LET ME KNOW が選ぶ10曲【インタビュー】影響を受けた歌詞は岡村靖幸「カルアミルク」
LET ME KNOWの10曲 ②
カルアミルク / 岡村靖幸
「カルアミルク」に通じるMattyの世界観
8月17日〜18日に開催されるSUMMER SONIC2024に出演が決定したLET ME KNOW。4月に配信がスタートした「偽愛とハイボール」でブレイク。若いファンのみならず、昭和歌謡、シティポップファンにも注目され、Instagramのリールでは600万回再生を記録している。その熱狂は海を越え、5月に行われた韓国ソウル市でのストリートライブではファンの大合唱が起こり大きな反響を呼んだ。“ノスタルジックモダン” というテーマを掲げ、精力的な活動を続けるLET ME KNOWの連載インタビュー、第2回は、ボーカルでソングライティングを担うMattyに登場してもらった。今回挙げてくれた曲は岡村靖幸の「カルアミルク」(1990年)だ。この曲を通じ、ソングライターとしてのMattyの魅力にじっくりと迫ってみたい。
――「カルアミルク」は歌詞の世界観がMattyさんに近いですよね。
Matty:岡村靖幸さんの書く歌詞はすごく参考になります。ストレートな表現と、一見簡単な言葉でありながら、すぐ情景が浮かぶというのがあって、そういった部分をポイントに僕も歌詞を書いています。難解な言葉を並べて聴く人が考え込んでしまうようにはしたくないんです。直感で聴いてわかるような歌詞にしていきたい。それこそ「カルアミルク」だと「♪電話なんかやめてさ 六本木で会おうよ」という書き方って具体的すぎてあまりないですよね。「♪ファミコンやって ディスコに行って」とかも。バンドを始める前、詞を書き始めた時、僕にアドバイスをくれていた師匠がいて “Mattyはそういう路線でいったほうがいい” というアドバイスをもらいました。今もその言葉を信じて、とにかく具体的な歌詞を意識しています。
―― 今の時代にはいいかもしれませんね。昔はロックでも哲学的な考えさせる歌詞も多かったと思いますが、パッと聴いて、パッと情景が浮かんで、そこで感情移入ができるというのはLET ME KNOWの強みだと思います。
Matty:そこは意識しています。人間同士の交わりの中で生まれる世界観を書いていきたいと思っています。
自分に出来ることが音楽しかない
―― 楽曲制作では、やはりメロディが先ですか?
Matty:最近はメロディと歌詞を一緒に考えるようにしています。譜割りを大事にしたいので。
―― いつ頃から曲を書くようになりましたか?
Matty:2年半前ぐらいです。LET ME KNOWの前は、バンドをやっていたわけではなく、弾き語りをSNSなどに投稿をしていた程度です。
―― それで去年の11月にバンドを結成したということですね。
Matty:そうですね。Instagramの投稿を通じて、Ken_M、Lyoと出会いました。
―― するとバンドサウンドは初めてということですね。
Matty:高校時代は音楽に無縁でした。サッカーをやっていましたので。音楽を始めた時にも、プロになりたいとか、強い意志とか理由はなかったです。最初フワッと始めて。だけど、やり始めると自分に出来ることが音楽しかないと気づきました。これなら自分にも出来るという可能性を感じて、飛び込んだという感じです。
―― 今はどうですか?
Matty:今も将来に対して、いろいろな疑問を持ちながら毎日生きています。音楽を始めて、今の方がいろいろなことを考えるようになりました。それは、このメンバーでバンドを始めた時、本気でやっていこうと決心したからです。人と仕事をするということは、それだけ責任が生まれるということだから。バンドでも誰かひとりがちゃんとしなかったら、うまくいかないものだと思っているので。そこはチームプレイだから、自分も本気でやろうという決心でやっています。
僕らのサウンドは “ノスタルジックモダン”
ーー「偽愛とハイボール」がかなりの盛り上がりを見せていて、そこには、シティポップのエッセンスを感じたり、昭和歌謡的な郷愁を感じたりという声も多いのですが、その辺は作り手のMattyさんはどのように思っていますか?
