「赤ちゃんの初外出は生後1ヵ月からOK」は根拠なし! 外出の開始時期と注意点〔医師が解説〕
子どもに多い病気やケガへの対処法の最新知識を伝える連載「令和の子どもホームケア新常識」第8回。「赤ちゃんとの外出は生後1ヵ月を過ぎてから」という旧常識について、小児科医・森戸やすみ先生が解説。
新幹線帰省歴10年超! ワンオペママが「子連れで新幹線にラクに乗る」7つのコツ【旧常識】赤ちゃんとの外出は生後1ヵ月を過ぎてから。現代の子育てやホームケアには、私たち親世代が子どもだったころとは大きく変わってきているものが多数あります。子ども時代の記憶を頼りに、古い常識のまま子育てをしていませんか?
本連載【令和の子どもホームケア新常識】では、子どもに多い病気やケガへの現代の正しい最新対処法などを、小児科医・森戸やすみ(もりと・やすみ)先生が解説。
第8回は「赤ちゃんとの外出は生後1ヵ月を過ぎてから」という旧常識について。
外出のスタート時期に決まりはない
赤ちゃんのいる生活に慣れてきたころ、楽しみなのが赤ちゃんとの初めてのおでかけ。両親や先輩ママから「生後1ヵ月になるまで外出しないほうがいい」と聞いたママパパも多いのでは?
ただ、西欧や北米だと生後数日で外出することは珍しくないという声も。いったい何が正しいのか、森戸やすみ先生に伺いました。
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赤ちゃんとの外出の開始時期は、日本だと「生後1ヵ月以降が目安」とされることが多いようですが、実は医学的根拠はありません。たしかに、生まれたばかりで免疫力の低い赤ちゃんには、ウイルスや細菌に感染したり、屋内外の気温差で体調を崩したりするリスクがあります。
とはいえ、「ワクチンを受けていれば風邪をひかない」「外気温が◯℃以上なら安心」などと、赤ちゃんの安全を保証する医学的な基準もないのです。
1ヵ月健診の際、保護者の方に「順調ですね」とお伝えすると、「じゃあ、そろそろ外に連れていってもいいですか?」と聞かれることがよくありました。でも、外出の開始時期と赤ちゃんの成長段階は関係ないですし、医学的な基準もないのですから、医師が許可を出すのも不思議な話ですよね。
フランスやドイツなどでは、生後すぐの赤ちゃんと一緒に外出するママパパもいるようです。それに、第1子であれば生後1ヵ月を過ぎるまでずっと家にいられるかもしれませんが、第2子以降になると上の子のお世話や幼稚園・保育園の送迎などで、現実的には難しいと思います。
季節に合わせて時間帯を選び、赤ちゃんの健康状態にさえ気をつけていれば、さほど神経質にならなくてもよいでしょう。
人ごみは避けて短時間の外出から
赤ちゃんとの外出は、夏なら涼しい午前中や夕方、冬ならあたたかい昼間から始めるようにおすすめしています。言うまでもありませんが、強風でほこりっぽい日、暑さが厳しい真夏の日中、凍えるような寒さの日など、大人でも外出が億劫なときは控えましょう。
ママパパの買い物や用事に付き合うくらいのちょっとした外出から始めて、慣れてきたら少しずつ時間を長くしていきます。
出先で赤ちゃんがおなかを空かせて授乳ができない状況は避けたいので、授乳間隔が短いうちは授乳と授乳の間の2~3時間がいいですね。この程度ならたいていの場合、出先でおむつを替えなくても済むはずです。
外出時の服装は住んでいる地域によっても変わるので、季節やその日の気候に合わせて選んでほしいのですが、厚着のさせすぎには注意しましょう。赤ちゃんの体を必要以上にあたためてしまうと、乳幼児突然死症候群のリスクが高まります。
よく「大人の服装マイナス1枚」ともいわれますが、赤ちゃんはまだ体温調節機能が未熟なこともあり、薄着すぎるのも問題です。肌寒いとき、冷房のきいた屋内に入るときのために、さっと羽織れる洋服やタオルなどがあるといいですね。赤ちゃんの様子を見ながら臨機応変に対応しましょう。
もっとも気をつけたいのが、やはり感染症です。感染症は飛沫感染によるものが多いので、風邪などの感染症が流行している時期は人ごみを避けましょう。
