さらに便利でコンパクトに!インカムはどこまで進化する?
バイク用通信機器「インカム」は仲間とのツーリングには欠かせないアイテムとなっており、その普及にともなってさまざまな製品が登場して市場を賑わせています。「大勢の仲間と話せる汎用性の高いものが良い」「音楽さえ聴ければいい」など、用途に合わせたインカムが出揃っていますが、日本の法律に適合していない製品も市場に存在し、知らないまま使っていると使用者が罰せられる危険性を孕んでいます。ここではインカムの正しい選び方、そして最新のインカム情報についてご紹介します。
インカムを使っている人ってどれぐらいいる?
十数年前に市場に登場して以来、今やライダーにとって欠かせないアイテムとなっているインカムの所有率はどれほどのものなのでしょう。神奈川県川崎市にあるバイク用品店「246溝口2りんかん」を訪れ、来店するライダーにインカムを使用する・使用しない理由、インカムの使い方、要望などについて話を伺いました。ヒアリングした10名ほどのうち、9割がインカム利用者でした。
「私はインカムを使っていません。便利なものだというのは分かってはいますが、乗っているときに話をしたいと思わないんです。また、バイク本来の楽しみを無くしてしまう気がするんですよね。バイクに乗るときのスタイルも極力シンプルで無駄がないようにしたいので、今後も使うことはないかな」(40代男性 / インカム未利用者)
「インターネット通販で購入したインカムを使っています。ブランドはちょっと分からないですね。付き合っている彼女がバイクの免許を取るというので、話しながらツーリングできたらいいなと思って購入しました。通話と音楽を同時に行えないので、そこが不満点ですね」(20代男性 / インカム利用者)
「バイクに乗り始めた頃からインカムは使っています。モトブロガーが紹介していたインカムを『いいな』と思って手に入れました。通話機能はほとんど使っておらず、ナビゲーションの音声ガイドでの利用が主です」(50代男性 / インカム利用者)
「ナビの音声案内を聞くためにインカムを購入しました。音楽を聴いたり、ときどき電話でも使いますね。街乗りではほとんど使っていません。個人的には多機能でなくて良く、今使用しているシンプルなモデルで十分満足しています」(60代男性 / インカム利用者)
「バイクに乗り始めるとほぼ同時にインカムを購入しました。音楽も聴きたいし、仲間とも会話したいので、インカムは欠かせませんね。SNSで知り合った人と一緒に走りに行くときも、インカムで話しながら走れると楽しいし便利なんです。比較的安価な製品なので、高性能なインカムと比べて機能が少ないのが不満かな」
(20代男性 / インカム利用者)
「会社のバイク仲間とツーリングに行った際、周りの人がインカムを使っていて『便利そうだな』と思って購入しました。それなりの価格でしたが、使いやすさと安心感を重視して選びました。通勤など一人で走るときは音楽を聴いています。もう少しリーズナブルだと嬉しいですね」(20代女性 / インカム利用者)
「免許を取るときからインカムのことは知っていて、あると便利だと分かっていたのでバイクに乗るのと同タイミングで購入しました。音楽を聴いたり、通話に使っています。今使用しているインカムは、音楽と通話の機能を同時に使えないので、次は併用できるモデルを購入しようと思っています」(20代女性 / インカム利用者)
バイク用品店のインカム担当者に話を聞いた
インカム専用コーナーが設けられるようになったバイク用品店の担当者は、競争の激しいインカム市場をどう見ているのでしょう。246溝口2りんかんのインカムコーナーを担当する久保達也さんにお話を伺いました。
「当店まで足を運んできて、『どれがオススメですか』と聞いてこられる方には、『どのように使いたいですか』とお聞きしたうえで、使い方に合った製品をご紹介しています。『なんでもできるインカムがいい』という方にはサイン・ハウスのB+COMをオススメしていまして、『音楽が聴きたい』『ナビに使いたい』『通話したい』など、使い方の優先度がはっきりしている方には、使い方に合ったインカムをご案内します。
