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「あるがままの他人を受け入れて」というメッセージが深く刺さる ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』開幕~ゲネプロレポート(有澤樟太郎、松下優也、清水くるみ出演回)

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ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』が2025年4月27日(日)から東京・東急シアターオーブで開幕した。

本作は2013年、トニー賞で最多となる13部門にノミネートされ、作品賞、主演男優賞(ビリー・ポーター:ローラ役)、オリジナル楽曲賞(シンディ・ローパー)、振付賞(ジェリー・ミッチェル)、編曲賞、衣裳デザイン賞の6部門を受賞したブロードウェイミュージカル。日本では、2016年に初演、19年、22年に再演され、連日の大盛況で日本中を熱狂の渦へと巻き込んだ。今回は、メインキャストがほぼ一新され、チャーリー(東啓介/有澤樟太郎)、ローラ(甲斐翔真/松下優也)、ローレン(田村芽実/清水くるみ)の主要3役がWキャストとなった。

初日を前にした4月27日(日)、ゲネプロ(総通し舞台稽古)が行われた。その様子を写真とともにレポートする。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


この日行われたゲネプロ(チャーリー:有澤樟太郎、ローラ:松下優也、ローレン:清水くるみ)を見た。

舞台は、イギリス中東部の田舎町ノーサンプトン。老舗の靴工場「プライス&サン」で、社長のミスター・プライスが幼き息子チャーリーに靴の美しさを語る。しかし、大人になったチャーリー・プライス(有澤樟太郎)は家業を継がず、恋人のニコラ(熊谷彩春)とともにロンドンへ。その矢先、ミスター・プライスが亡くなり、次期社長として帰郷したチャーリーの前には大量の返品と契約キャンセルのお知らせが……。幼い頃から知っている従業員たちを解雇しなければならない状況になってしまう。

従業員の一人であるローレン(清水くるみ)に倒産を待つだけでなく、新しい市場を見つけるべきだと発破をかけられたチャーリーは、ロンドンで出会ったドラァグクイーンのローラ(松下優也)にヒントを得て、危険でセクシーなドラァグクイーンのためのブーツ“キンキーブーツ”をつくる決意をする。

チャーリーはローラを靴工場の専属デザイナーに迎え、二人は試作を重ねる。型破りなローラと、保守的な田舎の靴工場の従業員たちとの軋轢の中、チャーリーはミラノの見本市にキンキーブーツを出して、工場の命運を賭けることを決意して——という物語。

単純で分かりやすいストーリー展開ではあるが、ドラァグクイーンへの偏見、親からの自立についてや“真の男らしさ”とは何かなど、様々なテーマをキャラクターの中に混ぜ込み、シンディ・ローパーのキャッチーな音楽に乗せて、「あるがままの他人を受け入れること」「等身大の自分を好きでいること」の必要性を説き、人々の共感を呼ぶ。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

まず、度肝を抜かれたのはローラ役の松下優也である。
ここ最近の松下の舞台での活躍を見れば、歌もダンスも芝居も全てをハイレベルに要求されるこのローラという役をやってくれるだろうとは思うと思うのだが、彼は想像の何倍ものハイクオリティなローラを見せてくれた(しかもゲネプロで!)。
何よりまずセリフや歌詞が聞き取りやすいのが観客としては有り難いし、「Land of Lola」や「Sex Is In the Heel」といった華やかなナンバーではソウルフルな歌声のみならず、その表情から視線から完璧なローラだった。基本的にはハイテンションで乗り切って、松下自身が心底楽しんでいる感じが最高なのだが、「Not My Father's Son」や「Hold Me in Your Heart」などではその明るさの裏にしっかりと痛みがあることが伝わり、思わず涙してしまう。なんとも芝居が上手い。ここから本番で観客の熱量もプラスされるとなると、ローラ劇場になる予感。いやはや、松下優也、恐るべしである。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

チャーリー役の有澤樟太郎。ミュージカル『ヒーロー』に続き、2作連続での主演となり、メキメキと実力をあげている有澤はチャーリーの役柄がとてもよくあっていた(思えば、田舎の2世代目社長という設定ではヒーローも近い)。
Wキャストの東啓介のチャーリーがまっすぐで熱いチャーリーだとしたら、有澤のチャーリーは真面目ででもちょっと抜けているところもある愛されキャラといったところ。ローラに酷いことを言って、工場の従業員の信頼を裏切って、全てを失ったときに、東チャーリーは落胆の色が濃かったが、有澤チャーリーは自分の行動へのイライラが強く見て取れたし、物語上でも客席から見ていても「なんか放って置けない」愛嬌が全体的にあって、個人的には新しいチャーリー像を見た気がする。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

靴工場で働く従業員のローレンを演じた清水くるみも、好演だった。「The History of Wrong Guys」では、ついつい過剰にコミカルに恋心を歌ってしまいそうになるが、清水のローレンは等身大で好感が持てた。

そのほか、チャーリーの恋人であるニコラ役の熊谷彩春はロンドンでバリバリ活躍していく姿が目に浮かぶし(妙齢の女性にとって、ニコラへの感情移入は凄まじいと思う)、工場の現場主任であるドン役の大山真志は失礼ながら体型もちょっとした滑り具合も理想的なドンだったし、工場長のジョージ役のひのあらたは初演から出演していることもあって、絶大な安心感があった。また、エンジェルスたちのダンスのキレと仕上がった身体は惚れ惚れするし、工場の皆さんにも同じ労働者として深く共感する(そうです、工場の外にも生活はありますよね!)。

本作に限った話ではないが、Wキャストの面白さは同じ役で同じセリフを発していても、役づくりや観客が受け取る印象が全然違うものになる可能性があること。組み合わせの妙もある。いろいろなキャストで見比べてみたい。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

作品の「あるがままの他人を受け入れて」「自分が変われば世界も変わる」というメッセージは、この2025年の今にも深く刺さる言葉だろう。初見の人も、再見の人もぜひ2025年版の『キンキーブーツ』をお見逃しなく!

取材・文・撮影=五月女菜穂

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