在職老齢年金とは?わかりやすく解説!メリット・デメリットと仕組みを徹底解明
在職老齢年金とは?制度の仕組みをわかりやすく解説
在職老齢年金制度の定義
在職老齢年金制度は、老齢年金を受給しながら働く高齢者を対象とした制度です。この制度は、現役世代の負担が重くなる中で、一定以上の収入がある年金受給者にも年金制度を支える側として協力してもらうという考えに基づいています。
厚生労働省の資料によると、2024年度の制度では、賃金(ボーナスを含む月収)と老齢厚生年金の合計額が50万円を超える場合、超過分の2分の1に相当する年金額が支給停止されます。この基準額は、現役男子被保険者の平均的な月収を基準として設定され、毎年の賃金変動に応じて改定されています。
この制度は、1954年の制度創設以来、社会情勢の変化に応じて何度も改正されてきました。当初は在職中の年金支給を全面的に停止する厳しい制度でしたが、1965年に65歳以上の在職者への支給が開始され、その後も段階的に緩和されてきました。近年では、高齢者の就労を促進する観点から、支給停止の基準額が引き上げられるなど、より柔軟な制度へと変化しています。
在職老齢年金制度の特徴的な点は、年金の全額が停止されるわけではなく、収入に応じて段階的に調整される仕組みになっていることです。これにより、高齢者は自身の希望や生活状況に応じて、就労と年金受給を組み合わせた柔軟な生活設計が可能となっています。
また、この制度は基礎年金部分には適用されず、厚生年金の報酬比例部分のみが対象となります。特に介護業界においては、この制度の影響は少なくないと考えられ、人手不足が深刻化する介護現場では、豊富な経験を持つ高齢者の活躍が期待されています。
在職老齢年金制度の対象者
在職老齢年金制度の対象者は、厚生年金保険の適用事業所で働く60歳以上の方々です。総務省の労働力調査によると、60代前半の就業率は年々上昇傾向にあり、2023年時点で男性84.4%、女性63.8%となっています。特に介護分野における高齢者の就業率は他産業と比較して高い水準にあります。
対象者は年齢によって2つのグループに分けられます。60歳から64歳までの前半グループと、65歳以上の後半グループです。2022年4月からの制度改正により、60歳から64歳の方々の支給停止基準額が引き上げられ、65歳以上の基準額と同じ水準になりました。
厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」によれば、65歳までの雇用確保措置を実施している企業は99.9%に達しています。その中で最も多い取り組みが継続雇用制度の導入で、全体の69.2%を占めています。これにより、多くの高齢者が在職老齢年金制度の対象となる可能性があります。
制度の対象となるかどうかは、主に以下の3つの条件で判断されます。
老齢年金の受給資格を持っていること 厚生年金保険の適用事業所で働いていること 賃金と年金の合計額が一定額を超えること
特に介護分野では、夜勤手当などの変動的な給与要素があるため、月々の収入に応じて対象となるかどうかが変わる場合があります。介護業界においては、人材確保の観点からも、この制度への理解と適切な対応が重要となっています。
在職老齢年金制度の支給停止基準
2024年度における在職老齢年金の支給停止基準は、賃金と年金の合計額が50万円を超えた場合に適用されます。この基準額は毎年見直され、現役男子被保険者の平均的な月収(ボーナスを含む)を基に設定されています。
支給停止額の具体的な計算式は以下の通りです。
支給停止額 =(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)× 1/2
この計算をより具体的に理解するため、介護職での一般的な例を見てみましょう。
月額の賃金が30万円で年金額が25万円の場合:
合計額の計算:30万円 + 25万円 = 55万円 基準額との差額:55万円 - 50万円 = 5万円 支給停止額の計算:5万円 × 1/2 = 2.5万円
