五泉発、生まれ変わったニットブランド「SAIFUKU」。
日本有数のニットの産地、五泉市。このまちの「有限会社サイフク」が従来の自社ブランドをリニューアルし、昨年の秋、「SAIFUKU -snow country knit-」をリリースしました。新ブランド誕生のきっかけや、OEM製造から自社製品づくりへと舵を切ってからの変化など、「サイフク」の常務取締役であり、ブランドマネージャーも務める斉藤さんにいろいろとお話を聞いてきました。
有限会社サイフク
斉藤 佳奈子 Kanako Saito
1978年五泉市生まれ。常務取締役/ブランドマネージャー。大学卒業後に「サイフク」へ入社。この数年の趣味は登山。パンフレットには、自身が谷川岳から撮影した写真が使われている。
雪国らしさ、新潟の美しさをかたちに。
――「サイフク」さんは、業界ではどんなポジションでいらっしゃるんですか?
斉藤さん:五泉市のニット製造業としては、大きい方になってしまいましたね。私が「サイフク」に入社する前、業界全盛期には、市内でも相当な売り上げを誇る会社さんが他にたくさんあったそうです。その中で、当社はそれほど大きい会社ではなかったんですけど、縮小や廃業をされた同業さんがいらっしゃいますので、今となってはそれなりの規模の会社になりました。
――どんなところに強みがあるんでしょうか?
斉藤さん:当社の強みは、糸を買い付けしてから、企画、編立、加工、縫製、リンキング、仕上げ、セットまで、ニット製品ができるまでの一連の工程を自社で完結できるところです。この一貫体制でニットを作れる会社は、そう多くありません。
――この度、これまでのブランドをリブランディングされたとお聞きしました。
斉藤さん:去年の秋に、ポンチョブランド「mino」と、腹巻きやレギンス、マフラーなど、身体や小物を包むアイテムのブランドとして展開していた「226(つつむ)」を統合し、総合ブランド「SAIFUKU snow country knit」をリリースしました。社名の「サイフク」をもっと前面に出したいという思いもあったんです。
――新ブランドを立ち上げるまで、どんな準備をされたんですか?
斉藤さん:「mino」と「226」、ブランドがふたつに分かれているために困ることもあって。少し前からブランドの統合を視野に入れていました。もともと「見せるハラマキ」やお腹部分をすっぽり包むスカートなどが、当社の売れ筋商品なんですね。そこには「温める」という、雪国らしさがありますよね。それにプラスして、新ブランドでは「新潟の自然の美しさ」をテーマに加えたいと考えました。
オリジナルブランド立ち上げからの、あれこれ。
――これまでのブランドについても、教えてください。
斉藤さん:初めての自社ブランドは、2012年に立ち上げた「mino」です。その当時、中国などの海外生産が増えて行くことに危機感を持っていて「国産ニットの業界は小さくなっていくのだろうな」「アパレルさんからのご依頼も減るんじゃないかな」ってよくない兆しを感じていました。「mino」を立ち上げる数年前から、「何かしておいた方がよさそうだ」と種まきをしていたんです。困ってから急に動き出しても、すぐにはかたちになりませんから。
――「mino」はポンチョのブランドでしたよね。どうしてポンチョを商材に選んだんですか?
