長峯達也監督が8月20日に逝去|長峯監督が生んだアニメ『ONE PIECE』名演出……ルフィのギア5から『FILM Z』まで名作たちをご紹介
数々の作品を手がけてきた東映アニメーションの名アニメ監督、長峯達也さんが2025年8月20日に逝去されたことが、ご本人のXアカウントをとおしてご家族より明かされました。
これを受け、Xでは関係者やファンからたくさんのお悔やみが寄せられました。
脚本家の鈴木おさむさんから「とにかく。こだわりまくり。魂を削って作る人。魂どころか命を削って作っていたんですね。長峯監督と一緒にお仕事できたこと。本当に幸せです」、声優の潘めぐみさんから「太陽のようなアツさとあたたかさで作品に、人に、向き合って下さって あの大きな掌で みんなの想いを受け止めては守ってきて下さいました」、作曲家の田中公平さんから「彼のアニワンに果たした実績は半端無いものでした。私も、数々の彼との面白い打ち合わせを懐かしく思っています。あのマシンガントークもう一度聞きたい!」など、多くの著名人が長峯さんとの思い出を振り返り追悼しています。
長峯さんといえば、劇場版アニメ『ONE PIECE FILM Z』『ドラゴンボール超 ブロリー』や、『ハートキャッチプリキュア!』『ハピネスチャージプリキュア!』TVアニメシリーズをはじめ、数々の作品に貢献されてきたアニメ界の名監督です。
なかでも、15年来の『ONE PIECE』ファンである筆者としては、やはりアニメ『ONE PIECE』での長峯監督のご活躍と功績が心に残っています。
本記事では、長峯監督の作品を楽しんできたいちファンとして感謝と哀悼の意をこめて、長峯監督のもと生み出されたアニメ『ONE PIECE』の名場面とその魅力をお届けします。
■話題を呼んだルフィのギア5も演出!ワノ国編〜エッグヘッド編まで
長峯監督は、2019年から2024年にかけて放送されたワノ国編〜エッグヘッド編(第892話〜第1122話)まで、じつに200話以上のアニメ『ONE PIECE』を牽引しかたちにしてきたシリーズディレクターです。
とくに、ワノ国編ではルフィのギア5(ニカ)がお披露目された第1071話が世間的にも大きな話題となりました。
ルフィの躍動感と最高地点に到達した高揚感、これまでになかったカートゥーン調のコミカルさと『ONE PIECE』らしいアクションの見事な融合、新鮮な驚きとワクワクをくれた目が足りないほどの超演出は、長峯監督の絵コンテから生まれたのです。
放送当時は、その作画、演出、演技すべての見事さにSNSが湧き、ネット上でも「凄すぎる」「映画みたい」と大きな注目を集めました。
長峯監督のこだわりは凄まじく、『ワンピース・マガジン』に掲載されたインタビューでは、以下のように制作への思いが語られています。
「原作である漫画があるわけだから、そこから情報を読み取って、解釈して、調べて、考えて、そうやって作り上げていくものだと思う」
「自分も『ONE PIECE』が好きで、尾田さんが好きだから、その気持ちをぶつけて原作を一生懸命アニメに翻訳した映像を作ります!」
(『ワンピース・マガジン』vol.6より引用)
「キャラクター同士の掛け合いだとか、キャラクターの表情だとか、そういう「生きているキャラクター」としての、麦わらの一味を極力押し出していきたい」
「一貫して言ってる事は、『ONE PIECE』を好きな人が『ONE PIECE』のアニメを観て、すごいね面白いねって言ってもらえる様な物を作らねばならんと」
(『ワンピース・マガジン』vol.8より引用)
原作が素晴らしいからこそ、その世界観をアニメでより克明かつ鮮明に表現したいという長峯監督の心意気あってこそ実現した“神回”でした。
また、テレビ番組『潜入!リアルスコープ』(フジテレビ系)では、長峯監督がギア5初披露回の絵コンテを描く様子が公開されたこともあり、放送時のSNSには監督一人でこなす作業量に続々と驚きの声があがっていました。