この場合、月額25万円の年金のうち2.5万円が支給停止となり、実際の支給額は22.5万円となります。注目すべき点として、支給停止は基礎年金部分には適用されず、厚生年金の報酬比例部分のみが対象となります。また、70歳以上の方は厚生年金の被保険者とならないため、保険料負担はありません。
厚生労働省の統計によると、2022年度末時点で約50万人(在職受給権者の約16%)が支給停止の対象で、現役世代の保険料負担の軽減に一定の効果を上げています。
在職老齢年金制度のメリット・デメリットを徹底解説
在職老齢年金制度のメリット
在職老齢年金制度には、社会保障制度全体の持続可能性を高める重要なメリットがあります。厚生労働省の資料によると、この制度により年間約4,500億円の財政効果が生まれており、年金制度の安定運営に貢献しています。
このように制度の第一のメリットは、世代間の公平性確保です。現役世代の保険料負担が増加傾向にある中、一定以上の収入がある高齢者にも応分の負担を求めることで、世代間の給付と負担のバランスを保っています。なお、基礎年金部分には影響を与えないため、最低限の生活保障は維持されます。
第二のメリットは、高齢者の多様な働き方を支援する仕組みとなっていることです。介護業界を例にとると、フルタイムからパートタイムまで、個々の希望や体力に応じた柔軟な就労が可能です。
企業側にとっても、この制度は人材確保の観点から重要なメリットをもたらしています。介護業界では深刻な人手不足が続いていますが、経験豊富な高齢者の継続雇用が可能となることで、サービスの質の維持向上につながっています。
さらに、この制度は社会保障制度全体の観点からも意義があります。高齢者の就労促進は、税収の増加や社会保険料の確保にもつながり、社会保障制度全体の持続可能性を高める効果があります。高齢化が進む日本社会において、このような制度の存在は重要な意味を持っています。
在職老齢年金制度のデメリット
在職老齢年金制度には、高齢者の就労意欲に影響を与える可能性があるというデメリットが存在します。厚生労働省の調査によると、60代後半の約31.9%が「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら会社などで働く」と回答しています。これは制度が就労抑制効果を持つ可能性を示唆しています。
就業形態による不公平性も大きな課題です。この制度は厚生年金の適用事業所で働く場合のみが対象となり、自営業や請負契約での就労は対象外となっています。介護分野では、訪問介護や個人での介護サービス提供など、さまざまな就業形態が存在するため、この点も頭に入れておかなければなりません。
制度の複雑さによる理解の困難さも重要なデメリットです。支給停止額の計算方法や適用条件が複雑で、多くの高齢者が制度を十分に理解できていない実態があるでしょう。
在職老齢年金制度の課題
在職老齢年金制度には、長期的な視点で見た場合、いくつかの重要な課題が存在します。厚生労働省の社会保障審議会年金部会での議論によると、制度の持続可能性と高齢者の就労促進の両立が最も重要な課題として挙げられています。
多くの業界で人手不足が叫ばれる中、スーパーマーケット業界からは「人手不足の中で高齢者の活躍に期待している。しかし、働いた収入が多いと年金受給額が減ることがあるため、従業員が就労継続を希望しない、または勤務時間を短縮する傾向も見られる」という声が上がっています。
現行制度における技術的な課題も存在します。例えば、支給停止の基準額は賃金の変動に応じて毎年改定されますが、この改定の仕組みが現代の多様な働き方や賃金体系に十分対応できていません。厚生労働省の資料によると、特に60代後半の賃金水準は上昇傾向にあり、現行の基準額との間にミスマッチが生じています。
制度の分かりやすさという観点からも課題があります。タクシー業界からは「在職老齢年金制度に関する広報が足りない。厚生年金部分しか考慮しないことが正確に伝わっていないのではないか」という指摘がなされています。制度の複雑さが、高齢者の就労選択に影響を与えている可能性があります。
さらに、将来的な課題として、20代や30代の現役世代の意識変化への対応があります。この世代は75歳や80歳まで勤労することが当たり前の時代を生きると予想され、60代の勤労とその報酬を特別扱いする現行制度との間に違和感が生じる可能性が指摘されています。
