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生成AI時代でも「人員削減」をしない企業が求める人材とは? AI研究者たちの未来予測

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生成AI時代でも「人員削減」をしない企業が求める人材とは? AI研究者たちの未来予測

2022年11月、OpenAIがChatGPTを公開して以来、AIに仕事を奪われることに対する不安が広がっている。巷にあふれる「AI時代に必要となるスキル」「生成AIに代替されない人材になるには」といった眉唾もののノウハウを目にした人も多いだろう。

「生成AIによって消える職業」に含まれるのは、ルーチンワークを主とする職業ばかりではない。ゼロから作品を生み出すクリエーティブ職や、高度な知識を必要とするエンジニア職も例外ではないのだ。

AIに知的作業が代替される時代は本当に来るのだろうか。また、来るとしたらいつなのかーー

東京大学松尾研究室出身のAI研究者であり、ベストセラー『生成AIで世界はこう変わる』(SB新書)の著者・今井翔太さんは、AIが人間の仕事全てを代替できる日は、そう遠くないと語る。

2024年12月10日(火)に青山ブックセンターで行われたイベントの内容より、生成AI時代にエンジニアとして生き残る術について、今井さんと、『世界一流エンジニアの思考法』(文藝春秋)の著者であり米マイクロソフトに在籍するエンジニアの牛尾 剛さんが語り合った内容を一部抜粋してお届けしよう。

『生成AIで世界はこう変わる』著者/AI研究者,博士(工学,東京大学)
今井翔太さん(@ImAI_Eruel)

1994年、石川県金沢市生まれ。東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 松尾研究室にてAIの研究を行い、2024年同専攻博士課程を修了し博士(工学、東京大学)を取得。人工知能分野における強化学習の研究、特にマルチエージェント強化学習の研究に従事。ChatGPT登場以降は、大規模言語モデル等の生成AIにおける強化学習の活用に興味。生成AIのベストセラー書籍『生成AIで世界はこう変わる』(SBクリエイティブ)著者。その他書籍に『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』(翔泳社)、『AI白書 2022』(角川アスキー総合研究所)、訳書にR.Sutton著『強化学習(第2版)』(森北出版)など

『世界一流エンジニアの思考法』著者
牛尾 剛さん(

@sandayuu⁠⁠⁠

1971年、大阪府生まれ。米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア。シアトル在住。関西大学卒業後、日本電気株式会社でITエンジニアをはじめ、その後オブジェクト指向やアジャイル開発に傾倒し、株式会社豆蔵を経由し、独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、19年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す

生成AIの進化は鈍化する? 研究者が挙げる三つの背景

「AIに人間の仕事が奪われるのではないか」という不安が、日に日に現実味を帯びてきている。しかし今井さんによると、実は研究者の間では「生成AIの性能は頭打ちになるのでは」という説も囁かれているという。

「この説には複数の背景があります。一つは『スケーリングデータが不足する』というものです。2022年11月、AIの軌跡を調査するエポックAIという研究機関が、高品質の言語データは2026年までにストックを使い果たすだろうという予測を発表しています」(今井さん)

GPT-4の学習データ量は公には明らかにされていないものの、今井さんによると十数兆トークン程度だという。現在生成AIが使っているデータ量を見ると、数年でWeb上のテキストデータを学習し尽くし、進化が限界に達してもおかしくないというのだ。

続いて二つ目の背景として、今井さんは「スケーリング則限界説」について説明。AIの『スケーリング則』とは、学習に使われるデータの規模、計算量、パラメーター数が増加するほどAIモデルの性能が強化されるという法則を指す。GPT-4以降は性能向上率が鈍化しており、無限にリソースを投入できたとしても、それに比例する性能の向上は期待できないのではと見解を述べた。

そして三つ目の背景としては、「そもそも」となる課題を指摘した。

「生成AIの性能が頭打ちになると考える背景には、AIが賢くなりすぎて研究者自体がその賢さを測る術を持ち得ないのでは、という課題もあります」(今井さん)

生成AIの性能が頭打ちになるとしたら、仕事を奪われることを過度に恐れる必要はないと思いたいところだが、そうはいかない。人間が現在行っている知的作業のほぼ全てを代替できるAGI(汎用人工知能)が生まれる日は、そう遠くないと予想されている。