斉藤さん:当時、私は営業をしていて、アパレルさんと一緒に新商品を作る仕事をしていました。ものすごい早さで企画が進む上に、売り出された商品はあっという間にセール対象になるんですよね。そんな目まぐるしい業界で、私がブランドを立ち上げても、次から次へとアイディアを出し続けられないだろうなと思ったんです。
――minoのポンチョはシンプルなつくりで、フリーサイズですね。
斉藤さん:初めてのブランドですから、サイズ展開が多いと、自分たちが大変だろうという考えもあったんですよ。
――なるほど。その点、ポンチョのサイズ感はあまり気になりません。
斉藤さん:四角形をベースに切り落とし部分なしで作れるので、編み地を有効に使える点にもメリットがあるんです。実際の企画では、そこが制約となって難しかったんですけどね。
――「mino」に続いて、「226(つつむ)」が誕生しました。自社ブランドがあるメリットっていろいろありそうですよね。
斉藤さん:ブランド立ち上げ当初は、「何がはじまるんだろう」って、社内でも不思議がられていたと思います。ある程度の売り上げとなってからは経営や生産の安定にもつながり、ブランドの大切さが浸透してきたように思いますね。
ニットの特性と、五泉のものづくり技術を掛け合わせる。
――自社ブランドを立ち上げてから、どんな変化がありましたか?
斉藤さん:いろいろな面が変わりました。当社のOEM事業は企画営業なので、アパレルさんに相当数の提案をします。おもしろさもやりがいも十分にあるんですが、最終ジャッジをするのは、私たちではありません。一方、自社ブランドの場合は、細かい仕様も含めて自分たちで判断します。色展開やサイズなど、迷い出したらキリがないところを「これでいくぞ」って。その責任感は、やっぱり違いますよね。
――ニットって糸の種類や編み方がいくつもあるし、その組み合わせによっても、違う仕上がりになるわけですよね。
斉藤さん:例えば、大定番の「ストールポンチョ」の春夏仕様では、糸を1本どりで編むか、2本どりで編むかの違いを生かして、透け感のある生地に仕上げています。「レーヨンストレッチTシャツ」の身頃にはストレッチ糸を入れて、透けないようにしています。袖部分にはストレッチ糸を入れず、透け感を出しています。「ニットならではの工夫」をいろいろなところに施しているんですね。
――ニットを知り尽くしているからできる工夫です。
斉藤さん:いちばんの売れ筋商品は、スカートなんですよ。ニットの伸びる特性を生かし、お腹部分にはニットの伸びる特性を生かし、さらにホールガーメントという機械で一体編みにすることで、着たときのシルエットを美しくしています。スカートもTシャツも市場に数えきれないほどある中で、ニットの特性とデザインが「ピタッとハマるもの」ができると、それはやっぱり人気が出るんです。
――読者の方が、気軽に立ち寄れるショップが完成したそうですね。
斉藤さん:昨年の秋に、主に土日に営業している「SAIFUKU SHOP」(※営業日は公式HPやInstagramでご確認ください)がオープンしました。実際に商品を手にする楽しみってありますよね。ニットパンツを発売してから、丈感を確認したいというご要望が多くて。そういった声にも応えられるようになりました。もしお越しになれないという方は、ショッピングサイトをご利用ください。商品の充実度は、ネットショップがいちばんです。
――今後の展望を教えてください。
斉藤さん:事業についていえば、やはり「SAIFUKU」ブランドをもっと伸ばしていかなくちゃいけないと思っています。ブランドを知ってもらうために、今年の春にポップアップショップを代官山で開催します。昨年も秋に開催し、とても好評だったんですよ。それから「五泉ニット」の知名度をあげるために、ものづくりだけじゃなく、五泉そのものを紹介していけるようにウェブやメールマガジンなどを整えていきたいと思っています。
――これからも期待しています。
斉藤さん:ありがとうございます。ここ数年、ブランドが大きくなった手応えが感じられるようになりました。社内でも人材が育ってきて、ひとつひとつの仕事のクオリティが上がってきています。「チームとして強くなってきたな」と思えるようになりました。初めて「mino」を立ち上げた頃を振り返ると、「こんなに遠くまで歩いてこれた」としみじみ振り返ってしまいます。何でも自分たちで汗を流してやってきたことが身に付いて、それがすごく嬉しいんです。
有限会社サイフク
住所/新潟県五泉市寺沢1-6-37
電話/0250-43-3129
SAIFUKU SHOP
住所/五泉市寺沢3-5-12
電話/070-9323-1670
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