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Vol.42 中国深センDJIで最新産業用ドローンを見学[田路昌也の中国・香港ドローン便り]

DRONE

中国のDJI南山旗艦店で最新の産業用ドローンを見学。最新モデルから読み取れる5つの技術トレンドと、日本の農業にもたらす可能性を考察する

先日、中国深圳のDJI南山旗艦店を訪れる機会がありました。 世界最大のドローンメーカーDJIの最新産業用ドローンを実際に見学し、その進化に驚きました。今回は、そこで見た最新モデルから読み取れる5つの技術トレンドと、それらが日本の農業にもたらす可能性について考えてみました。

トレンド1:AIと高度なデータ処理の身近化

Matrice 350 RTKやMatrice 30シリーズに搭載された高度なAI処理能力が搭載されており、注目に値します。特に興味深かったのは、小型の農業用ドローンAgras T25にも高度なAI機能が搭載されていることです。画像認識や自動飛行経路の最適化といった機能が、使いやすいインターフェースで提供されています。

Matrice 350 RTK

Agras T25

これは、AIの活用がより身近になることを意味します。日本の中小規模の農家でも、高度な精密 農業技術を比較的手軽に導入できるようになるでしょう。例えば、病害虫の早期発見や収穫時期 の最適化など、これまで大規模農家でしか実現できなかった技術が、より広く利用可能になるのではないでしょうか。

参考リンク:DJI Agriculture、世界の農業ドローン産業が活況を呈していることを年次報告書で報告

トレンド2:柔軟性と拡張性の向上

DJIの製品ラインナップの幅広さには感心させられました。大規模農業向けのAgras T60から小規 模精密農業向けのT25まで、様々なニーズに対応しています。また、Matrice 350 RTKの多様なペイロードオプションは、一つの機体で複数の用途に対応できる柔軟性を示しています。

参考リンク:DJI Agras T50 、T25が、空からの作物保護防雨力を強化

この傾向は、日本の多様な農業形態に適していると考えられます。広大な平野部から狭小な中山間地域まで、地形や経営規模に応じたソリューションを提供できるでしょう。

Agras T60

トレンド3:センサー技術の高度化とドローンの小型化

各モデルに搭載されたセンサー技術の進化には驚きました。 T25の高精度スプレーシステムや障害物回避センサー、M350 RTKの高精度RTK測位システムなど、以前は大型ドローンでしか実現できなかった機能が、より小型の機体でも利用可能になっています。

この傾向は、日本の精密農業の普及を加速させると考えられます。例えば、果樹園での農薬散布 の精度が飛躍的に向上し、使用量の削減と効果の最大化が同時に実現できるでしょう。

トレンド4:自動化と使いやすさの融合

Dock 2による完全自動化運用は、産業用ドローンの未来を示唆しています。一方で、T25Pの簡易操作システムは、専門知識がなくても高度な機能を利用できることを示しています。

この自動化と使いやすさの融合は、日本の農業が直面する労働力不足問題に一つの解決策を提示しています。熟練オペレーターがいなくても、高度なドローン運用が可能になるため、新規就農者 や高齢の農業従事者でも最新技術を活用できるようになるでしょう。

Dock2

さらに、この技術は農作物の監視や保護にも活用できます。例えば、Matrice 30シリーズとDock 2を組み合わせたシステムを使用することで、高級果物の盗難対策として24時間体制の自動 巡回監視が可能になると考えます。日本では出荷直前の高価なメロンやぶどうが盗まれる事件がしばしば報告されていますが、このシステムはそうした問題への革新的な解決策となり得るでしょう。

トレンド5:環境適応性と持続可能性の向上

全製品に共通して見られたのは、環境への配慮です。T25PやT60の精密散布システムは農薬使用量の削減に貢献し、バッテリー効率の向上は飛行時間の最適化につながっています。また、M350 RTKの高い耐候性(IP55保護等級)は、様々な気象条件下での運用を可能にしています。

これらの特徴は、日本の持続可能な農業の実現に大きく寄与するでしょう。例えば、農薬使用量の削減は環境負荷を低減するだけでなく、農産物の安全性向上にもつながります。また、悪天候下でも運用可能な耐候性は、気候変動の影響を受けやすい日本の農業にとって重要な特性だと言えます。

日本の農業への具体的な影響

これらのトレンドは、日本の農業に大きな変革をもたらす可能性があります。具体的には以下のような影響が考えられます:精密農業の一般化労働力不足の緩和高付加価値農産物の保護環境負荷の低減データ駆動型農業の実現

日本国内のドローンビジネス市場は急速に成長しており、2022年度から2028年度にかけて年間平均20.3%の成長率が予測されています。特に農林水産業分野では、「みどりの食料システム戦 略」の開始に伴い、農薬散布機や農業リモートセンシング機体の導入が進んでいます。

参考資料:農林水産省

課題と展望

一方で、これらの技術を最大限に活用するためには、いくつかの課題も存在します。法規制の更 新、人材育成、初期投資のコスト低減などが必要となるでしょう。 しかし、これらの課題を乗り越えることができれば、日本の農業は大きく飛躍する可能性を秘めています。産業界、学術界、政府が一体となって取り組むことで、持続可能で生産性の高い農業の実現に近づけるはずです。

DJIの最新技術は、日本の農業の未来に大きな可能性を示唆していると思います。この技術革新を上手く活用し、日本の農業の持続可能な発展につなげていくことが、今後の課題 ではないでしょうか。 なお、店舗での見学の様子を動画にまとめましたので、ぜひご覧ください。

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