【スサノオの勝利宣言】アマテラスとスサノオの誓約とは?【眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話】
アマテラスとスサノオの誓約
スサノオの勝利宣言
【アマテラスとスサノオから八柱の神が誕生】
葦原の中つ国から追放されたスサノオノミコトは、
「亡き母のいる根の堅州国へ向かう前にアマテラスオオミカミを訪ね、経緯を説明してから行くことにしよう」
と呟き、高天の原にのぼりはじめました。
すると、山や川がことごとく大きな音を立てながら激しく揺れ動きました。これに驚いたのがアマテラスオオミカミです。
「わが弟が高天の原にのぼってくるのは、何かたくらみがあるからにちがいない。わが国を奪うつもりではないか」
そういって、ただちに迎え撃つ準備をはじめました。
まず、髪を解いて、みづらという男の髪型に改めました。髪の左右の束と左右の手首、額にはそれぞれ、高天の原の権威と呪力の象徴である勾玉(まがたま)を数多く連ねた玉の緒を巻き、背中には1000本もの矢が入るほどの大きな矢筒を背負いました。腹には500本の矢が入る大きな矢筒を巻きつけ、腕には弓弦があたると凄まじい響きを発する防具をつけます。そして、堅い地面を粉雪のように蹴散らし、太ももまで没するほどの力で踏みしめて、弟と対峙したのです。
スサノオノミコトは身の潔白を主張しましたが、アマテラスオオミカミは、なかなか信じようとしません。そこで、弟の提案に従い、白黒の判断を*¹誓約(うけい)に委(ゆだ)ねることにしました。
まず、アマテラスオオミカミがスサノオノミコトから剣を受けとり、それを三つに折ってから聖水をふりかけ、口のなかに入れて粉々に噛み砕いて、霧状の息を吹き出しました。すると、そこからタキリビメノミコト(多紀理䈝売の命)ら三柱の女神が生まれました。
次に、アマテラスオオミカミから五つの玉の緒を受けとり、スサノオノミコトが同じようにして吐き出すと、そこからはアメノオシホミミノミコト(天の忍穂耳の命)ら五柱の男神が生まれました。これを見て、アマテラスオオミカミはスサノオノミコトにいいました。
「後に生まれた五柱の男神は私の持ち物から生まれたのだから、私の子です。三柱の女神はあなたのものから生まれたのだから、あなたの子です」
タキリビメノミコトら三柱の女神は、宗像(むなかた)大社に祀られています。また、男神の*²アメノホヒノミコト(天之菩卑の命)の子のタケヒラトリノミコト(建比良鳥の命)は出雲(いずも)の国の造(みやつこ)など、アマツヒコネノミコト(天津日子根の命)は*³凡川内(おおしかわち)の国の造などから祖神として崇(あが)められています。
さて、誓約の結果はといえば、
「私に邪心がないから、私の持ち物から女神が生まれたのです。これで身の潔白が証明されました。この誓約は私の勝ちです」
スサノオノミコトはそう宣言しました。
*¹ 誓約とは、「祈る」「誓約する」といった意味で、古来より日本に伝わる占いの一種。
*² p68 に登場するアメノホヒノカミ(天之菩比の神)と同一の神。表記は原文に従う。
*³ 凡川内の国は、現在の大阪府南部。
アマテラスは男の姿でスサノオと対峙した。
アマテラスオオミカミは三柱の女神を、スサノオノミコトは五柱の男神を生んだ。
三柱の女神を祀る宗像大社
宗像大社の祭神
宗像三女神
多紀理䈝売の命(タキリビメノミコト)(=田心姫の神(タゴリヒメノカミ))――沖ノ島・沖津宮
多岐都比売の命(タキツヒメノミコト)(=湍津姫の神(タギツヒメノカミ))――大島・中津宮
市寸嶋比売の命(イチキシマヒメノミコト)(=市杵島姫の神(イチキシマヒメノカミ))――田島・辺津宮
沖ノ島(沖津宮)
島全体が御神体とされ、古くは4世紀ごろの貴重な文化財が見つかっている。
大島(中津宮)
土地柄もあり、海運漁業者の信仰がとりわけあつい宮である。七夕伝説発祥の地ともいわれる。
田島(辺津宮)
宗像三女神の降臨の地と伝えられ、高宮祭場という全国でも数少ない古式祭場がある。
福岡県宗像市の沖ノ島、大島、田島は、古来、北九州から朝鮮半島への航路の要衝となっており、海上の交通安全を願う渡航者たちからの信仰を集めてきた。3つの宮を総称して宗像大社と呼ばれる。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話』監修:谷口雅博