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睡蓮の咲くころ【京都で過ごすモネづくしの1日】~観て、食べて、聞いて感じる、光の画家が目指した「水の反映」~

SPICE

「睡蓮、 夕暮れの効果」1897年 マルモッタン・モネ美術館、 パリ

睡蓮が咲き始める5月。睡蓮と言えば、約300点もの睡蓮の絵を残した、私も大好きなモネ!ということで、私がモネを好きになったキッカケは、幼いころに読んだ1冊の絵本。主人公がフランス・パリのオランジュリー美術館やマルモッタン・モネ美術館、モネの家と睡蓮が咲く庭を巡ることで、モネの人生や作品を心に刻み成長していくストーリーだ。気軽にパリに行くことは叶わないが、6月8日(水)まで京都市京セラ美術館にて『モネ 睡蓮のとき』が開催されていることから、モネ好きおしゃべりアートライターの井川茉代がまるっと1日、京都市内でモネの「睡蓮」を堪能できる3つのスポットを紹介。花の香りや食べ物・飲み物の味、太陽の光に水の音。美術館では出会えない要素が鑑賞をより充実したものにしてくれる。もっとモネが好きになる、楽しいモネ巡りのはじまりはじまり。

モネ好き必見の展覧会『モネ 睡蓮のとき』

1つ目のスポットは、地下鉄東西線の東山駅から徒歩約8分のところにある京都市京セラ美術館。ここでは6月8日(水)まで『モネ 睡蓮のとき』が開催されている。東京・上野の国立西洋美術館で80万人を動員し、大きな話題を集めた展覧会は京都でも大盛況。フランスのパリにあるマルモッタン・モネ美術館が所蔵するモネ晩年の「睡蓮」連作を中心に、日本初公開作品7点を含むおよそ50点すべてがモネの作品だ。2mを超える大画面の睡蓮も堪能できる、モネ好きとしては必ず観ておかなければいけない展覧会。どこを見渡してもモネに包まれる、安らぎのひとときが待ち受けている。

「セーヌ河の朝」1898年 国立西洋美術館

モネが睡蓮を本格的に描いたのは、ジヴェルニーに移り住んだ40歳を過ぎたころから。つまり、人生の後半にあたる。それはモネにとって最愛の家族の死、自分自身の目の病気、戦争など苦難の時代でもあった。そして作品はどんどん抽象的な方向に向かっていく。

「睡蓮」1916-1919年頃 マルモッタン・モネ美術館、パリ

入口から出口に向かってほぼ時系列で作品が並び、歩み進めるにつれてモネの絵が変わっていく様子が見てとれる。またモネは睡蓮の池を描いた巨大なパネルによって楕円形の部屋の壁面を覆う「大装飾画(Grande Décoration)」という計画を長年にわたり追い求めた。最終的にパリのオランジュリー美術館に設置されることになるのだが、その様子を再現して展示した部屋もある。蓮を描きながらも、季節や時間だけでなくあらゆる瞬間ごとに様相を変える「水の反映」こそが、モネが真に描きたかったモチーフだということを再認識した。

「大装飾画」を再現

特に心奪われたのは、第四章にさりげなく飾られている最晩年に描かれた「ジヴェルニーの庭」。キャンバスに色をサッ、サッと載せているような、絵の具のパレットを思わせる作品だ。ここであの絵本に、主人公が遠くから見ると美しい睡蓮の絵が、近づくと筆の跡だらけだと気が付き、驚く場面があったことを思い出した。一見何を描いているかわからない、それこそ抽象に近い絵だが、時間をかけて近づいたり離れたりして眺めていると、だんだん庭が見えてくる。