その絵コンテを、筆者はアニメ『ONE PIECE』25周年を記念したイベント『ONE PIECE EMOTION』にて実際に拝見し、線から伝わる迫力と、いまにもルフィが動き出しそうなリズム感に感動したものです。「ここからアニメ『ONE PIECE』が生まれていくんだ」と噛み締めながら、一コマずつじっくり鑑賞したことをいまでも覚えています。
そんなギア5を用いたルフィvsカイドウの戦闘シーン以外にも、ゾロvsアルベル(キング)、サンジvsクイーン、キッドvsシャンクス、ガープvsクザンなど、長峯監督が手がけたワノ国編〜エッグヘッド編は、アクションシーンの華やかさがとくに印象的なんです。いつもテレビにくぎづけになっているうち、瞬く間に過ぎ去っていく30分間でした。
また、長峯監督は、テレビアニメ版では映画『ONE PIECE FILM GOLD』の前日譚となる特別編『ONE PIECE 〜ハートオブゴールド〜』や、ホールケーキアイランド編直前のアニメオリジナルエピソードである第780話〜782話の監督(シリーズディレクター)も務められています。ワノ国編〜エッグヘッド編をふくめ、長峯監督がこだわり抜いてつくってきた「アニワン」のおもしろさを、ぜひこの先も何度でも多くの人に味わってほしいと思います。
敵キャラなのに愛される「ゼファー」が生まれた『ONE PIECE FILM Z』
そして、記事の冒頭でも触れたように、長峯監督は映画『ONE PIECE FILM Z』の監督を務めたことでも知られています。
『FILM Z』は、筆者的にも数ある劇場版のなかで首位をあらそうほどお気に入りの、思い入れがあるワンピースムービー。
その魅力は、“これまでになかったワンピ映画”を体験できる点だと個人的には思っています。
本作でルフィの敵となるのは元海軍大将のゼファー。海賊どうしの熾烈バトルが描かれることが多い劇場版のなかで、本作ではルフィと元海軍の肩書きを持つゼファーが拳のみのガチンコ勝負をします。派手な大技を使わず殴り合うその泥臭さが、物語の決着に深みを増しているんです。
そして、本作はラストシーンも印象的。
劇場版といえば、次の冒険へ向けて明るく出航していく麦わらの一味で締まることが多いのですが、本作はかつてないほどビターな終わりを迎えます。直接的なネタバレは避けますが、涙を誘う荘厳な挿入歌の「海導」と、思わず海軍視点で感情移入してしまうクザン(青キジ)やボルサリーノ(黄猿)の切なさと苦さといったら……。
序盤〜中盤では少女の姿になってしまうナミやロビン、ルフィ、ゾロ、サンジの入浴シーンといったコミカルなパートや、何度も見返したくなる戦闘服へのかっこよすぎる変身シーンと麦わらの一味の絆といったお宝シーンも盛り込みつつ、最後にはほろ苦い余韻を残す大人な仕上がりがクセになる作品です。
さらに、大ボスであるゼファーが敵ながらとても魅力的なのもこの作品が愛される所以といえます。
海賊を憎みつつルフィをかたくなに「海賊王」と呼び続けるところ、部下や元部下たちからも慕われているところ、そして壮絶な半生。原作にはかかわらないキャラクターでありながら、その背景のつくりこみが丁寧で、心に残り続けるヒールなのです。
長峯監督自身もゼファーが大好きなあまり、原作者である尾田栄一郎先生からはあくまでルフィが主人公の物語であることを念押しされたというエピソードもあるほど。監督自ら愛して育ててきたキャラクターだからこそ、多くのファンに愛されたんですね。
そんなゼファー、じつはワンピースキャラを使って無双アクションを楽しめるゲーム『海賊無双4』に来年から追加キャラとして参戦予定。映画公開から10年以上が経つ現在も、その活躍は健在です。
筆者が長峯監督のもと生み出されたアニメ『ONE PIECE』にたくさんの思い出があるように、これまで監督の作品を観てきた多くのアニメファンそれぞれに、思い出深い大切な作品があることでしょう。ワクワクして、笑えて、泣けて、夢中になれる、素晴らしいアニメーションの数々をありがとうございました。
長峯監督のこれまでと、これからも残してくれた作品たちを愛し、楽しめることに感謝をこめて、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
[文/まりも]