他社製品同士でのリンクが可能かどうかも、選ばれるポイントのひとつです。比較的安価なモデルだと、同ブランド同士じゃないと繋がれないことがあるので、友だちや仲間が使っている製品と同じものを選んだり、他社製品とでも接続できるB+COMなどを選ばれたりされます。
お声として多いのは、『メーカーや機種の違いが分からない』ですね。ガジェットに対して関心度の高い方でなければ、これだけ多くの製品があると分からなくなってしまうのは仕方ないなと思います。
正確なデータがあるわけではないのですが、来店されるお客様を見ていると、インカム利用率はライダー全体の50%を超えていると思います。他のバイク用品店でもインカムは販売の一角を担う規模になっていますね」
メーカーに聞いた:これからのインカムの進化
現在市場に並ぶ製品群で満足できるインカムは、今後どのように進化していくのでしょうか。2008年に初代モデルを登場させて以降、ユーザーの要望を取り入れた製品を手がけてきた国産インカムメーカー「サイン・ハウス」の代表取締役社長 新井敬史氏(以下、新井氏)と企画課 課長の利光正大氏(以下、利光氏)に、インカム市場が向かっている先について話を伺いました。
「2008年からインカムを手がけてきた弊社目線になりますが、現代に至るまでインカムは飛躍的な進化を遂げてきました。2010年、大幅に性能アップしたBluetoothが導入されるようになってからインカム製品は大きく進化し、弊社製品では2013年から複数人での通話が可能になるなど、今や十分な性能を有する製品が市場を席巻しています。
インカム業界で起こった新たな試みが、『ユニバーサルスロットルホルダー規格』というものです。これは、一言で言うとヘルメットに埋め込むインカムを規格化しようという試みです。規定のスペースをヘルメットに設け、そしてそのスペースに合うインカムを制作し、ヘルメットのデザインの一部としてインカムを取り付けられるようにするのです。ヘルメットメーカーとインカムメーカーが連携せねば実現できない規格化で、実現できるかどうかを検討しているところです」(新井氏)
すでに販売開始しているヘルメット一体型インカム「SX1」はその試みの一環なのでしょうか。
「SHOEIヘルメットと弊社とで取り組んだ試みのひとつが『SX1』です。インカムの装着率が高まり、インカムを取り入れたヘルメットが登場し始めたちょうどその頃、SHOEIから開発協力の相談がありました。『国内のバイクユーザーからの要望の多さ』から生まれた取り組みだとお聞きしました。SHOEIヘルメットのインカム専用装着機構『SHOEI COMLINK』に対応できる製品開発を手がけ、生まれたのが『B+COM SX1』なのです。『NEOTEC 3』『GT-Air 3』『J-Cruise 3』というSHOEIヘルメットの3モデルに装着可能です。
ヘルメット一体型の実現にはまだ時間を要しますが、『SX1』をひとつの形としてお示しできたと思っています」(新井氏)
「B+COM SX1」が実現したヘルメット一体型という流れとともに、よりコンパクトで違和感なく取り付けられるインカムが登場してくるのでしょうか。
「弊社の最新モデルである『B+COM SB6XR』を含め、インカム市場に並ぶ製品を見てみても、コンパクトとは逆に大きくなる傾向にあります。それは、ユーザーから求められる機能をひとつでも多く取り入れた結果だと思われます。機能の増加とともに容量の大きなバッテリーが必要になり、サイズそのものが大きくなるのです。また、グローブをしたまま操作をすることが多いので、スイッチ類を小さくすると操作性しにくくなるため、ある程度のサイズを保たなければなりません。
私たちとしては、実現可能な要望はなるべく取り入れていきたいと思っているのですが、中には『インカムは使いたいけど、あまり目立たせたくない』というライダーもいらっしゃるかと思います。現在のラインアップにもありますが、機能を限定的にしてシンプルかつコンパクトなモデルの展開も視野に入れています」(利光氏)