「ジヴェルニーの庭」1922‒1926年頃 マルモッタン・モネ美術館、 パリ

画家ポール・セザンヌは、モネならではのものの見方や表現を「モネはひとつの目にすぎない。しかし何という目なのだろう!」と評したという。モネには、ジヴェルニーの庭がこの作品のように見えていたのだ。モネの作品を見る楽しみのひとつは「モネの目になって」見ることなのだと思う。今回の出品作品の中で、私にとって「モネの目になって見る」をより実践しやすいのが、この作品だった。写真ではなく美術館で本物を観て、モネの目と筆使いを感じてみてほしい。

実際に購入したグッズ

各展示室を行ったり来たり、ベンチに座って一息ついたりしながらたっぷり2時間ほどかけて堪能した後はグッズコーナーへ。売り切れ続出のFEILERのハンカチや、Ecoffee Cupのタンブラー、Sablé MICHELLEのヴォヤージュサブレなどブランドとのコラボグッズの豪華ラインナップの中、私はWpc.の睡蓮柄の折り畳み傘を購入。「睡蓮」に包まれながら雨音にひたれて、また違った「水の反映」が楽しめそうだ。他にも京都限定コラボグッズとして鶴屋吉信のモネのいろどり琥珀糖と、たま茶のモネ 3種のオリジナルブレンドハーブティーも展開。もちろんポストカードやマグネットなど定番のミュージアムグッズも用意されている。充実したグッズのおかげで、今日の感動をいつでも思い出せる。

Cachetteの『モネ睡蓮のとき』コラボメニュー

Cachette北白川店

まだまだ観ていたい気持ちを引きずりつつ美術館をあとにして向かったのは、Cachette北白川店。美術館前のバス停から一本のここでは『モネ睡蓮のとき』コラボメニューが用意されている。回転扉を開けると、ふわぁっと花の香りに包まれた。1階はドライフラワーのお店、2階がカフェだ。奥の階段を上がると、セピア色のお花畑のよう。天井からドライフラワーが吊られ、アンティーク家具が並ぶノスタルジックな空間が広がっている。

Les Nymphéas(レ・ニンフェア)は『モネ睡蓮のとき』のメインビジュアルに使われている睡蓮の絵を題材にしたフレンチトースト。ニンフェアとは睡蓮の学名だ。配膳されると……なんという可愛さ! モネの絵を見事に再現したビジュアルに驚いたが、さらに驚いたのは、その味。想像をはるかに超えるほど美味しい!

Les Nymphéas

ベースにはクリームチーズにディルやニンニクを合わせたものと、クリームチーズにさつまいもを入れバタフライピーで色付けした2種類のペーストを使用。花の中心部分の黄色とバラの花びらのピンクで池に浮かぶ睡蓮、ローズマリーの緑でしだれる柳を表している。そこに、花のリキュールとイチゴの2種類のオリジナルソースをかけていただくのだが、赤いソースをかけると、夕方に描かれた別の睡蓮の絵に見えてきた。そのようなフレンチトースト、もといキャンバス上の様相の変化も面白い。

食べるのがもったいなくてしばらく眺めていたが、食欲には勝てない。躊躇しながらもナイフを入れ一口頬張ると、クリームチーズの塩味とソースの甘み、ハーブの香りが広がった。庭の中で深呼吸をしているような爽やかさを感じる。場所によって味が変化し、食べるごとに新鮮な味覚が味わえる。これなら、好きな料理のレシピを綴ったノートを6冊も残しているほど食通だったモネも、きっと気に入ってくれるだろう。

fleurir

fleurir(フルリ)は睡蓮のハーブティーを使ったノンアルコールカクテル。睡蓮の池をイメージして睡蓮とバラの花びらが浮かべられ、グラスの淵にはフランボワーズがちりばめられている。花のリキュールを注ぐと、ドリンクが青色から紫色に変化。子どものころにタンポポなどの野草でままごとをした記憶がよみがえり、懐かしい気分になった。甘酸っぱくさっぱりしていてLes Nymphéasによく合う。

