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【会見レポート】シュツットガルト・バレエ団、6年ぶりにフルカンパニーで来日~ドラマティック・バレエの不朽の名作『椿姫』『オネーギン』を披露

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シュツットガルト・バレエ団2024年日本公演 記者会見

2024年11月2日(土)~10日(日)東京文化会館でドラマティック・バレエの名作の数々を生みだしたドイツの名門、シュツットガルト・バレエ団が来日公演を行う。上演するのは同バレエ団出身の巨匠ノイマイヤーの名作『椿姫』と、創設者クランコの傑作『オネーギン』。秋の来日を前に、7月下旬、芸術監督のタマシュ・デートリッヒとバレエの夢の饗宴〈第17回 世界バレエフェスティバル〉出演のため来日中のフリーデマン・フォーゲル 、エリサ・バデネス 、マッケンジー・ブラウン 、ガブリエル・フィゲレドが記者会見に登壇した。

 (Photo:Shoko Matsuhashi)



■『椿姫』『オネーギン』鉄板の名作が揃い踏み!

シュツットガルト・バレエ団は、南アフリカ生まれのイギリス人振付家ジョン・クランコ(1927~1973)が創設した。クランコが振付したドラマティック・バレエの名作によって広く知られる。今秋の日本公演は1973年の初来日から数えて12回目。2022年に予定されていた来日はコロナ禍の影響により規模を縮小し、ガラ公演〈シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち〉として形態を変更した。したがって、フルカンパニーでの来日は2018年以来6年ぶりだ。

会見冒頭、デートリッヒは「6年ぶりのフルカンパニーでの来日をうれしく思います」と語り始めた。来日演目のうち『オネーギン』は「日本では1973年の初来日以来、人気の作品です」。『椿姫』に関しては、ノイマイヤー自身の来日を予定している。「彼が演出を手伝ってくれるという話になっていますので、我々も楽しみにしています」。

ノイマイヤー振付『椿姫』プロローグ付全3幕(1978年初演)は、アレクサンドル・デュマ・フィスの小説に基づいており、ショパンの名曲とともに高級娼婦マルグリットと青年アルマンの愛の悲劇を物語る。ノイマイヤーの代表作の一つで、彼が半世紀にわたって率いたハンブルク・バレエ団などが上演しているが、初演はシュツットガルト・バレエ団である。

クランコ振付・演出『オネーギン』全3幕(1964年初演)は、プーシキンの韻文小説を土台にしており、チャイコフスキーの同名オペラとは別の楽曲から編んだ音楽を用いる。19世紀初頭のロシアを舞台に、田舎の地主の娘タチヤーナと帝都育ちの貴族オネーギンの愛憎を描く。

タマシュ・デートリッヒ芸術監督  (Photo:Shoko Matsuhashi)



■円熟を迎えたベテラン名手の至芸に期待!

両作品でペアを組み主演し初日を飾るのが、ベテランプリンシパルのフォーゲルとバデネス。フォーゲルはシュツットガルト出身で貴公子の誉れ高く、日本でも絶大な人気を誇る。バデネスはスペイン出身で、カンパニーを代表するプリマバレリーナだ。

フォーゲルは「〈世界バレエフェスティバル〉(Aプロ)で私とエリサが予告編のように『椿姫』より第1幕のパ・ド・ドゥ踊ります。私たちは『椿姫』を大切にしています。『オネーギン』もそうです。シュツットガルト・バレエ団ならではの二作品を楽しみにしていてください」と話す。

フリーデマン・フォーゲル  (Photo:Shoko Matsuhashi)

バデネスは「カンパニー全員で来日できるのが楽しみです。シュツットガルト・バレエ団ならではの美しいレパートリーは踊りも素晴らしいですし、出てくる役どころも楽しみにしていただきたいと思います」と晴れやかに抱負を語った。

エリサ・バデネス  (Photo:Shoko Matsuhashi)



■次世代を担う大型スターの台頭に注目!

ブラウンとフィゲレドは次世代を担う新鋭。2019年に若手バレエダンサーの登竜門ローザンヌ国際バレエコンクールで1位、2位を占めた逸材だ。

アメリカ出身のブラウンは、2023年10月にプリンシパルに昇格。『椿姫』では主役のマルグリットの友人プリュダンス、『オネーギン』ではタチヤーナの妹オリガに配役された(交替出演)。「今回が〈世界バレエフェスティバル〉初出場になりますし、秋にフルカンパニーで来日できることをうれしく思います。今回の2つの作品で役を付けていただいて感謝しています」と初々しい。

マッケンジー・ブラウン  (Photo:Shoko Matsuhashi)