上の子の幼稚園・保育園の送迎などで子どもが多い場所へ行くときは、風邪症状が見られる子と接触させないように注意が必要です。また、園児の中には赤ちゃんが好きで触ろうとする子がいるかもしれませんが、「もう少し大きくなってからね」などと伝え、控えてもらいましょう。
遠出は移動手段のメリット・デメリットを比較
旅行や帰省など、遠方への外出の開始時期も、医学的な根拠による答えはありません。公共交通機関の月齢制限も法律では定められておらず、電車やバスは生後すぐから利用できて、JALやANAなどの航空会社では生後8日以上としています。
ただ、これは赤ちゃんの安全を保証するものではないので、利用する際は、赤ちゃんの健康状態や移動時間を十分に考慮して検討しましょう。
電車かクルマか移動手段で悩んだときは、それぞれのメリット・デメリットを考えて比較するとよいと思います。例えば電車は、比較的時間どおりに移動できること、新幹線ならトイレや多目的室に近い席にすれば、おむつ替えがしやすいことがメリットとして挙げられます。
反対にデメリットは、人が多く感染症にかかりやすいこと、赤ちゃんが泣いたときに周りの目が気になることでしょうか。混雑時を避けて利用するのがポイントですね。
対してクルマのメリットは、荷物が多くても運びやすく、マイペースに移動できること、授乳やおむつ替えに合わせて休憩がとりやすいこと。
デメリットは、渋滞があると予定より時間がかかること、チャイルドシート(ベビーシート)を正しく使用していないと「乳幼児揺さぶられ症候群」の危険性があることなどです。
6歳未満の乳幼児とクルマ移動する際は、道路交通法により、チャイルドシートの使用が義務付けられています。未使用だと違反になるばかりか、万が一、交通事故にあったときに大変危険です。
チャイルドシートは説明書どおりに設置し、正しく使用しましょう。赤ちゃんの首が安定しないときは、隙間にタオルなどを詰めると「乳幼児揺さぶられ症候群」の予防につながります。タオルがずれて赤ちゃんの口をふさがないように十分注意してください。
そのためにも、赤ちゃんとふたりきりでの移動は極力避け、保護者の誰かが赤ちゃんの隣にいられる状態がいいですね。
また、赤ちゃんとの外出時にクーファン(簡易ベビーベッド)を使用するケースが見られますが、クーファンは移動用ではありません。赤ちゃんの体を固定できないため落下事故も多く、手で持ち歩くのは大変危険です。
出先での一時的なベッドとして使用するのはもちろんよいのですが、赤ちゃんを寝かせたまま移動するのは絶対にやめましょう。
赤ちゃんとの外出はママパパの気分転換にも
赤ちゃんの外出には、さまざまなメリットがあります。ひとつは、皮膚に紫外線を浴びることでビタミンDを生成できること。
ビタミンDには、骨の形成に不可欠なカルシウムの吸収を助ける働きがあります。母乳に含まれるビタミンDは少なく、胎内にいるときにお母さんからもらった分もだんだんと減っていきます。
離乳食が始まったら、魚や卵、きのこ類など、ビタミンDが豊富な食材を取り入れながら、おでかけの際に適度な日光浴をするといいですね。
また、風や光を感じたり、鳥や動物の声を聞いたり、暑かったり寒かったり、外の世界に触れて五感が刺激されると、脳の発達をうながすことができます。生後3~4ヵ月になれば、光の刺激によって概日リズム(体内時計)も整うようになるでしょう。
赤ちゃんとの外出は、ママパパにも大いにメリットがあると思います。生後間もないうちはどうしても家にこもりがちですが、寝不足が続く中で何もしゃべらない子と24時間ふたりきりというのは、いくらかわいいわが子でも精神的につらいものです。ときどきはおでかけして誰かとおしゃべりするなど、上手に気分転換していただきたいですね。
【子どものホームケアの新常識 その8】
赤ちゃんとの外出は、季節や時間帯を選んで感染症に注意すれば、生後1ヵ月未満でもOK。
取材・文/星野早百合
●森戸 やすみ(もりと・やすみ)PROFILE
小児科専門医。一般小児科、新生児集中治療室(NICU)などを経験し、現在は都内のクリニックに勤務。医療と育児をつなぐ著書多数。