学芸員が見どころを解説【中秋の名月】2024年は9月17日、土星との共演も【富山市科学博物館で特別観察会】
1年のうちで月がもっとも美しく見えるという、中秋の名月。月を愛でると同時に、秋の収穫にも感謝するという習わしで、平安時代に中国から伝わって以来、今でも日本各地で大事に続けられています。
富山市科学博物館では、毎週土曜の夜に望遠鏡や双眼鏡を使って星を観察する観察会を行っていますが、2024年の中秋の名月となる9月17日(火)には、特別観察会を行います。
晴れていれば月は県内どこからでも見ることができますが、望遠鏡での観察や撮影に加えて、月にまつわる学芸員の解説を聞くこともできます。
ひと足早く、中秋の名月を楽しむポイントを教えてもらいました。
そもそも“中秋の名月”って何?
中秋の名月とは、旧暦8月15日の月のこと。
月が1年でもっとも美しく見える時期であることから特別な存在として愛でる風習が生まれ、同時に秋の収穫に感謝を捧げます。日本には平安時代に中国から伝わったとされていて、供え物をして月見をする習わしは今でも日本各地で行われています。
ちなみに、旧暦は月の満ち欠けが基準となっていて、朔(新月)となる日をその月の1日(ついたち)として数えます。そのため、三日月は3日、十五夜は15日…と、暦の日付と月の満ち欠けに対する呼び名が一致します。
また、暦の上で秋は7・8・9月のことを言うため、8月15日は秋の真ん中ということで「中秋」と呼ばれるのです。
似た言葉に「仲秋」というものがありますが、こちらは旧暦の8月全体をさす言葉です。そのため、8月15日の月のことを「中秋の名月」とは言いますが、「仲秋の名月」とは言いません。
十五夜でも満月とは限らない
中秋の名月のお月見と言うと、満月を思い浮かべる人も多いでしょうが、実は必ずしも満月になるわけではありません。2024年の中秋の名月は9月17日(火)ですが、満月となるのは翌日の9月18日(水)です。
これは、月が地球の周りを回る軌道が円軌道ではなく、わずかに楕円軌道だから。そのため、新月から満月までの日数は13.9~15.6日と1日以上の幅があります。そのため、旧暦の15日=「新月から15日目」でも、満月ではないことがあるのです。
また、1日の朝に新月を迎えるか、夜に新月を迎えるかによって、旧暦15日の月齢は変わります。旧暦15日の月が満月となる条件は、これらの両方が重なる場合で、それ以外は満月にはならないのです。
富山市中心部で見えるのはいつ?
月の出は17:36~月の入り 明朝5:18
9月17日(火)の月の出は、富山市中心部のあたりで17:36。
ですが、実際には立山連峰があるので、見え始めるのはその約20分後です。
月の入りは、明朝5:18。こちらも西側に山があるため、もう少し早く見られなくなります。
満月は翌日の9月18日(水)ですが、17日もほぼ丸い月を見ることができます。
“中秋の名月” 富山でならではの楽しみ方は?
2024年の中秋の名月は、満月の1日前なので、月の出の時刻にはまだ空や地形が明るく見ることができそうです。そのため、月の出を撮影すると、山並みと一緒に撮影できる可能性があります。
特に、富山市中心部から見る場合、東に立山連峰があり、月はその山並みから昇ってくることになります。
上の写真は、2013年9月19日に撮影した中秋の名月ですが、名峰剱岳との共演は富山ならでは。県内では見る場所によって月が出てくる山が違います。場所を選べば、剱岳から昇る満月「パール剱」を愛でることもできます。
富山市科学博物館の特別観察会
特別観察会「中秋の名月」
開 催:9月17日(火)
時 間:19:30~21:00※開催時間内は自由に参加できます
場 所:富山市科学博物館前
参加費:無料
注意事項
※小学生以下は保護者同伴
※車は、北側駐車場を利用してください。城南公園南側駐車場(旧近代美術館横) は17:00に閉鎖
会場・受付ともに富山市科学博物館前。特に事前予約などは必要ありません。
体温調節できる服装や害虫対策などをしておでかけください。雨やくもりの天候で月が見えないときは、館内でスライドや写真を見ながら解説を行います。
月の模様は何に見える?