『AI界のゴッドファーザー』と呼ばれるジェフリー・ヒントンなどのトップ研究者によると、人間と同じレベル、もしくは人間以上の知能を持つAGIが誕生するのは、だいたい2030年頃。OpenAIのCEOであるサム・アルトマンなどは、2026年にはAGIが誕生すると主張しているというのだ。

10年足らずで人間の知的作業がAIに代替される未来が来るかもしれない。その事実を踏まえ、大きな意識改革が必要なのだと今井さんは強調する。

「研究の世界にいると、3年かけてやってきたことが明日には無意味になる、という話が頻繁にあります。しかし、世間では『自分がやっていることは不変』と考えている人がほとんどではないでしょうか。大学を卒業して就いた職業が定年まで続くという考え方は、生成AI時代には通用しないと考えた方がいいでしょう」(今井さん)

AI時代をサバイブするには、業界トップか独自ブランドの確立を目指せ

とはいえ、ChatGPTの登場以降、日々の仕事や生活で生成AIを使っているエンジニアは多いだろう。牛尾さんもそのうちの一人だ。

「僕の場合は、利用シーンによってツールを使い分けています。社内のデータや情報に関してはChatGPTに渡せないので、そういうときはGitHub CopilotとかMicrosoft Copilot、もしくはOpenAI Serviceを使っています。

ただ、面白いツールも出てきてはいるので、仕事のデータや個人情報とは関係のない用途で、個人的に触ってみたりはしています。画像生成も触りますよ」(牛尾さん)

あらゆる業界に、あらゆるシーンに、今後もAIが浸透していく。その例として、今井さんは将棋の世界を挙げた。

「藤井聡太九段を始めとする多くのトップ棋士たちが、AIを使って将棋の腕を磨いていますし、対局相手としてもAIが使われていますよね。しかし棋士の仕事がAIに代替されるかというと、そうはならないでしょう。

なぜかというと、将棋の世界にはコミュニティーがあり、人間同士の対局の席ではAI棋士は排除されるから。管理されているコミュニティーがあれば、人間とAIの競合が起こることはないのです。

ですが、多くの仕事には、AIを排除するコミュニティーがありません。例えばイラストレーター。彼らはXなどのSNSに自分のイラストを掲載し、それを見たクライアントから依頼を得ていますよね。しかし、ここにAIを使う業者が入っても、排除する仕組みはありません。むしろX社のトップであるイーロン・マスクは、AI推進派ですから。AIと競合せざるを得ないイラストレーターも出てくるでしょう」(今井さん)

ここで牛尾さんが提案したのが、プログラミングと別の要素を掛け合わせて自分の存在を確立する手段だ。

「僕自身、日本ではプログラマーとして通用しなかったんですが、英語を勉強したからマイクロソフト社に入ることができたんですよ。プログラマーと英語を掛け合わせるだけで、ぎゅっと『マス』が小さくなりますから。

エンジニアの仕事がAIに代替されてしまうと過度に恐れるのではなく、半年ぐらい先を見ながら、少しずつ自分をピボットさせていけばいいと思います」(牛尾さん)

聞くと、牛尾さんは将来性を重視して職業を選択したわけではなく、単純にプログラミングが好きだからエンジニアになったという。だから、生成AIによってエンジニアの将来性が危ぶまれるとしても、別の仕事を探すことはしない。

「先ほどもお話したように、僕はエンジニアとしては3流ですが、エバンジェリストとかPMとかは得意。でもプログラミングが好きな気持ちは変わらなかったので、『自分にプログラミングをアサインする』ようにしてきました。だからこそ、マイクロソフトに入社した時は夢のようでしたね」(牛尾さん)

今井さんは「牛尾さんのように自身のブランドを確立している人であれば、AIに仕事を奪われる心配はないでしょうね」と評しつつ、これからの組織に求められるエンジニア像についての自論を展開した。

「各社が生成AIの導入を急いでいるように見えますよね。ですが、現場の声を聞いてみると意外と使われていないし、人件費削減も、コスト削減もされていないんです。

生成AIを使いこなせる人材がいれば多くの人を雇う必要がないはずなのに、なぜ経営者は社員を求めるのか。私は、『AIには法的責任を負う能力がない』からだと思っています。

これからの時代は単なる作業者ではなく『ビジネスの責任を負う』覚悟が求められるでしょう。その覚悟は、AIには代替されませんから」(今井さん)

文/宮﨑まきこ 撮影/桑原美樹・今中康達(編集部) 編集/秋元 祐香里(編集部)

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