チョコパイも日本画に!SNS時代のモヤモヤ解消のヒントも|葛西由香個展『遠い場所から手を振り合う』
札幌・ギャラリー門馬で開催中の日本画家・葛西由香さんの個展『遠い場所から手を振り合う』。チョコパイやぬいぐるみなど身の回りのものを題材に、ユーモアあふれる作品名が添えられた日本画や立体作品が並びます。肩の力を抜いて楽しめる現代的な日本画展の魅力をご紹介します!
【画像で見る】チョコパイも日本画に!葛西由香個展の様子(全6枚)
日本画でチョコパイ?題材と作品名がじわじわくる唯一無二の魅力
国内外の展覧会やアートフェアで作品が紹介されている日本画家の葛西由香さん。「日本画」と聞くと、墨一色で描かれた風景画や着物を着た美人画を思い浮かべるかもしれませんが、彼女の描く日本画は少々ユニーク。チョコパイを描いた《無償の愛》、窓からのぞくぬいぐるみを描いた《通る人、またはぬいぐるみのために》など、題材は誰もが思い当たる節のある一場面、かつ、思わずニヤリとしてしまう作品名。肩肘を張らずに楽しめるところが、彼女の作品の大きな魅力です。
今回展示されている中で特に「あるある!」となりそうな《過保護》という立体作品も、ぜひ会場でチェックしてほしい一作です。
SNS時代のモヤモヤと距離を置くためのヒントをくれる作品
今回の展示はどのような思いで制作されたのでしょうか。挨拶文の中で、葛西さんはこう語ります。
あらゆる情報に容易にアクセスできる現代では、遠くの国で起こっている出来事から、近しい人の出来事まで、すべてが同じ距離感で目の前に押し寄せてきます。その結果、他者の問題までもが自分事のように感じられ、自分と他者との境界があいまいになりがちです。環境や考え方が異なるにもかかわらず、その違いを忘れ、つい自分の物差しで判断したり意見してしまっていることに、ふとした瞬間に気づきます。他者との間には、本来保つべき距離があるはずです。
喫煙所で交わされる雑談の光景から人との心地よい距離について考える《ここだけの話》など、本展には人や物事との距離を改めて考えることのできる作品が並びます。
会場内では無人販売も。作家の新たな試みをお見逃しなく
膨大な情報に晒される中でも、「自分の考えや感覚に集中して、流れてはいけない方向にだけは流されないようにしよう」という意思のもと制作された《流されど舵はとれ》や、手のひらサイズのお守り的な関守石(「ここからは立ち入りできません」という目印として置かれる止め石)を無人販売するなど、本展では立体作品を含めて今までにない表現も楽しめます。
日常生活の中の馴染み深い一場面と、そこに添えられたひねりのある作品名にニヤリとしつつ、作家の試みた“距離のリハビリ”によって明日からの気持ちが少し楽になるような感覚を本展で味わってもらえると嬉しいです。(私も関守石をつい買ってしまいました。)
葛西由香 個展「遠い場所から手を振り合う」
■開催日:2025年9月13日(土)~10月5日(日)
■開催時間:11:00〜18:00
■会場:ギャラリー門馬(札幌市中央区旭ヶ丘2丁目3-38)
■入館料:無料
■休廊日:火曜・水曜
【ライタープロフィール】
松田 仁央(ライター)
2007年から2010年まで「WG」というフリーペーパーを発行しつつ、2010年からフリーランスのライターとして活動。舞台芸術と美術が特に好きです。2002年頃からギャラリー等で絵画を中心に作品を購入しています。ここでのレポートが、誰かが「自分の一枚」に出会うきっかけになったら嬉しいです。