悠々自適な楽園! 都内で人口最少の市・羽村さんぽのおすすめ7スポット。幸福なコンパクトシティ、ここにあり
「動物園と玉川兄弟だけでしょ?」。地元の人もそんなふうに言う心もとない羽村(はむら)。東京で最も人口が少なく(約5万4000人)、面積も3番目に小さい市。だが、それがどうした。理想郷はここにある。
ほのぼのアニマル大集合!『ヒノトントンZOO 羽村市動物公園』
日本初の町営動物公園として1978年に開園。雑木林のある園内には約60種類の動物が展示される。2024年に赤ちゃんが生まれたレッサーパンダやアメリカビーバーが人気だが、約120匹もいるモルモットや、キリンやシマウマが共存する「サバンナ園」にもご注目。飼育員お手製の説明板やオブジェも楽しい。
入園料500円。
9:00~16:00(3~10月は~16:30※最終入園は閉園30分前)、月休(祝の場合は開園)。
☎042-579-4041
地域に開かれた気軽な居場所『FLAT BASE 羽村』
築56年の二軒長屋に開かれたレンタルスペース&セレクトショップ。「地域の人がふらっと立ち寄れる居場所を」と地元リフォーム会社が2023年に始めた。心と体の健康をテーマに、土を使わない植物のハイドロカルチャーや選りすぐりの発酵食品、さらにオリジナル商品として「日本酒はむら」の酒粕を使ったグラノーラ「発酵のめぐみ」も販売。
10:00~17:00、日・月・祝休。
☎042-554-2239
出合いであふれる憩いの場『Cafe kukutana(カフェ ククタナ)』
ステンドグラスの大きな窓から陽が注ぐ、2023年オープンの一軒家カフェ。コーヒー豆も、トーストの食パンも、ケーキも地元のお店から集結。お客さん同士もここで仲良くなったり、手話の会が開かれたりと、モノも人もいい出会いであふれている。「店名は大好きなスワヒリ語の言葉で“出会い”という意味です」と店主の水嶋恵子さんに聞いて納得。
11:00~18:00、水・木・金のみ営業。
☎042-533-4468
アメリカンの中に意外な味『アメリカンダイナー ラ・ブーム』
1983年に立川で創業したレストランが羽村に移り、ハワイアンカフェを経て2022年、駅前へ移転リニューアル。店主・立石賀彦さんがあこがれた1950~60年代のアメリカを再現したという店内で味わえるのは、バーガーやピザだけでなく異色のパスタラーメンも! 手打ち生パスタにトマトクリームスープがからみ、ベーコンと野菜のソテー、岩ノリが絶妙にマッチする。
11:00~21:40LO、無休。
☎042-533-4548
羽村が誇るスーパーなスーパーマーケット『福島屋 本店』
産地直送の有機野菜に自然栽培の米、化学添加物不使用の自社製造ハム、自家焙煎コーヒーなど、おいしさのために素材を重視した食品でいっぱい。オリジナル商品も300あるという、1980年羽村生まれのスーパーだ。総菜もみな、販売商品を使って店内で手作り!「同じ食材が揃うのでご家庭でも再現できますよ」と店長の安永智哉さん。
10:00~20:00、無休。
☎042-554-0137
時間を忘れて楽しみたい喫茶と雑貨『ハコノカフェ』
アンティーク家具や装飾品に囲まれた、まるで骨董店のような空間。「時間がゆっくり流れるような落ち着いたカフェを」と鹿子木(かのこぎ)夕子さんが2011年に始めた。深煎りのコーヒーに、バナナとミルクだけで作るバナナジュース、無糖のチャイやココアなど、シンプルな味わいにほっとする。地元の作家による一点モノなど、雰囲気のある雑貨も販売。
13:00~17:00(土は14:00~18:00)、日・月・祝休。
☎042-579-1919
東京西限の専門店(かも)⁉『ふなとみ佃煮店』
中野生まれで平成元年(1989)から羽村で営む創業53年(2025年時点)の佃煮専門店。「立川より先ではうちみたいな店はないんじゃないかな」と2代目の遠藤恒之さん。佃煮はくるみ魚や川エビ、葉唐辛子、きゃらぶきなど約30種類。季節の総菜やみがきにしん、浜名湖の青板のりで作るのり佃煮も絶品。50gから購入可。
10:00~19:00、日・祝休。
☎042-554-0318
コンパクトシティの理想郷は羽村なのかも
「羽村は小さい」と地元の人があまりに言うので調べてみると面積は9.9平方㎞で、東西に4.23㎞、南北に3.27㎞。歩ける距離に市役所や学校、文化施設、さらに動物園まで収まるから大したものだ。
でもなぜ『羽村市動物公園』は、日野市じゃないのに“ヒノトントン”? そう考えながら動物園に向かうと、どでかい区画が現れた。日野自動車羽村工場……。あ~! 日野の2トン! そのネーミングライツなのね。園内は手作り感にあふれ、なんと動物のフンや余った餌の有効活用でオリジナルの堆肥まで販売。作物が良く育つと人気らしい。ペンギンやレッサーパンダなど人気者たちのものが詰まっていると思うと夢がある。
羽村で外せないのは『福島屋』も! 六本木や虎ノ門からラブコールを受けて出店している注目のスーパーで、「全店で一番品揃えが多いので、週末になると都心のお客さまもよく来てくださるんです」と店長の安永智哉さん。すごい求心力だ。
「青梅、福生と個性ある街に挟まれて、羽村はあまり特色がないような。でもかえっていろんなものを受け入れやすい街かも。柔軟性があるのかな」。そう話してくれたのは、隠れ家のような『ハコノカフェ』の鹿子木夕子さん。「あ、お水はおいしいってよく言われます」。これもみなさんから出る自慢。羽村の水道水は地下水100%なのだ。いただいたお冷はクセがなくまろやかだった。
羽村駅西口の『FLAT BASE羽村』ではなんと“羽村”さんと遭遇! 「ここではわりと多い名前です。東口側は区画整理されて新しい街になっていますが、西口側は古い街で、多摩川のそばに羽村姓はいますね」と羽村綾那さん。
確かに西口側は曲がり道や差路の多い昔町の風情。坂を下って多摩川に着く頃には旅情MAXだ。ここに江戸時代初頭、江戸市中の水を確保すべく玉川上水を築いたのが、庄右衛門&清右衛門。玉川姓はその功労を称えて与えられたとか。そんな兄弟像の背後に広がる多摩川と山々の雄大な景色。川をのぞけば、透明度が違うきれいな水! 羽村の財産、ここに見た。
「都会ではありませんが、川も山も近くて住みやすいし子育てしやすい。人も良くて、干渉はしないけどこちらが求めれば寄り添ってくれる。ちょうどいい良さがあります」とは『Cafe kukutana』の水嶋恵子さん。するとすかさず、「東京で一番子育てしやすいらしいよ」と常連さん。「ほんと?」「ごめん、うそかも」と和気あいあいと笑い合う。
朗らかな街の空気を肌に感じながら、『FLAT BASE羽村』の社長・瀧島忠典さんの言葉を思い出す。
「羽村の小ささは強み。地域で生まれた小さなイベントや交流が市全体のイベントになったりしますから。街が一つになれるんです」
コンパクトシティの理想郷は羽村なのかもしれない。
取材・文=下里康子 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2025年2月号より