介護施設の給与未払い!|実はそれ給与未払い?!起こりやすい事例と原因を紹介します!
執筆者/専門家
山本 武尊
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/23
先般、有料老人ホームにおいて給与未払いなどが原因で職員の集団退職などが問題となっています。
この状況を受けて、厚生労働省は「有料老人ホームの安定的かつ継続的な運営の確保の徹底について(令和6年10月18日老高発1018第1号)」についての通知を発表しています。※
介護施設で知らない間に起こりうる、給与未払いに関する労働基準法(労基法)違反の事例について、この記事では3つの事例を用いながら解説します。
これらは職場の管理不足や意識の低さから発生することがあり、特に介護施設では人手不足や業務の多忙さが原因となることが少なくありません。
※出典:厚生労働省有料老人ホームの安定的かつ継続的な運営の確保の徹底について
介護施設における給与未払いの事例
事例1:未払い残業代
労働基準法において使用者は労働者に、休憩時間を除き1週間につき40時間を超えて、1日においては8時間を超えて労働させてはなりません。(労働基準法第32条1項・2項)
残業を行っているのに、その分の賃金が支払われていないということが介護事業所だけでなく多くの職場において発生しています。ご存知のように残業とは、会社からの指示があって業務を行うのですが、介護施設で働く職員が終業時刻を過ぎても何となく仕事を続けている場合も少なくありません。それが結果としてサービス残業となってしまいます。
また残業代も本来は1分単位での支払いとなるため、残業代支払いは30分過ぎてからと言われる、いわゆる「25分カット」も違法となります。また制服等の着替えの時間も厳密に言えば労働時間にあたるとされています。
ー介護施設において残業代の未払いが起こる原因
残業代の未払いが生じる原因としては、主に以下の3つが考えられます。
1.タイムカードや記録の不備
→実際の労働時間が正確に把握、もしくは記録されていないことが考えられます。
2.暗黙のサービス残業
→ 職員が「ケアのためだから仕方がない」と考え、業務の「ついで」として自主的に残業してしまいます。
3.管理者の無関心
→残業が把握されていても手当を支払わないケースがあります。
残業を命じていない(命じられていない)のであれば、ダラダラと仕事をする(仕事をさせる)ことがないようにお互いに労働時間という認識を持つのがよいでしょう。
事例2:深夜手当の未払い
介護施設はシフト制で業務分担をしているところが多いと思います。22時~翌5時までは深夜の割増賃金が支払われるのですが(労基法37条4項)その計算が正しくされておらず、未払いとなっていることが考えられます。
ー介護施設において深夜手当の未払いが起こる原因
深夜手当の未払いが生じる理由としては、主に以下の2点のような状況が考えられます。
1.夜勤入りでまだ残業していないから
→夜勤と残業の概念が混同し、計算されていない場合があります。
2.仮眠時間だから
→休憩時間と労働時間が曖昧となっていることも少なくありません。仮に仮眠時間としても夜勤でフロア1人対応であれば、実質、労働からは解放されておらず、休憩時間とはなりません。
深夜手当は就業規則や労働契約で定められているため、法律上必ず支払わないといけない賃金です。
事例3:休日出勤の未払い
労働基準法上では、使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない(労基法35条)とされており、会社が定める休日(法定休日)があります。
労基法では、休日労働には通常賃金の1.35倍以上の割増賃金が必要とされていますが、それが未払いとなっているケースがあります。
ー介護施設において休日出勤手当の未払いが起こる原因
休日出勤の手当てが未払いになるのには、主に以下2点が理由として考えられます。
1.シフト管理が曖昧で休日労働がしっかり把握をされていない
2.24時間365日稼働をしている介護施設が多いため、休日そのものの意識が低い
介護施設における給与未払いを防ぐ!適切な労務管理とは?
先述した通り、これらの事例のような結果を招くのは会社側(介護施設側)の労働基準法への意識の低さが大きな要因として考えられます。
給与未払いを防ぐために、以下の3点を対応策として参考にしていただければ幸いです。
1.タイムカードや出退勤記録の適正管理
職員が働いた時間を正確に記録できるシステムを導入したり、上司による労働時間の確認をおこなったりしましょう。互いにチェックされている、しているという意識が芽生えると、自然と労務管理への意識も増進することでしょう。
2.給与明細の透明性確保
賃金の内訳(基本給、残業代、手当など)を明確に記載したり、 職員が内容を確認しやすい仕組みを作ったりすることで、給与明細の内容と、実際の勤怠があっているのか職員自身で確認することができます。
また、給与未払いのトラブルが生じた際の証跡にもなりますので、事業所側にとってもメリットがあります。
3.労働契約と就業規則の明確化
労働条件通知書で給与体系や手当について明記をし、雇用時にしっかり読み合わせをおこなったり、その後も定期的な見直しと、変更があればしっかりと説明を実施したりすることで、雇用側と従業員側での相違を防ぐことができます。
最後に:給与とは介護施設と職員との信頼の証
給与は介護施設(事業所や企業)がしっかりと仕事をしていただいた労働の対価として職員に支払うものです。言い換えれば、職員は介護施設から給与をもらうことで労働を提供しています。
それが正しく計算をされていない、間違った認識での支払いをされているなどといったことになれば、それは職員の不信につながり、信頼関係が崩れる恐れがあります。
一方で介護施設の特性として、職員が「利用者さんのために」というホスピタリティ精神から自己犠牲的な働き方をしてしまう場合があります。しかし、これを放置すると経営側の管理責任が問われるだけでなく、職員のモチベーション低下や健康状態の悪化にも繋がってしまいます。
その結果としてご利用者さまへ質の高いサービスの提供ができなくなってしまいかねません。きちんと労働基準法を遵守し、働きやすい環境を整えることが施設運営の長期的な成功につながる第一歩ではないかと考えています。
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