在職老齢年金制度の見直しと今後の展望をわかりやすく解説
在職老齢年金制度の最近の見直し内容
在職老齢年金制度は、2022年4月に大きな制度改正が実施されました。この改正の中心は、60~64歳の在職老齢年金制度(低在老)における支給停止の基準額の見直しです。従来の28万円から47万円(2024年度は50万円)へと大幅に引き上げられました。
この改正は、主に3つの観点から実施されました。まずは、就労に与える影響への配慮。これまで説明したように、制度が高齢者の就労意欲に一定の影響を与えていることが確認されていたためです。
次に、女性の就労支援です。2030年度まで支給開始年齢の引上げが続く女性の就労を支援する必要性が認識されていました。
そして、制度の分かりやすさの向上です。従来は60歳台前半と後半で異なる基準が適用されていましたが、基準額を統一することで制度の理解がしやすくなりました。
在職老齢年金制度の今後の方向性
在職老齢年金制度の今後の方向性について、厚生労働省の社会保障審議会年金部会では、3つの重要な検討案が提示されています。その内容は、制度の撤廃案から基準額の段階的引き上げまで、幅広い選択肢が含まれています。
在職老齢年金制度の完全撤廃 この案のメリットは、保険料を拠出された方に対してそれに見合う給付を行うという年金制度の原則に立ち返ることができる点です。一方で、撤廃した場合、将来世代の給付水準が低下するという試算も示されており、所得代替率は約0.5%低下すると予測されています。 支給停止の基準額を71万円に引き上げる この案は、同一企業における勤続年数の長い労働者が、現役期に近い働き方を続けた場合の賃金に加え、一定以上の厚生年金加入期間に基づく年金収入を得ても支給停止とならないように配慮したものです。この場合、支給停止対象者は約23万人(在職受給権者の約7%)に減少すると試算されています。 支給停止の基準額を62万円に引き上げる これは、近年の60歳代高齢者の平均賃金の上昇傾向を踏まえたもので、平均的な収入を得る50歳代の労働者が、60歳代で賃金の低下を経ることなく働き続けた場合の賃金水準を考慮しています。この場合、支給停止対象者は約30万人(在職受給権者の約10%)となる見込みです。
介護業界からは、人材確保の観点から、より柔軟な制度設計を求める声が上がっています。製造業(鋳鍛鋼)からは「65歳以降も働き続ける方が多い中で、在職老齢年金制度を意識し、出勤日数を調整するようなケースが見られる」という指摘もあり、就労促進との両立が重要な課題となっています。
高齢者の就労と年金受給の両立に向けた課題
高齢者の就労と年金受給の両立に向けた課題は、介護業界においても表れてくるでしょう。厚生労働省の調査によると、65歳以上の就業率は年々上昇しており、2023年時点で介護分野における高齢者の就業率は他産業と比較して高い水準にあります。
最も重要な課題は、多様な勤務形態への対応です。介護現場では24時間体制のシフト勤務が一般的であり、夜勤手当などによる収入の変動が大きいという特徴があります。
製造業(家具)からの意見を参考とすると、「工場においては、高齢者が有する経験や専門知識、高齢者から若年者への技能継承が重要。現時点では、60歳定年後の再雇用で給与水準が下がるケースが多く、支給停止の基準に該当する方は多くないが、今後、高齢者についても賃上げが進んでいくと、支給停止の基準を引き上げておかなければ、労働需要と供給のミスマッチが起きるかもしれない」という指摘があります。
介護業界においても職員の年齢が上がっていけば同様の事態が発生することも考えられるでしょう。
また、制度の周知と理解促進となり、キャリアプランニングの支援体制の構築も課題となっています。特に介護業界では、70歳以降も働き続けるケースも増加傾向にあるので、長期的な視点での就労計画と年金受給の組み合わせ方について、適切なアドバイスが求められています。
これらの課題に対応するため、政府は制度の見直しを継続的に検討しています。しかし、世代間の公平性や財政への影響も考慮する必要があり、慎重な議論が続けられています。