無冠のスーパースター「フランソワ・ミジャヴィル」『シャトー・テルトル・ロトブフ』の魅力に迫る
ボルドー地方サンテミリオンの孤高の存在『シャトー・テルトル・ロトブフ」。自然なワイン造りで、凝縮感とフレッシュ感を備えるワインは世界にファンを持つ。無冠のスーパースターの魅力に迫る。
当主のフランソワ・ミジャヴィル氏は妻ミルーテさんの故郷サンテミリオンに移住し、彼女の実家の土地を受け継いだ。サンテミリオン南東部にあるサン・ローラン・デ・コンブの斜面に5・7ヘクタールの畑が広がっている。
「テルトル・ロトブフ」は「げっぷする牛の丘」という意味であり︑中世に牛の放牧に使われていたことに由来している。「パヴィ」と「ベルフォン・ベルシエ」の中間に位置し、「トロロン・モンド」や「モンドット」も近い。
この地は標高が高く冷涼で、冷たい石灰岩の上に粘土が堆積している。
古典的なワイン造りで格付けには無関心
遅摘みで、収量は低い。オーガニック栽培で。 グリーンハーベストは行わない。セカンドワインは造らず、畑全体のテロワールを表現しようとしている。
発酵温度は35度に達することもあり、マセラシオン(醸し)の期間は長い。プレスワインをすべてブレンドする。
最初のヴィンテージは1978年で、ロバート・M・パーカー・Jr.氏やミシェル・ベタンヌ氏に高く評価され、 90年代にスーパースターとなった。サンテミリオンの格付けには興味がなく、申請していないが、ファンは世界に広がっている。
毎年4月のプリムール期間は予約を取るわけでもないが、世界の評論家、マスター・オブ・ワイン、バイヤーらで、狭いカーヴは一日中ごったがえす。
緻密な選別や醸造の温度管理を進めるボルドーにおいて、ミジャヴィル氏は人工的なコントロールを嫌い、テロワールを素直に表現する古典的なワイン造りを続けている。
ボルドーよりブルゴーニュのヴィニュロン(栽培醸造家)のような昔ながらのワインを連想させる。
自然な凝縮感とフレッシュ感を備え。土地の味わいを表現する個性的なワインは、自然派と呼びたくなるような純粋さと繊細さに溢れている。詩的なワインだ。
2020年を試飲すれば、クリーンでモダンなボルドー・ワインに慣れた味覚の持ち主は、目を見開かされるだろう。
20年の気候は、8月から9月まで続いた熱波と9月後半の雨に特色づけられる。雨のおかげでタンニンが熟して香り豊かになった。
遅摘みのテルトル・ロトブフにしてはかなり早い収穫となり、9月23日に始まり10日程度で終わった。エネルギーが詰まっている。ワインは技術ではなく、畑のポテンシャルを引き出す造り手の信念の産物だとわかるだろう。
衛星地区からも個性的なワイン
ミジャヴィル氏は「強さや大きさのあるワインは探していない。アロマティックで、熟成し、土地の味わいをピュアに表現する個性のあるワインを造る」と2020年のプリムールを試飲した際に語っていた。
ミジャヴィル氏が手掛けるのはテルトル・ロトブフだけではない。彼の息子でコンサルタントとしても活躍するルイ氏と妻カロリーヌさんが加わり、サンテミリオンの衛星アペラシオンから『シャトー・ロック・ド・カンブ』『ドメーヌ・ド・カンブ』『ロラージュ』『ル・ヴェルサン』も生産している。
高騰するサンテミリオン以外でお値打ちのワインを探すスマートな愛好家が目を付けている。
シャトー・ロック・ド・カンブは1987年にコート・ド・ブールで購入した。
徐々にテルトル・ロトブフに準じた栽培、醸造に切り替えて、96年からは100パーセント新樽で熟成を行っている。
官能的なテルトル・ロトブフに比べると、がっしりした骨格でさらに長期熟成タイプ。ドメーヌ・ド・カンブはロック・ド・カンブの下部斜面に位置し、ジロンド川が目の前にある。粘土石灰質で力強いワインを生む場所だ。
ロラージュはルイ氏とカロリーヌさんが、2007年からコート・ド・カスティヨンで運営しており、サンテミリオンの斜面に続く丘陵地帯から生まれる。
ル・ヴェルサンはサンテミリオンの有名シャトーが展開しているカスティヨン・コート・ド・ボルドーにある。標高が高く、表土の薄さからくるフィネスを感じる。
すべてのワインにファミーユ・ミジャヴィル氏の精神が宿っている。
問い合わせ先:㈱ラック・コーポレーション
text by Akihiko YAMAMOTO