海賊に憧れる少年と夢を諦めた青年の対比を会話劇で描く、神戸セーラーボーイズ Boys☆Act ~maple『果てなき夢のその先へ』開幕
Boys☆Act ~maple『果てなき夢のその先へ』 2024.9.5(THU)〜10.27(SUN) 神戸三宮シアター・エートー
神戸セーラーボーイズ(以下、神戸セラボ)にとって、史上最多公演となるBoys☆Act ~maple『果てなき夢のその先へ』が9月5日(木)に、神戸三宮シアター・エートーで開幕した。今回は、2023年の結成以来拠点としてきたAiiA 2.5 Theater Kobeを飛び出し、客席数100席の小劇場に場所を移しての公演となる。9月5日(木)から10月27日(日)まで、note.1・2・3に分けて全48公演を走り抜ける。小劇場での会話劇、少人数でのライブと、彼らにとっても初めて尽くしの本公演。今回もSPICEでは、初日に行われたゲネプロの模様をレポートする。定期公演vol.2『銀牙 -流れ星 銀-』からわずか1ヶ月、さらにスキルとチーム力の増した神戸セラボの成長を目の当たりにすることとなった。
会場の神戸三宮シアター・エートーに到着すると、ショーウインドウには本公演から新グッズとして販売されるアクリルスタンドで「本日の出演メンバー」が発表されていた。
劇場に足を踏み入れると、ステージと客席の近さに思わず驚きの声が出てしまう。先日SPICEで公開した連載『神戸セラボ探検日誌』Vol.2で南京町を訪れた時、石原月斗が「距離が近い」と言っていたが、本当にかなり近い。最前列は手が届きそうな距離感で、最後列でも息遣いが聞こえるほどだ。ちなみにグッズ売場とトイレは2階にある。
全公演に出演するのは最年長で19歳の明石侑成が演じる明石田侑と、18歳の石原月斗が演じる石川幸斗。このふたりが主軸となり、他のメンバーが日替わりで3〜4名ずつ参加する「ストレート会話劇」。2幕のライブパートも5名の少人数で行われる。なお今回も、等身大の彼らを投影した「SF(セミフィクション)公演」同様、各自にあてられた役として舞台に立つ。
この日ゲネプロに参加したのは、明石田、石川、中城碧月(中川月碧)、崎フランツ(崎元リスト)、高野遥(髙山晴澄)の5人だ。海賊の話であること、明石田と石川のセリフ量がとんでもなく多いこと、衣装がカッコ良いこと、ダンスパートも見逃せないこと。取材記事やメンバーがSNSで発信する稽古日誌からじわじわと明かされつつあった本公演の全容が、ゲネプロで明らかになった。
※以下、配慮はしておりますが、ネタバレを含みます※
息ぴったりの会話劇と海賊団の迫力
会場が暗転し、ステージにほんのりと焚き火がともる。響き渡る波の音。小さな島に流れ着いた少年(石川)が目を覚ますと、そこにいたのは青年(明石田)。イカダで漂流していた少年を助けた青年は、地図にも載っていないこの小さな島に、長くひとりで住んでいるという。
純粋に夢を追いかける若き少年は、亡き父親から譲り受けた宝の地図を手に「海賊になってこの宝を探し出す、それが俺の夢なんだ!」と目を輝かせる。喜怒哀楽を素直に顔に出す少年に対し、「いつの時代の話だよ」と感情を抑えて人生や現実の厳しさを説く青年。「人と関わるのが苦手なんだ」と、どこか影を背負っているようにも見える。
かつて7つの海を股にかけた「紅い海賊団」キャプテン、スカーレット・キッドの右腕だったローマン・アルマンドが自分の父親だ、と言う少年。父の遺した航海日誌を見せて「紅い海賊団」の活躍ぶりを意気揚々と語り始める。海の悪魔との命がけの死闘、1000人を抱える大海賊にわずか20人で勝利した戦い、東洋の秘宝を奪い帝国を滅ぼした話……。それを聞いた青年の反応は? そしてふたりの関係は……?