満月の時はクレーターの凸凹した様子が見えないので、低倍率の望遠鏡や双眼鏡を使い、月全体を楽しみます。低倍率といっても約50倍。肉眼で見るのとは違い、明るくて大きな月の美しさにきっと驚くはず。
さて、満月の日に注目してほしいのは、月の模様です。
日本では「ウサギが餅つきをしている様子」とたとえられますが、ロバやカニ、吼えるライオン、髪の長い女性など、世界各地の国や地域によって見え方は違うようです。
先入観を持たずに見てみると、また違う姿が浮かびあがってくるかもしれません。
アポロ11号が着陸した場所は、ウサギの頭あたり「静かの海」
人類が史上初めて月面着陸したのは1969年のこと。着陸した場所は、ウサギの模様の顔の部分、「静かの海」です。
アポロ11号から始まり、1972年のアポロ17号までに計6回、12人が月に降り立ちました。アポロ計画後、月では無人探査が行われてきましたが、アメリカが中心になって進めるアルテミス計画で再び、月面への有人着陸が計画されています。現在のところ、その日程は2026年9月。日本人の着陸も予定されています。
望遠鏡をのぞきながら、月に降り立つ宇宙飛行士の気分を想像してみるのもいいかもしれません。
いつもは控えめ!満月の時だけ存在感を示すクレーターとは?
満月のころはクレーターの凸凹が見えないと言いましたが、実はひとつだけ目立つクレーターがあります。「ティコクレーター」という名前で、ミカンのヘタみたいなクレーターです。
これは比較的新しいもので、いつもは他のクレーターに比べて存在感が大きくありませんが、満月の時はそこから四方に線がのびた姿をしていて、たいへん目立つのが特徴です。ぜひ注目してみてください。
2024年は土星の環がほぼ真横から見える15年ぶりのシーズン
2024年は、中秋の名月のそばで輝く土星にも注目しましょう。
土星が月のすぐ上、月の上の縁から月の直径分ほど離れたところに見えるはずです。
1時間ほど見続けると、だんだんと距離が離れていくのがわかるでしょう。これは、月が地球の周りをまわっていて距離が近いのに対して、土星は離れているため、見える位置がどんどん変わっていくからです。
そして、2024年は、土星の環を横から見ることができる15年ぶりのシーズンでもあります。
図鑑などでよく見るように、串刺しの団子のような姿の土星を見ることができます。完全に真横から見えるときには環が見えなくなるので「環の消失」とも呼ばれますが、決して環が本当になくなるわけではありません。望遠鏡で見ると、とても細くにみえますよ。
ちなみに、土星の環は、土星の公転軌道面から26.7度傾いています。土星はその傾きを保ったまま、太陽のまわりを約30年かけて1周します。2024年は、中秋の名月と土星の共演を見ることができる貴重な機会になりそうです。
中秋の名月をスマートフォンで撮影
観察会で人気の「スマートフォン撮影会」では、望遠鏡ののぞき穴にスマートフォンのカメラレンズを合わせて月を撮影することができます。
下の写真はどちらもスマホで撮ったもの。美しい名月をスマホに収めて帰るのもオススメです。
おまけ:2024年のスーパームーンは…10月17日
スーパームーンは、天文学的な定義があるわけではありませんが、近年は「1年のうちでもっとも大きく見える満月」という意味で使われることが多くなりました。
月の軌道は楕円のため、地球との距離が近づく時と遠ざかる時があります。
月が地球からもっとも遠い時ともっとも近い時を比較すると、直径で14%ほど大きくなり、明るさで30%ほど明るくなります。ただし、満月の大きさは徐々に変わっていくため、肉眼でその大きさを実感することは難しいそうです。
ちなみに、2024年でもっとも満月が大きく見えるスーパームーンは、10月17日(木)で、視直径33.4′(距離35.737万km)です。
おまけ②:月まで3km!? お手軽に楽しめる月旅行
天文ファンや地理ファンの方はご存知かもしれません。
静岡県浜松市の県道360号には、ある道路案内標識があります。
それが、「月 3km」。
宇宙ロマンを掻き立てるユニークな看板かと思いきや、浜松市天竜区に実際にある「月(つき)」という地名までの距離を示した正式な案内標識です。想像力が豊かな人ならちょっとした月旅行も楽しめそうな地名ですよね。
富山市科学博物館では、この「月」を舞台にした小説『月まで3キロ』の作者で元富山大学助教の伊与原新さんのトークショーが9月23日(月・振休)に開催されます。作品に登場する科学の話題をプラネタリウムのドーム映像と一緒に楽しむことができますよ。
写真提供:富山市科学博物館
記事編集:nan-nan編集部
【富山市科学博物館】
住所 富山県富山市西中野町1丁目8-31
営業時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)