「健康情報を鵜呑みにしない」ことの重要性。1万人以上の高齢患者を診察した医師が解説
北海道で総合診療科の医師として働く舛森 悠氏。総合診療科とは、特定の疾患や臓器、年代に限定せず、あらゆる患者さんに対し診療を行う科のことで、舛森医師はそこで1万人以上の高齢患者さんを診察してきました。 その著書『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』(KADOKAWA)には、たくさんの患者さんたちのおかげでわかった、気づいた、何歳になっても健康に幸せに生きられる知恵がまとめられています。 「無理に7時間も寝なくていい」「運動よりも仲間とおしゃべり」など、目からウロコの情報の数々のなかから、今日から実践できる健康習慣をご紹介します。
※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。
情報を鵜呑みにするだけでは逆に体に悪いこともあります
Mさんは80代前半の女性で、僕の患者さんです。最近勉強したという健康知識をいつも教えてくれます。情報源は、図書館で借りる本。Mさんはいつも、いろんな本を熱心に読まれています。
ときに、その健康情報が本当に正しいのか、医師である僕に宿題を出してくださることもあります。僕は内容を吟味して、Mさんに合った健康法かどうかを次の外来でお伝えします。
Mさんは70歳のときに腎臓がんという大病を患って、なんとか手術を乗り越えました。それ以降、「健康は当たり前ではない」と考えるようになり、自らの体を労わるために、健康について勉強するようになったのです。
僕がここでMさんを紹介する理由は、Mさんがいわゆる"健康オタク"だからではありません。Mさんはしっかり医療情報を理解し、「なぜ健康によいのか?」まで考えているところがすごいのです。
ある日、Mさんが「先生、私は便秘を解消したいと思っているんです。便秘解消のために重要な生活習慣を調べてきました」と、いつものように本を見せてくれました。
「どうして便秘が気になったんですか?」と伺うと、「だって、便秘で大腸がんのリスクが上がるっていうじゃない。私は1回がんをやっているから、もう二度とあんな経験したくないのよ」という答えが返ってきました。
実は、大腸がんと便秘の関係性については、その可能性を指摘する論文もありますが、最終的な結論は出ていないのが現状です。(※1)ただし、便通の改善が期待される食物繊維は、大腸がんを予防する可能性が示唆されています。(※2)
Mさんはこれまでに得た知識を総合し、大腸がんを予防するために便通を改善したいと考えました。これはあながち間違いではありません。僕はMさんへ、食物繊維を多くとっている人は、少ない人に比べて大腸がんのリスクが低いという研究報告を紹介しました。
僕の話に耳を傾けながら、Mさんは何度も頷いていましたが、内容に納得したのでしょう。すぐに日々の食生活に食物繊維を多くとり入れるようになり、便通もスッキリと改善しました。
また別の日には、「このフルーツジュースは健康にいいってテレビで紹介していたけれど、砂糖や保存料がかなり添加されているから注意したほうがいいかしら?」と、これまた鋭い質問をしてきました。まさにそのとおりで、フルーツそのものには胃がんの発生率を下げる作用のあることが指摘されていますし、体に必要なビタミンが豊富に含まれており健康にいい影響を及ぼすことが多いのですが、市販のフルーツジュースは別物です。
フルーツジュースとして売られているものの中には、製造過程でビタミンなどの栄養素が削がれていたり、甘く感じるように砂糖が添加されていたりすることもあるので注意が必要なのです。
アメリカの食生活ガイドラインでは、市販のフルーツジュースは心臓病・糖尿病・高血圧・メタボリックシンドロームのリスクになりうると指摘されています。(※3)
Mさんはフルーツが健康によい理由を知っていたため、フルーツジュースにも着目していました。その一方で、砂糖や保存料が多く添加されているものは注意しなければいけないということも知っていたので、フルーツジュースにすぐに飛びつくことをせず、僕に相談してくれたのです。
健康情報を読んだり聞いたりしたとき、「なぜ健康によいのか?」と考え、その理由まで知ることはとても大事です。
現代はテレビやインターネットの普及で情報があふれています。自分に合った情報を見つけられれば便利ですが、誰でも情報発信ができるため、誤った情報も散見されます。
そんな時代に「なぜ?」と疑問を持つことが大切であることを理解していれば、誤った情報を掴んで後悔することを防げます。
Mさんのように、フルーツジュ―スの健康効果を謳っている広告に対して疑問を抱くというのは、じゅうぶんに勉強をしている人であれば普通のことかもしれません。
しかしそうかといって、みんながみんな医療のプロではありませんから、すべての健康情報に対して「なぜ?」とやっていると疲れてしまいますよね。
そこでお勧めしたいのが、迷ったときに相談する相手を決めておくことです。かかりつけの病院の医師でもいいですし、ネット上で信頼性の高い情報を発信している医療従事者でもいいです。
そうした人たちに質問したり、その人が発信している情報を調べたりといった行動をとれば、いいかげんな情報に惑わされるのを防ぐことができるでしょう。
Mさんのやっている健康情報術
・本やテレビで健康情報に触れる
・情報を鵜呑みにせず「なぜ健康にいいのか」を考える
・考えてもわからないことはかかりつけ医や信頼できる医療従事者に相談してみる
僕は仕事の合間に、「明日から使える健康知識」をわかりやすく伝える「YouTube 医療大学」を配信しています。いつも見てくださっている方、ありがとうございます。まだの方も、よろしければご覧くださいね。
*1:国立がん研究センター 便通、便の状態と大腸がん罹患との関連について
*2: Ulrike Peters et al. Dietary fibre and colorectal adenoma in a colorectal cancer early detection programme. Lancet. 2003 May 3;361(9368):1491-5.
*3:Dietary guidelines for Americans 2015-2020