「モネはとても好きな画家」というお店の方によると、食材に睡蓮を使うという所からメニュー開発をスタートしたそうだが、見た目や味に落とし込む難しさがあり苦労したのだとか。こだわった甲斐があり「綺麗で美味しい」とお客さんからとても好評だ。『モネ 睡蓮のとき』のショップバッグを持った展覧会帰りの方も多いそう。コラボメニュー特典のステッカーもお忘れなく。

ゆっくり鑑賞できる穴場スポット

最後はバスに揺られて約15分、北山にある京都府立植物園まで足を運び、実際に睡蓮を見るのはどうだろう。睡蓮の見ごろは例年5月中旬から8月下旬ごろ。本物の睡蓮を見る場合は、午後になると花が閉じてしまうので朝いちばんに訪れるのがおすすめだ。取材時にはまだ咲いていなかったので、隣接する京都府立陶板名画の庭へ。ここでは陶板で作られたモネの「睡蓮・朝」を観ることができる。同館は1994年にオープンした、名画の美しさをそのままに再現した陶板画が屋外で鑑賞できる世界で初めての絵画庭園だ。

レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」、鳥羽僧正「鳥獣人物戯画」、張澤端「清明上河図」など、陶板画は全部で8点。安藤忠雄氏設計の空間をたっぷり使った贅沢な施設で、中でもシスティーナ礼拝堂の壁画を再現した高さ約14メートルのミケランジェロ「最後の審判」は圧巻。

取材したのは平日で、観光客で賑わう京都市内にいるとは思えないほど庭園内はのんびりしている。カップル、友人同士、海外からの観光客がベンチでくつろいだり、おしゃべりしたり、思い思いに過ごしていた。滋賀県から来たという大学を卒業したばかりの女性2人組は、TikTokの動画で知ったのだそう。好きな画家はモネで、作品が見られて嬉しいと話していた。SNSで紹介されたことにより、海外の方や若い来園者も増えているようだ。

年3回ほど京都に旅行されるという横浜から来られたご夫婦は、陶板名画の庭は初めての訪問とのこと。ご主人は「地上から地下に降りていく構造になっていて、同じ作品を上から見たり、下から見たりできるのが面白いですね。実物ではそういうわけにはいかないですし」と感心されていた。展示作品は8点と絞られているが、一つ一つ時間をかけて見るため充実感が大きい。また、美術館とは違う開放的な雰囲気でリラックスして絵画に向き合えるのもいい。

お目当てのモネ作「睡蓮・朝」はパリにあるオランジュリー美術館所蔵作品を再現し、200cm×1,275cmとほぼ原寸大。入り口すぐ、浅い池の水底に沈められている。私たちは水面を見下ろし、まさに池に浮かぶ本物の睡蓮を眺める要領で鑑賞することになる。斬新な展示方法だが、ここで私は『モネ 睡蓮のとき』でも語られていたモチーフ「水の反映」を思い出した。なるほど、モネが描く「睡蓮」らしさを伝えるには的確な展示場所だ。本物の絵画では実現不可能で、陶板画だからこそできる工夫に膝を打った。

風が吹いたときに、その特徴はより発揮された。水の波紋や太陽の光のきらめきが水中の絵画の見え方に変化を与え、その瞬間、瞬間にしか見られない光景が生まれる。「モネが追及したのはこれか!」と直感で理解できた気がした。この展示方法を考えた方は、かなりのモネフリークではないかと想像する。一度お会いして語り合ってみたいものだ。

これにて今回の京都モネ巡りはおしまい。普段の美術館巡りより、二倍も三倍も充実した気分で帰路に着くと、いつもの景色が「モネの目」で見ているかのようにきらめいて、愛おしく感じた。やっぱり私はモネが好きだ! 展覧会を観るだけではもったいないし、紹介した施設以外にもモネ巡りスポットはまだまだ見つかりそうだ。自分なりの巡り方をみつけて、『モネ 睡蓮のとき』を、そしてモネをより深く楽しんでほしい。

取材・文=井川茉代 撮影=川井美波(SPICE編集部)

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