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【葛城北の丸の「手島右卿×大杉弘子」展】 東京大空襲の記憶「崩壊」にピカソを脱構築した「げるにか」

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は袋井市の葛城北の丸で9日から開かれている「手島右卿×大杉弘子」展 を題材に。

袋井市の現代書家大杉弘子さんと師匠の手島右卿氏(1901~1987年)の「共演」。テレビディレクターで作家の井上恭介さんのプロデュースによる展示は、葛城北の丸の大広間など2室と廊下に作品50点を掲げた。

1958年、ベルギー・ブリュッセルの万国博覧会に出品された手島氏の「抱牛」を入口に据えた80畳の大広間は、壁のぐるりに二人の作品が対比的に並んでいる。

特に目を引くのが横並びになった手島氏「崩壊」(1957年)と大杉さんの「げるにか」(2025年)。ブラジルでのサンパウロビエンナーレに出品された「崩壊」は東京大空襲で焼失した自宅の記憶をぶつけた作品という。スピード感ある筆の運びに、あらがいきれない大きな力に否応なく変容を迫られる景色の無残が感じ取れる。

一方で「げるにか」は平和の象徴たる「鳩」やひらがなを細く、たおやかな線で表現。作品の淵源にはもちろんピカソのよく知られた作品がある。今回展にも出品されている手島氏の「山行」(1948年)も基礎にあるとするが、限られた画面の中で緻密に計算された密度のメリハリは大杉さんならではだろう。「柳腰」という言葉がぴったりくるような艶めいた曲線は、「小町」シリーズにも見て取れる。

もう一つ、今回展の見どころは二人の臨書である。手島氏の朱墨による六曲一隻のびょうぶ「臨蘭亭叙」は王羲之に範を取ってはいるが、原本を見ずに一気に書き上げたものという。いわゆる「背臨」である。ただまねるのではない臨書の「奥義」のようなものが画面から表出している。

大杉さんはの臨書は顔真卿。文字の一つ一つに目を奪われる。端正と乱調の共存。普通ならあり得ないことが、墨と筆で実現している。「絵画的」とも評される大杉さんの強固な土台部分を感じ取った。

(は)

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■ 葛城北の丸「手島右卿×大杉弘子」展
住所:袋井市宇刈2505-2 
開館:午前10時~午後5時
観覧料(当日):一般1650円、高校生990円、中学生以下無料
会期:2月16日(日)まで

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