神話の町・多賀の歴史を”味”にする『くにうみ醸造所』のクラフトビール
【くにうみ醸造所/滋賀県多賀町】
国生みの神様を祀り、初詣には県内外から多くの参拝客が訪れる『多賀大社』。
地元では「お多賀さん」と呼ばれ親しまれている神社の通り道に、新たにクラフトビール醸造所が誕生しました!
店内で昼呑みもできる醸造所で生みだされるビールはじつにユニーク。
多賀の木を使ったビールに、とある絵が隠されたビール缶?!
あらゆる形で故郷の歴史を”味”にする『くにうみ醸造所』を取材してきました!
多賀で昼呑みとハンバーグを楽しもう!
近江鉄道・多賀大社前駅から、多賀大社に向かって歩くことわずか徒歩1分。
駅前にそびえる鳥居のそばに、2024年にオープンした『くにうみ醸造所』があります。
醸造所の建物にはランチタイムから営業している『BREW PUB Thistle(ブリューパブ・シスル)』を併設。特にランチメニューの「シスル特製ハンバーグ」は、連日すぐに完売するほど人気なのだそうです!
メインの近江牛ハンバーグは噛んだ瞬間じゅわりととろけ、旨味が口中を満たす一品……!
てっぺんの卵をナイフで崩すと、流れた黄身でさらに濃厚な味わいに。
さて、せっかく電車に乗ってここまで来たのなら、このハンバーグに合う一杯が欲しくなりますよね?
そう、ビールです!
なんと醸造所があるのはお店のレジカウンターの裏。
ここで仕込まれたクラフトビールを昼呑みで楽しめるのはもちろん、缶ビールの形でお持ち帰りもできちゃうんです!
ハンバーグと一緒にいただいたのは、アメリカンペールエール「高(たか)」。
多賀町に自生している香木「黒文字」が使われていて、香り高く、ジンジャーのような風味が舌と喉をさわやかに通り抜けていきます!
素材もラベルも”多賀産”のクラフトビール
くにうみ醸造所では、「多賀シリーズ」と呼ばれる多賀の素材を使ったビールを現在3種類醸造されています。
多賀蕎麦を使ったどっしりとした味わいが特徴のスタウト「玄(げん)」、多賀のお米を使ったライスエール「恵(めぐみ)」、そして「高」です。
しかもこれらのビールの面白いところは味だけではありません。
「玄・恵・高」の缶を並べると……
なんと一枚の水墨画になるんです!
描かれているのは、三本杉や先食烏(せんじきがらす)など多賀大社ゆかりのもの。
こちらは、多賀がロケ地となった映画『線は、僕を描く』で水墨画の指導をされた濱中応彦先生の作品で、実際に多賀大社に奉納されている水墨画をラベルに使われています。
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「ラベルを見て、『多賀大社に行ってみたくなった』と興味を持ってもらえたら嬉しいですね」
そう話すのは、店主の宮下純さんです。
バーテンダーの経歴を持ち、現在も彦根駅前にて『Salon Bar Thistle(サロンバー・シスル)』を経営しています。
店名の「シスル」とはアザミの花のこと。
思い入れのあるスコットランドの国花でもあると言います。
元々バーはスコッチウイスキーが好きで始めたお店でもあり、くにうみ醸造所でも伝統的なビールのレシピを再現した「スコティッシュエール」を造られています。
ラベルには多賀町ゆかりの入谷(にゅうだに)城付近で撮影したアザミの写真が使われており、同じく多賀町の霊仙山(りょうぜんざん)の写真がラベルの「ヘーフェヴァイツェン」とともに「クラシックシリーズ」として展開中です!
自分のできることで故郷に貢献したい
宮下さんの故郷でもある多賀町にそもそも醸造所を建てることになったきっかけは、なんと”終活”だったと語ります。
「彦根でバーを始めて20年。年齢的にもまた何かを始めるのは次で最後だなと考えた時に、自分のできることで故郷の多賀町に貢献したいと思ったんです」
多賀に近江鉄道に乗って来てもらいたい――。
それならカクテルやクラフトジンを提供するよりも、ビールなら足を運んできてもらいやすいと考え、クラフトビール造りで地域貢献を目指すことに決めた宮下さん。
醸造所の名である「くにうみ」は、多賀大社のご祭神である国生みの神様・伊邪那岐(いざなぎ)大神と伊邪那美(いざなみ)大神に由来するもの。
ロゴにあしらわれている鶏は天岩戸開きの神話に登場し、鳥居の起源にもなった鳥だともいわれていますが、じつはカクテル(cocktail=雄鶏の尻尾)を扱うバーテンダーの象徴でもあるのだそうです!
そうしたバーテンダーとしての経験と創作カクテルの発想は、ビール造りでも発揮されています。
ラベルの水墨画でも描かれた御神木がある峠は、国生みを終えた神様が降り立った地といわれており、この神の場所=「高」が転じて「多賀」になったという説があります。
先ほどハンバーグと一緒に味わった「高」に多賀産の黒文字が使われているは、この三本杉の神話にちなんで「木を使ってみよう」という発想から生まれたものでした!
それぞれのクラフトビールに込められたストーリーを知ると、ますます一杯が味わい深くなりそうですね!
地域にとっての”普通”になりたい
しかし失敗したらまだやり直しができるカクテルと違い、ビール造りは「選択肢を一つでも間違えたら全部だめになる」とその難しさについて話します。
発酵に理想的な温度にならなかったり、缶詰め作業がうまくいかず出来上がった量の3分の1ものビールを廃棄したこともあったり。
「なのできれいに発酵してくれた時は、『生まれてきてくれた!』と嬉しくなりますね」
醸造所を地域にとっての当たり前の存在にしていきたい。
「これ地元のお土産だけど」と、多賀の人達に選んでもらえるようなビールにしたい。
「いつかそうして地元の”普通”になるのが、今の夢です」
最後に宮下さんはそう話していました。
国生みの神・お多賀さんの町に佇む『くにうみ醸造所&ブリューパブ・シスル』。
ここでは今日も、新たなクラフトビールの物語が生まれ続けています!
記事を書いた人結城弘/滋賀県出身。小説家・ライター。滋賀が舞台として登場する小説『二十世紀電氣目録』『モボモガ』を執筆。趣味は旅行、レトロ建築巡り、ご当地マグネット集め、地酒。noteにて旅ブログなどを更新中。各SNS⇒ X(旧Twitter)/ Instagram
『くにうみ醸造所&BREW PUB Thistle』の店舗詳細
住所 滋賀県多賀町多賀1322-28 営業時間 11:00~18:00 定休日 水曜不定休 電話番号 0749-47-3307 instagram https://www.instagram.com/kuniumibrewing/
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