全産業平均年収314万円と比較した場合、栄養士・管理栄養士の平均年収379万円は高水準であるといえるでしょう。
栄養士と比べても、管理栄養士の年収優位性は限定的
ここで気になるのが、同じ栄養の専門家である栄養士と比べて、管理栄養士の年収はどうなのかという点です。
神奈川県立保健福祉大学の中村丁次教授らが実施した「管理栄養士の学歴及び職域と年収に関する疫学調査」によると、主たる業務に必要とする資格が栄養士である者と管理栄養士である者の年収中央値に統計的に有意な差は見られなかったとのことです。
管理栄養士は、栄養士に比べてより高度な専門知識が求められる国家資格です。栄養士の資格取得後、実務経験を積んだうえで国家試験に合格する必要があります。しかし、意外にも年収面での優位性はそれほど大きくないようです。
年代別の年収カーブは緩やか。50代でピークを迎える
では、管理栄養士の年収は年代によってどのように変化するのでしょうか。
調査結果を見ると、管理栄養士の年収は年代とともに上昇する傾向があることがわかります。
具体的には、20歳代の年収中央値が250万円、30歳代が350万円、40歳代が450万円と徐々に上昇し、50歳代でピークの550万円に達します。60歳代では再び450万円に下がりますが、定年に近い年代であることを考えると自然な傾向と言えます。
他の職種と比べると、管理栄養士の年収カーブはやや緩やかな印象です。バリバリとキャリアを積んでいくタイプの職業ではなく、コツコツと経験を積み重ねていくことが求められる仕事なのかもしれません。
学歴が管理栄養士の年収に与える影響
大学院卒の年収が突出。博士課程修了者の年収中央値は650万円
次に、管理栄養士の学歴と年収の関係について見ていきましょう。
先述の調査結果を見ると、学歴による年収の差は大学院卒になると顕著に現れてきます。
専門学校卒、4年制大学卒の管理栄養士の年収中央値はいずれも350万円です。
ですが、大学院進学者の場合、博士課程修了者の年収中央値は650万円、修士課程修了者も450万円と、かなり高い水準となっています。
大学院で研究に打ち込み高度な専門性を身につけていること、また、年収中央値が高いと思われる研究職に進む者が多いことが年収差に影響を与えていると思われます。
栄養士・管理栄養士を目指す学生にとっては、大学院進学も一つの選択肢と言えそうです。
短大卒の管理栄養士が「4大卒より高年収」に見える理由
面白いことに、短大卒の年収中央値は4大卒よりも高い450万円となっています。学歴を求めた結果、かえって年収が下がっているというのです。これはなぜなのでしょうか。
ここで注目すべきなのは、それぞれの平均年齢です。
短大卒の管理栄養士の平均年齢は47.0±8.6歳、4大卒は34.9±10.2歳であり、短大卒の方が10歳以上年上であることがわかります。
つまり、最終学歴が大学までの場合は学歴による年収差は発生せず、年齢や経験年数によるところが大きいという可能性が示唆されているのです。
職場が管理栄養士の年収に与える影響
研究・教育職の年収が最も高い
管理栄養士の年収を左右するもう一つの大きな要因が、職域です。
先述の調査では、職域別の年収中央値も明らかになっています。
それによると、最も年収が高いのは大学などの研究・教育職で、年収中央値は550万円でした。次いで、小中学校の栄養教諭などが含まれる食育・教育職と、行政が450万円と続きます。
大学や研究機関は、高い専門性を持つ人材を必要としており、それが高い報酬につながっているのかもしれません。一方、教育分野の管理栄養士は、学校という公的機関で働いていることから、安定した収入を得られているものと推測されます。また、行政で勤務している場合も、公務員の給与テーブルに乗るため、比較的年収が高く出ているのでしょう。
なお、趣味や副業等として勤務されているケースも多いと思われるフリーランスを別とすると、医療、福祉、給食、企業など、その他の職域においては、いずれも年収中央値は350万円。職域による差異は見られない状況でした。
なお、給与には職場規模も大きく関わってくるようです。
「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、企業規模が10~99人の栄養士・管理栄養士のきまって支給する現金給与額(月々支給される給与の総額)は約25.1万円。これが100~999人規模になると25.6万円、1000人規模になると26.2万円に上がります。
つまり、職場規模が大きければ大きいほど、給与額が上がる傾向にあるといえるのです。
管理栄養士の年収アップのためのキャリアプラン
まずは経験を積もう。年功序列の影響は無視できない
以上、管理栄養士の年収の実態を詳しく見てきました。
それでは、管理栄養士が年収アップを目指すためにはどのような戦略が考えられるでしょうか。
まず、年功序列の影響は無視できないと言えます。先述の通り、管理栄養士の年収は年代とともに着実に上昇していく傾向にあります。
日本の雇用慣行では、年功序列の考え方が根強く残っています。そのため、管理栄養士として経験を積み重ねていくことが年収アップの近道と言えそうです。