ブラジル出身のフィゲレドは、今年7月にプリンシパルに昇格したばかり。『椿姫』では劇中劇の主人公デ・グリュー、『オネーギン』ではオネーギンの友人でオリガの婚約者であるレンスキーを踊る(交替出演)。「フルカンパニーとして来日ができることを楽しみにしております。今回は素晴らしい役柄をいただいていますので、皆様にぜひご覧いただきたいです」と謙虚だ。

ガブリエル・フィゲレド  (Photo:Shoko Matsuhashi)



■天才振付家クランコ&ノイマイヤーの真髄を語る

クランコ、ノイマイヤーそれぞれのタッチの違いや良さについて問われたフォーゲルは「とても違うように見えますが、ある意味とても似ていると思います。二人とも動きを通して感情やストーリーを伝える天才だからです。複雑なストーリーであっても、言葉よりも強い動き・表現によって、ストーリーを伝えることができます」と考察する。

バデネスも同意し「二人ともストーリーテリングの天才です。とても正直にそれぞれのキャラクターを描きます。クランコはカンパニーの歴史と共にある人で、彼のヴィジョンを基に『オネーギン』は日々我々が深化させています。ノイマイヤーは、一人ひとり踊り手のことをよく考えて、そのダンサーの才能を生かした形で変化を加えてくれます」とフォローした。

フォーゲルは幾度も踊ってきた『オネーギン』のタイトルロールへの向き合い方として「自分の中では、オネーギンの人生をステージ上で生きる形を考えています。毎回絶対に同じことを繰り返すことはできませんし、100%満足することもないと思います。何度踊っても、もう一回踊りたいという気持ちになります」と明かす。

バデネスは『オネーギン』を踊るに際し「タチヤーナは凄くまだ若い。たった2時間くらいの間に、若い夢を追う女の子から大人の成熟した女性へと育っていくのを表現しなければいけないのは大変です」と難しさを語る。『椿姫』のマルグリットに関しては「マルグリットも人生の旅をしています。一人の女性として長く旅をするといったストーリーを自分の体で表現しなければいけません」と演じるにあたって意識している点を挙げた。

■ダンサーにとって大事なものは「ハートの問題」

ブラウンとフィゲレドは、まだ20代前半。彼らをプリンシパルに昇格させた決め手をデートリッヒはこう説明する。「クオリティのこともありますが、ハートの問題です。芸術監督として私の仕事は、若い才能を見い出して育てていくこと。テクニックだけではなく、地に足を付けてカンパニーの一員として踊っていく準備ができているかどうかも見極めます」。

デートリッヒの言葉を受けて、若い二人は意気込みを話す。

ブラウンは「クランコのレガシーを継承していく者として責任を感じます。『椿姫』と『オネーギン』は、いずれも複雑なストーリーの中で一人ひとりのキャストの人間性や個性をあわせていかなければいけない作品。ダンサーとして、アーティストとして、人間として、今後も向上していきたいと考えています」。

フィゲレドは「タマシュに信頼されていること自体が私にとってモチベーションを高める十分な材料になります。『オネーギン』ではレンスキーを踊りますが、レンスキー自体が感情のジェットコースターといいましょうか、物語の中でさまざまな感情を表す役どころです。私もそれを基本的に自分の感情として踊りで表現していきたい」と静かに熱く語る。

■コロナ禍を乗り越えて、さらなる先へ

世界中のバレエ団同様、コロナ禍で苦心した。デートリッヒは「正直に言うと忘れたい数年間ですが、忘れられない経験になりました。一番大事だったのは、カンパニーのそれぞれのダンサーが希望を忘れないようにしなければいけなかったことです」と振り返る。行政に掛け合い、5人、10人といった少人数でのレッスンを再開し、ストリーミング配信による公演を実施するなど知恵を絞った。「努力をつなげて、いつかは正常に戻るという希望を思って過ごした数年間でした」。

そうした状況下でも、デートリッヒは「私には大事な宝箱があります。若い期待できる振付家の集団を抱えています」と続けた。コロナ禍においてもソーシャルディスタンスを遵守しながら小規模でも公演を展開した。「結局は、我々一人ひとりが持つバレエに対するパッションだと思います。心を表すためのステージの瞬間だと思います」と力をこめる。

シュツットガルト・バレエ団は、クランコの時代から若手に振付を奨励している。そこからノイマイヤーをはじめとする多くの鬼才振付家を輩出し、彼らが21世紀の今も世界のダンスシーンを刺激し続けている。デートリッヒは「重要なのは、お互いの信頼性と信念があること」と踏まえつつ、自分の仕事は未来の才能に「扉を開いてあげること」だと自負した。

 (Photo:Shoko Matsuhashi)

取材・文=高橋森彦

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