現代のインカムは十分過ぎるほどの機能を有していますが、まだまだ進化の余地があるのでしょうか。
「もちろんです。サイン・ハウスが理想系、完成系としているのが『B+COM SB6XR』ですが、通話人数や通話可能距離、音質など、まだまだ向上させられる部分はあります。競合他社の開発陣もユーザーの要望に合わせたアップグレードや新製品を手がけてくると思うので、さらに高性能なインカムの開発をしていきます。
インカムはバイクライフにおける脇役だと考えています。特に重視しているのは利便性と安全性で、多機能でも使いやすく、バイクの操作を邪魔しない製品であることを心がけています。インカムを利用することでバイクに乗る楽しみが増していくような製品をお届けしたいですね」(利光氏)
正しいインカム選びのポイント
多種多様なインカムが手に入れられる現代において、使用用途に合った製品を選ぶことが重要ですが、その際に気をつけて欲しいのが技適マークの有無です。
技適マークとは、無線通信機器において技術基準適合証明もしくは技術基準適合認定のいずれかの認証をするマークのことで、技適マークのない商品を使用した場合は電波法が定める規定に違反したことになり、罰せられる可能性があります。通販などで購入される際は、技適マークを取得しているかどうか確認しましょう。
選んで間違いないインカムブランド6選
B+COM
サイン・ハウスが展開する国内ブランドで、手がける製品の機能は業界トップクラスを誇ります。現在5機種を展開中で、ハイエンドモデル「B+COM SB6XR」とスタンダードモデル「B+COM ONE」には、複数台でもストレスなく接続できる独自システム「B+LINK」に対応しています。
セナ
初心者向けモデルから先進のMesh3.0技術を搭載したハイエンドモデルまで、全14機種を展開するインカムブランドです。最新モデルの「SENA 60S」は、接続強度と音質の提供とともにWave Intercom™アプリを使用することで、携帯ネットワークがつながる限り、どれだけ離れていてもグループの接続は維持されます。
カルド
2004年に世界初のBluetooth対応のバイク用インカムを発売したブランドです。現在10機種を展開し、カルドの独自システム「ダイナミックメッシュコミュニケーション」は、雑音を抑えた音響とクリアな声での会話を約束、さらに最大15人のライダーとの接続を可能としています。
デイトナ
バイク用アフターパーツの企画・開発・販売を行なうデイトナが手がけるインカムで、2008年にBluetoothを採用した「クールロボ」を開発しました。現在は「DT(デイトナトーク)」シリーズを展開、3機種を扱っています。代表的モデル「DT-01+」は、心地よい音を楽しめるシルクダイヤフラムスピーカーを採用し、従来モデルから通話や音楽再生時の鮮明さを向上させています。
コミネ
ライダースギアやプロテクターなどバイク用品を手がけるコミネのモーターサイクルインターカムが「KK-902」です。空気抵抗を考慮した流線型のデザインが特徴で、4人通話やスマートフォンとのペアリングを可能にします。機能をシンプルにすることで、扱いやすさと手頃な価格を実現しています。初めてのインカムに適しています。
ミッドランド
無線技術を応用したデジタルデバイスを手がける通信機メーカーのインカムブランドです。現在4機種を取り扱う中、最新モデル「R1 MESH」にはミッドランド独自のメッシュ通信システムを採用しており、面倒なペアリング操作が不要なうえ、最大6人までフラットな通信を可能にします。
正しいインカム選びで楽しさ倍増
会話を楽しむ、音楽を聴く、ナビ音声を快適にするなど、インカムはバイクライフに幅を持たせるうえで欠かせないアイテムとなっています。それぞれの楽しみ方に合わせた製品がたくさん揃っているので、自身の楽しみ方に合ったインカムを選びましょう。通販サイトには技適マークの有無が確認できない製品も並んでいますが、バイク用品店に並ぶインカムは技適マークを取得しているものばかりなので、インカム選びに悩んでいる人はバイクショップやバイク用品店の担当者に聞いてみると良いでしょう。