「ストレート会話劇」と銘打たれただけあり、物語は序盤から怒涛の会話で展開していく。感情の乗ったふたりの演技はテンポが良く密度も濃く、まさに息ぴったり。連載での取材で、石原が「ふたりで早めに集合して稽古をしている」と話してくれたが、プライベートで仲が良いからこそ遠慮なくぶつかることができるのだろう。
そして「紅い海賊団」の面々を、他のメンバーが日替わりで演じていく。この日のスカーレットは中城が、ローマンは高野が、見習いのスターキーは崎が演じた。彼らの演技からは、『銀牙 -流れ星 銀-』でそれぞれ磨いた演技力と表現力を惜しみなくぶつけていることが本当によく伝わってきた。特に高野は今年からの新メンバーにもかかわらず、緊張を感じさせないほどのびのびと演じている姿が印象的だった。同時に「このキャラたちを他のメンバーが演じたらどうなるんだろう?」というワクワクも胸に迫ってきた。
演技を終えてステージをはける時、肩を組んだ明石田と石川が顔を見合わせて笑った様子が見えたが、その表情からは確かな手応えを感じることができた。ここからますます練り上げられていく会話劇が楽しみでならない。
少人数でダンスを魅せるステージ
続くライブパートは、中城のダンスから幕を開ける。センターに腰掛けた中城が、音楽に合わせてゆっくりと踊り始める。オルゴールの音に歯車の音が混ざり、少し不穏な雰囲気に。まるであやつり人形と化した中城の、アイソレーションを駆使した細やかな動きからは目が離せない。
他のメンバーも合流し、5人が立てばもういっぱいの広さのステージで、和風の音楽に合わせてダイナミックなダンスを繰り出していく。神戸セラボではお馴染みの後藤健流による振付が、彼らの新たな一面を切り開いていた。確実に大人っぽくなった5人によるカッコ良いダンスは必見だ。それぞれの自己紹介もアップデートされ、熱を宿して堂々とステージに立つメンバーは、イキイキと輝いていた。
ハンドマイクでのパフォーマンスにも挑戦。「初めてだから難しい」と話していた石川だが、歌声はブレることなく、ダンスもしっかり披露。ラインダンスも素敵にキマっていた。これまではダンスが得意な中城が引っ張っているイメージがあったが、全体的にダンススキルが上がったように思われた。
明石田が中心として繰り広げられたMCを挟み、和気藹々とした雰囲気でライブパート後半戦へ。動画・写真撮影OKの新曲は、インストゥルメンタルのダンスナンバー。5人はポップに元気いっぱいにステージを跳ね回る。しっかりダンスを魅せる楽曲を増やしたのは、やはり彼らの成長が著しいからだろうか。
そして前回公演で初披露された「ハニーレモンかき氷」と神戸セラボの代表曲「ボクラカラー」で明るくステージを締め括った。「ボクラカラー」はこれまでと違いカーテンコールを兼ねたショー風の構成になっているので、楽しみにしてほしい。
最後にメンバーが一言ずつ挨拶。ここでお見送り会と物販に立つメンバーが発表された。地声が聞こえるほどの距離の近さで観劇した後、もっと近い距離でメンバーと触れ合える時間があるのも嬉しいところだ。
本公演は、座席とメンバーの組み合わせによって、受ける印象がかなり変化する。前方の座席はステージの熱と迫力をダイレクトに受けることができる。後方は舞台全体を見ることができるため、ストーリーやメンバーの位置やダンスを落ち着いて見ることができる。1部では客席通路を使う演出もあるため、どの席でもメンバーの息遣いを感じ、物語の中に身を投じることができると思う。さらにnote2・3では新たに新曲が披露されることも明らかになった。公演中もどんどん進化するであろう彼らを、何回でも堪能しに来てほしい。
取材・文=久保田瑛理 撮影=高村直希