もちろん、「何もしなくても、経験年数が長くなれば必ず給料が上がる」という認識でいるのは大きな誤り。日々の仕事の中で着実にスキルを高めていく必要があるのは間違いありません。
余談ですが、管理栄養士の仕事はAI(人工知能)に代替されにくいともいわれています。オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授の研究によれば、全702種類の職業のうち、管理栄養士・栄養士の職業代替性の低さは11位であったとのこと。人が人らしく生きていくために必要な仕事であり、今後も将来性の高い仕事であるといえます。さらに年収アップを目指して専門知識を深めていきましょう。
高学歴を目指す価値あり。大学院進学で年収アップのチャンス
次に、学歴についても考えてみましょう。
先述した調査結果からは、大学院卒の、特に研究職に就いた管理栄養士の年収の高さが明らかになりました。
特に修士課程以上の大学院教育は、専門性の高い人材を育成する場と言えます。研究職を目指すなら博士号の取得が必須になりますし、病院などの現場でも、修士号を持つ管理栄養士は重宝される存在と言えるでしょう。
大学院に進学するには、時間も費用もかかります。しかし、長期的なキャリアを考えれば、大学院の学位を取得することは年収アップの大きなチャンスになるといえそうです。
プラスアルファで資格を取得する
管理栄養士の資格を持っているだけでも、専門性の高い職種だと言えます。しかし、さらに専門分野の資格を取得することで、キャリアアップを目指すことができるでしょう。
例えば、糖尿病療養指導士や腎臓病療養指導士などの資格は、病院などの医療機関で重視されます。サプリメントアドバイザーや健康食品管理士などの資格は、企業で役立つ可能性があります。
資格はスキルや知識の証明になるので、取得すれば、転職時にアピールできます。将来のキャリアプランに合わせて、戦略的に資格を取っていくのも一つの方法だと言えます。
給与水準の高い職場に転職する
管理栄養士の職域は多岐にわたるため、職場による年収の差は小さくありません。そこで、年収アップを目指すなら、より給与水準の高い職場に転職するという選択肢もあります。
先述の調査結果からは、研究職や教育職、行政などが比較的高い年収水準にあることがわかりました。また、医療機関や福祉・介護施設などの場合も、企業規模の大きい職場を選ぶことでより高水準な収入を得ることが可能になります。
仕事のやりがいや、ワークライフバランスなども考慮に入れつつ、転職を検討するのも一つの手段であるといえます。
公務員になる
管理栄養士の中には、行政の職員として働く人もいます。保健所や市町村の健康増進課などが代表的な職場でしょう。
公務員の仕事は、一般的に民間企業と比べて給与水準は低めです。しかし、その分、仕事が安定しており、福利厚生も充実しています。また、経験年数を重ねるごとに、着実に昇給していくのが公務員の特徴です。
全国の自治体で管理栄養士の採用が行われているので、公務員試験の勉強を始めるのもよいかもしれません。地域の健康を支える仕事にやりがいを感じる人に向いている職場だと言えます。
まとめ:管理栄養士のキャリア選択はどうすべき?
管理栄養士の平均年収は、全職種平均の458万円よりはやや低い379.1万円でした。しかし、男性1:女性9という男女比を勘案した場合、女性のみの全職種平均よりも高水準であることは間違いありません。
職場による年収のばらつきは大きく、職域では研究職や教育職は高め、医療機関や福祉施設は平均的という傾向がみられました。職場規模では大きければ大きいほど年収は上がる傾向にあります。
ただし、年収はキャリア選択の一つの指標に過ぎません。管理栄養士・栄養士は、人々の健康を食の面からサポートする、やりがいのある仕事です。職域によって、アプローチ可能な対象・方法が大きく異なってくるためご自身にしっくりくる職場を見つけることが大切です。
例えば研究職の場合、新しい食材の栄養価を分析したり、特定の栄養素が人間の健康に与える影響を調査することが主な仕事です。研究成果が学術誌に掲載されたり、新しい食品やサプリメントの開発に貢献することが大きなやりがいとなることでしょう。
その一方で、介護施設における管理栄養士は、高齢者一人ひとりの健康状態や嚥下能力に合わせた食事プランを作成し、栄養状態の改善を図ることが主な役割です。利用者の栄養状態が改善されたときや、食事を楽しんでいる様子を見ることは大きな喜びとなります。また、日々の小さな変化を見守りながら、それに応じた食事提供ができることにやりがいを感じることができるはずです。
また、学校や企業、病院などで提供される給食サービスにおける管理栄養士は、大人数の食事を計画・管理します。特に、子供たちや患者さんが健康を維持し、成長するためのサポートを行うことは大きな責任ですが、それに伴う充実感は非常に大きいです。また、多くの人々に直接的に触れ合う機会があり、食事を通じてその生活や健康にポジティブな影響を与えられる点が魅力的です。
単に年収の高さだけでなく、自分の価値観に合った働き方を見つけることが何より大切だと言えるでしょう。