「同世代のふたりでツアーをするのが楽しみです」 外村理紗&小林愛実、2025年秋 初の本格デュオへの思いを語る
この秋、ヴァイオリン&ピアノの注目すべきデュオが、東京、大阪を中心に、全国5か所のツアー公演を行う。ヴァイオリニストは、春にイザイの無伴奏ソナタ全曲演奏会で完璧かつ喜びにあふれる快演を実現した期待の俊才、外村理紗。ピアニストは、2021年ショパン国際コンクール第4位入賞やテレビ出演等で広く知られ、若手ながらもすでに経験豊富、実力と人気を兼ね備えた名手、小林愛実。
彼らは2019年に同じイベントに出演していたものの共演はなく、2020年にはデュオ公演が予定されていたがコロナ禍に入ってキャンセルに。その秋のオンラインフェス「BLUOOM X SEP 2020」の配信動画で初共演が実現したが、そこから5年を経て、聴衆の前での共演がいよいよ実現する。ふたりがその思いと意気込みを語る。
ーーまず、お互いの印象を教えてください。
外村:愛実さんは最初にお会いしたときからフランクにお話してくださって。すごい活躍をしている人なのに気さくで、それが本当にうれしくて。お姉さんのように慕っています。
小林:理紗ちゃんは性格が良くて謙虚だし、でも演奏に入ると目つきが変わって、自分の音楽をしっかりもっているのがわかります。あと、数少ないアメリカ留学仲間なので、そういう意味でもうれしいです。英語も上手だし、これからもいろんな世界で活躍していってほしいですね。
ーーアメリカ留学はおふたりの共通点ですね。ヨーロッパとの違いなどは感じられますか?
外村:大雑把に言うとですが、ヨーロッパよりアメリカの人の方が“シュガーコーティングなし”でストレートに話す人が多いのかなと思います。私はその方が話しやすいですね。演奏面はアメリカがどうと思ったことはないけど、話し方や考え方は変わるかもしれません。
小林:アメリカはいろんな国や人種の人がいるというのもあります。アジア人だからといって、居心地の悪さは感じなかったです。
外村:いろんな国の人がいることで、私は自分の成長に繋がっている気がします。初めて日本を出て、多様な考え方や習慣を知ることができました。
ーー今回の11月の共演は日本各地を回るツアーですね。
小林:実はアンサンブルでのツアーは初めてなんです。前から室内楽をやりたいとは考えていたけど、リサイタルが多くてなかなか機会がありませんでした。
外村:私も数公演の連続公演はあっても、長いツアーは初めてです。
小林:ひとりでできるリサイタルは好きですが、室内楽は大事だと考えています。それぞれが個性を活かしながら、自分で気づかなかった音楽性を引き出してもらったりすることもあります。今回は理紗ちゃんとのデュオでの初ツアーで、何が起きるのか楽しみです。
ーー外村さんは小林さんとの共演が念願だったそうですね。
外村:以前のショパンコンクールの演奏でも、繊細な弱音がきれいで、それが本当に好きで、私と合うといいなと勝手に思っていました(笑)。今回は、世界中で活躍して培った知識や経験を聞かせてもらったり、意見交換をしたり、音楽と言葉でコミュニケーションできるのが本当にうれしいです。
小林:前の共演から時間が経っていて、理紗ちゃんはこの間に20代前半を過ごしたということで、一番成長できる時期ですよね。私もその時期に自分の音楽や価値観、どういう音楽家になりたいか、といったことをかなり考えました。この期間の経験や勉強で理紗ちゃんがどう変わったのか、早く体験してみたいです。
ーーシューベルト、ブラームス、クララ・シューマンからフランクへつながる演目。19世紀ヴァイオリン名曲集であり、「愛」というキーワードでもまとまるプログラムですね。※東京公演のみ、エルガー「愛のあいさつ」が加わる
外村:ふたりで候補曲を出し合って考えました。あと、女性の作曲家を入れるのもいいということで、クララ・シューマンが決まりました。
小林:まずフランクはやりたかった曲で、これを軸にして、バランスや流れも考えて決めました。シューベルト「華麗なるロンド ロ短調」は好きな作品で、理紗ちゃんにも合いそう。
外村:フランクとシューベルトは久しぶりに弾きますが、他の2曲は今回初めてで、勉強のためにアメリカでも弾く機会を作っています。シューベルトの「華麗なるロンド」は、あまり難しく聴こえないのに、実は音の跳躍が大きくて難しい。ピアノも跳躍をエレガントに弾かないといけなくて大変です。
小林:私はどの曲も弾いたことがないんです。個人的にブラームスの曲は全部合うわけではないんですが、ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」はヘビーすぎなくていいですよね。あと、ヴァイオリン・ソナタのピアノはだいたい難しいですよ! もちろんフランクも(笑)
外村:ブラームス「雨の歌」は、テンションがむやみに上がらないのが良いですよね。日常的というか、雨の降る空気感とか自然をそのまま体現したような感じです。ただ、その流れのままに弾くのがやっぱり難しい。愛のこもった曲ですが、成熟した高揚感を表現するのは挑戦で、まだ私には早いかなと考えることもありましたが、愛実さんとならぜひ弾いてみたいと思い、選びました。逆にフランクは大人びた抑揚が魅力です。
ーークララ・シューマンと女性作曲家について。
小林:実はこれまでクララの曲にきちんと触れたことはありませんでした。今回の「3つのロマンス」も、来年演奏予定の彼女のコンチェルト(新日本フィルとの共演)も、初めてになります。19世紀にピアニストとして活躍して、曲も残している女性はあまりいないかと思いますが、そんな時代に第一線で活躍したクララには強さを感じます。
外村:クララの「ロマンス」は個人的に好きな曲で、これこそ愛を感じられます。ロベルトが精神的に厳しくなってくる少し前に作られた曲で、その後の悲劇を感じ取っているような、切ないようで温かい、また違った愛の形の曲だなと思います。
小林:私はこれまで女性作曲家の作品は弾いたことがありません。男性の音楽家はいつも同じ性別の作曲家を弾けていいなと思っていて、今回初めて女性の曲を演奏できるのは貴重なことです。理紗ちゃんも女性で、女性特有の柔軟さや強さや深い愛だったりを表現できたらいいなと思います。
ーーデュオでのツアーは新たな挑戦になりますね。
外村:3月のイザイの無伴奏ソナタ全曲演奏会は、たったひとりでの公演で、精神と体力がかなり必要になり、自分を強くする機会になったと思います。それを踏まえて、この秋のふたりでのツアーは、もっと音楽的に成熟した姿をお見せしたいです。愛をテーマにして、尊敬する小林愛実さんと共に、ふたりの音楽をお届けしたいです。
小林:私にとって初めての室内楽のツアーですし、私のレパートリー的にリサイタルだとなかなか演奏しにくい作曲家たちでもあり、ひとりではなく外村理紗ちゃんとふたりで、新しい自分の表現をお聴かせできれば。あと、単独行動が多いリサイタルのツアーと違って、今回は同世代の理紗ちゃんと一緒にご飯を食べられるのが、本当に楽しみなんです!(笑)
Interview&Text: 林 昌英