Matty:僕らはポストパンク、ニューウェイヴっぽい感覚でやっているつもりだし、僕もそのイメージで曲を作りました。世の中の反応は “そういう感じなんや” という意外な感覚です。世の中の反応というのは自分の中にはなかった感覚なので、曲作りにおいて、いい材料になっています。そういう意見を参考に自分たちの音楽を進化させていきたいです。ただ、僕らのサウンドは “ノスタルジックモダン” というテーマがあるので、どこか懐かしさを感じてくれる曲、人の心に温かさが残る曲というのは意識しています。
「100円キッス」は軽い気持ちでキスをしたという物語
―― ここからは「100円キッス」についてお聞きしたのですが、この曲も物語の世界観の中にすんなりと入って行けて感情移入できる曲だと思いました。
Matty:「100円キッス」っていうのは “安いキッス” という意味です。100円って、1万円とかに比べると価値的に圧倒的に安いし、小学生でも持っていますよね。だから安さの象徴として “100円” という言葉を選びました。つまり、それぐらい軽いキスをしたのに、どんどん恋にハマっていき、自分の中での大切なものになっていくというテーマです。「♪スポーツマンの君の彼に」というのも女の子側には彼氏がいるのを知っていたから軽い気持ちで浮気相手になっていたから、最初は本命とするようなキスではなかったと。軽い気持ちでキスをしたという物語の始まりです。
―― そういう物語的な歌詞は自分の体験だったりするのですか
Matty:自分の体験もありますし、想像する部分もあります。これを組み合わせて書く感じです。
―― すごく普遍的な曲だと思います。世代を問わず、いろんな人がいろんな情景を思い浮かべる曲ですね。プロモーションビデオも素晴らしいですね。バッドエンド的な結末にも切なさが募ります。これでさらにブレイクするという確信は生まれましたか?
Matty:まだまだですね。
――「偽愛とハイボール」でも “これで行ける!” という感覚ではなかったと。
Matty:「偽愛とハイボール」については、割といいな、という感覚がありましたが、ブレイクというのが、どこまで行ったらブレイクというのはわからないし、自分の思い描いているブレイクでは全然ないので。これから先、いつまで経っても不安が残るような気がします。
―― Mattyさんが考えるブレイクはどの辺ですか?
Matty:それも難しいのですが…、多分いつまで経っても安心できないですね。
突然舞い降りるチャンスもあると信じれば、明日が変わる可能性もある
―― 今は、ライブハウス(原宿ルイード)がソールドアウトになって、韓国のストリートライブも大反響でという感じですね。
Matty:韓国では言葉の壁を超えて、向こうのファンが大きな声で歌ってくれている姿を見ると音楽ってすごいなと思いますね。
―― SNSの時代だから世界同時進行でLET ME KNOWが盛り上がっていく可能性がありますよね。どこで火がつくかわからないですよね。
Matty:だから毎日が勝負というのはあります。今はメディアがたくさんあるので、いつ何が起こるかわからないですよね。そんな今の時代に音楽をやれてラッキーだと思います。自分たちで自分の音楽を広げることができる時代なので。
―― 昔はネットがなかったから、地道にライブをして、レコードを売るみたいに活動にも限りがありました。
Matty:そういう地道な活動プラス “満塁ホームラン” ではないですが、突然舞い降りるチャンスもあると信じれば、明日が変わる可能性もあります。だから頭を使って音楽を続けるというのが大事だと思います。例えば声が素晴らしくて、才能だけで勝負できる人もいれば、頭を使わないと勝負できない人もいます。
弾き語りを始めた時、僕が歌う時、誰も振り向いてくれなかった。振り向いた人がいても、会話をやめて集中して見てくれることなんてなかったです。確かに、歌い始めると、誰もが足を止めて振り向くぐらいすごい人もいます。僕はいつまで経ってもそういう風にはなれないなと思って。声とか自分の素質だけでは勝負できないと思ったから、とにかく頭を使わなくてはいけないと。SNSを使うとか、ライブのパフォーマンスもそうですが、毎日毎日考えて考えて、音楽をやるようになりました。そうでないと才能がある人たちには勝てないので。
―― 僕はかなり才能があるなと思いました。
Matty:ありがとうございます。でも、まだまだ頑張らないといけないです。
―― LET ME KNOWって3人のアンサンブルが素晴らしいです。ファンに寄り添うような、同じ目線で入っていけるような感じが、これまでのロックのイメージと異なると思います。
Matty:ありがとうございます。何がロックか?という話になると思うのですが、その人がロックだと思えたら、それがロックだと思っています。 だから昔のロックのイメージを変えたいとか、そういう気持ちは全くないです。昔には昔の良さがあって、今には今の良さがあるので。昔のいいものを引っ張りながら今の時代に合わせたものをやっていきたいです。それが “ノスタルジックモダン” だと思います。僕は良い歌を作りたいだけなので。