夏の終わりのエバーグリーン ① サザンオールスターズ「真夏の果実」が長く愛される理由
スリー・ストーリーズ by Re:minder
夏の終わりのエバーグリーン ①
真夏の果実 / サザンオールスターズ
国民的バンド、サザンオールスターズ
立秋を過ぎると、日暮れがどんどん早くなっていく。ふと外を見るともう夕方、夏が終わっていく寂しさを感じる一瞬だ。そんな《夏の終わりのエバーグリーン》ということで、今回はサザンオールスターズ「真夏の果実」を取り上げてみる。
ーー サザンオールスターズ。1978年6月25日、筆者が中学1年生のときにデビューしたこのバンドは、気が付くといつの間にか “国民的バンド” になっていた。2025年現在、デビューから既に47年が経過。親子2代、いや3代のファンも存在しており、幅広い層からの支持を得ている。筆者も『茅ヶ崎ライブ2023』のライブビューイングで、親子で来場している方を何組も見かけたものだ。
令和の高校生からも支持されている「真夏の果実」
株式会社ワカモノリサーチによる、全国の現役高校生を対象とした “令和の若者がサザンオールスターズの曲を聴いているか?” という2025年の調査によると、“聴く” という回答が36.9%もあったという。親世代からの影響に加えて、多数のカバー曲から知ったという声もある。そして、この調査で高校生から支持されたサザンの好きな曲のトップが「真夏の果実」だった。
カラオケでもよく歌われている。JOYSOUNDによるサザンの人気曲ランキングでも、「真夏の果実」はトップ。老若男女問わず、幅広く支持されている。カラオケ人気の背景を考察すると、多くの人に知られている楽曲であることはもとより、ほぼペンタトニック(ヨナ抜き音階)で構成された、奇をてらわない素直なメロディで、誰もが歌いやすいことが人気の要因なのだろう。オリジナルのコードは桑田佳祐の楽曲に多いDメジャーで、優しい雰囲気を持つ普遍性のある楽曲といえる。
また、この曲は多くの歌手にもカバーされている。オリジナル発表の翌年である1991年、テレサ・テンのカバーバージョンを皮切りに、アジア圏を中心に英語版も含め数多くのカバー音源が存在する。英語版としてはアース・ウインド&ファイアーのフィリップ・ベイリーによる「Mid-Summer Blossoms」が比較的知られている。インストゥルメンタルではサザンのメンバーでもある関口和之率いる “関口和之&砂山オールスターズ” のウクレレカバーが有名。そう、「真夏の果実」は多くの人の歌唱や演奏で世界中に届けられてきた。
あちこちに溢れている激しい情熱を秘めた言葉
さて「真夏の果実」。この曲はもともと桑田佳祐が監督を務めた映画『稲村ジェーン』(1990年)の主題歌である。音色決めとフレーズに3日ほどかかったという、イントロの印象的なグロッケンに始まり、浮遊感のあるコードと淡い音色に乗る桑田佳祐の切々とした歌唱が、シンプルなバラードをエモーショナルな楽曲に仕立て上げている。
ところで、このシングル盤のジャケットに描かれている果実が何か、即答できる方はどれだけいるだろうか。そう、そこには熱帯の果実であるパパイアとアボカドのイラストが描かれている。そもそも果実というものは、エロのメタファーとして用いられることが多いのだが、「真夏の果実」の歌詞には、甘い果実から蜜がしたたるような表面的なエロティシズムはさほど見当たらない。ただそこには、激しい情熱を秘めた言葉があちこちに溢れている。
四六時中も好きと言って
夢の中へ連れて行って
ーー まさにこのフレーズこそ、老いも若きも、まさに生きている誰もが感じうる人間の根源的な気持ちではないだろうか。“好き” というのは好きな人から言われたい、そして好きな人にストレートに言いたい “最強の言葉” だ。
自身を投影した桑田佳祐は、当時34歳
そう、「真夏の果実」は桑田佳祐の多才な魅力を存分に味わうことのできる必聴の1曲だ。せつなさを訥々と語るようなざらついた声。からだを合わせているかのようなコーラスとの絶妙なコラボレーション。胸の内を吐露するようなその歌唱は、甘い思い出を遠くから見返しているようにも聴こえる。当時の桑田佳祐34歳。若者から中年にさしかかっていく彼自身を投影しているかのようだ。
振り返ってみると、重厚な音がもてはやされた1990年の日本の音楽シーンにおいて、「真夏の果実」のシンプルさや音色は若干トレンドから外れていた。いや、もしかすると早すぎた音像だったのかもしれない。しかし、だからこそ時代性に左右されないエバーグリーンな楽曲として多くの人に愛され、これからも長く生き続けることだろう。