ホワイトハッカーとは? セキュリティーエンジニアとはどう違う? 仕事内容や必要な知識を解説
テクノロジーの進化とともにサイバー攻撃の手口も日々巧妙化しています。企業にとっては情報システムに対する堅牢なセキュリティー体制の構築が重要な課題となっているでしょう。
そこで注目されているのが、ホワイトハッカーという職種です。
ホワイトハッカーとはコンピュータやネットワークに関する豊富な知識を生かし、悪意のある攻撃から企業のシステムや情報を守る役割を担う重要なポジションを指します。
この記事では、ホワイトハッカーの定義や仕事内容、必要なスキルなどを詳しく解説します。
※この記事は2024年1月11日に公開し、2025年3月13日に最新情報を更新しています。
目次
ホワイトハッカーとはハッカーの定義ブラックハッカーとの違いセキュリティーエンジニアとの違いホワイトハッカーの働く場所ホワイトハッカーの仕事内容セキュリティー設計ペネトレーションテスト脆弱性診断マルウェア分析インシデント対応フォレンジック(デジタルフォレンジック)システム保守・運用ホワイトハッカーに必要なスキル情報セキュリティーの知識ITに関わる法律の知識プログラミングスキル英語力ホワイトハッカーになる方法スクールで専門知識を学ぶITエンジニアからステップアップするホワイトハッカーに役立つ資格Certified Ethical Hacker(CEH)情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)Offensive Security Certified Professional(OSCP)ホワイトハッカーの将来性ホワイトハッカーはサイバー攻撃から企業を保護するプロフェッショナル
ホワイトハッカーとは
ホワイトハッカーとは、コンピュータやネットワーク、プログラムなどに関する高度な知識やスキルを善良な目的のために活用する人材のことです。「健全なハッカー」を意味し、おもに不正アクセスやマルウェアなど、悪意のある攻撃から情報を保護する役割があります。
近年は特に民間企業や政府機関を狙った悪質なサイバー攻撃が増加していることから、脅威に対応するためにホワイトハッカーの採用が進んでいます。
ハッカーの定義
「ハッカー」と聞くと、不正アクセスやデータの盗難など悪質な行為をする攻撃者のイメージがあるかもしれません。しかし、本来ハッカーとは「コンピュータやネットワークなどについて高度な知識や技術を持つ人」を意味します。
もともとハッカーという言葉は一種の敬称として使われていました。ところが一部のハッカーが悪意のある攻撃を行ったことで注目を集め、世間一般に攻撃者というイメージが広がったと考えられます。
ブラックハッカーとの違い
知識やスキルを健全な目的のために活用するホワイトハッカーに対して、これらをサイバー攻撃などの犯罪行為に利用する人を「ブラックハッカー」と呼びます。
今までマスメディアなどでは、こうした悪意のある攻撃者も含めて一括りにハッカーと称していました。近年ではより正確性を重視して、ホワイトハッカーとブラックハッカーに分けて扱うケースが増えています。
ITに関する高度な知識と技術を持つ人材という点は共通していますが、その目的はホワイトハッカーとブラックハッカーで対照的です。
セキュリティーエンジニアとの違い
ホワイトハッカーと近いポジションとして、セキュリティーエンジニアがあります。セキュリティーエンジニアとは、情報セキュリティーを考慮したシステムの設計・運用などを行うセキュリティーに特化したエンジニアです。
どちらも企業のシステムを脅威から保護する役割がありますが、一般的にセキュリティーエンジニアはシステム構築におけるセキュリティー部分を担当するのに対し、ホワイトハッカーはサイバー攻撃への対応に特化しているという違いがあります。
しかし定義は明確ではなく、企業の求人を見てもホワイトハッカーの仕事内容であるもののセキュリティーエンジニアとして募集されていることもよくあります。
ホワイトハッカーの働く場所
ホワイトハッカーの認知度はまだ高くないかもしれませんが、活躍の場は広がっています。ITシステムや顧客情報を扱う一般企業をはじめ、政府機関や警察庁も増加するサイバー攻撃やサイバー犯罪に対応するためにホワイトハッカーの採用に積極的です。また組織に所属せずにフリーランスとして活躍する人も多くいます。
ホワイトハッカーの仕事内容
ここからは、ホワイトハッカーの具体的な仕事内容について解説します。
セキュリティー設計
さまざまな攻撃を想定したうえで、情報を保護するためのセキュリティー設計を行います。
まずは現状の課題を洗い出し、解決するための企画から提案、設計、実装まで担当します。インフラ機器やOS・ソフトウェアの設定、プログラムなどに配慮する必要があるため幅広い分野の知識が必要です。
ペネトレーションテスト
システムやネットワークのセキュリティ上の弱点(脆弱性)を特定するために、実際に攻撃を試みるテストです。ホワイトハッカーは、攻撃者の視点からシステムを評価し、潜在的なリスクを洗い出します。
脆弱性診断
「脆弱性診断」とは、コンピュータシステム、ネットワーク、アプリケーションなどに潜在するセキュリティ上の弱点(脆弱性)を特定し、評価するプロセスです。ソフトウェア、ハードウェア、ネットワーク構成などを分析し、脆弱性や設定ミスなどを探します。専門的なツールや手動でのテストを行い、セキュリティホールとなりうる箇所を特定し、悪用された場合にどのような影響があるかを評価し、優先度を付けます。
マルウェア分析
悪意のあるソフトウェア(マルウェア)の動作を解析し、その機能や感染経路を特定する作業です。サイバー攻撃の対策や防御に欠かせない重要な役割を果たします。マルウェアの機能や感染経路を特定することで、そのマルウェアに対する対策を講じることが可能です。また、マルウェア分析を通じて新しいマルウェアの発見や、マルウェアの進化の傾向を把握することもできます。
インシデント対応
万が一サイバー攻撃の被害が発生してしまった場合の対応もホワイトハッカーの仕事です。攻撃をスムーズに検知するシステムを整備しておくことはもちろん重要ですが、検知後の対応も事前に整理しておき、被害を最小限に食い止められるように動きます。
フォレンジック(デジタルフォレンジック)
サイバー攻撃や情報漏洩などのインシデントが発生した際に、その原因や影響範囲を調査・分析する作業です。今後同じ被害が起こらないような対策に役立てるだけでなく、証拠を収集・保全し、法的証拠として活用することもあります。
システム保守・運用
日常的なシステム保守・運用も大切な仕事です。システムのパフォーマンスや外部からのアクセスに不審な兆候がないか監視したり、アクセス権限の設定などに不備がないか確認したりなど安全に運用するための継続的な業務です。また社員のセキュリティー意識を向上させるための講習やトレーニングを実施する場合もあります。
ホワイトハッカーに必要なスキル
ホワイトハッカーはITに関する豊富な知識・技術を持つ人材と解説しましたが、具体的にどのようなスキルが必要なのでしょうか。最低限身につけておきたいスキルを紹介します。
情報セキュリティーの知識
まず重要なのが、包括的な情報セキュリティーに関する知識です。システム全体を攻撃から保護するため、サーバーやネットワーク、ソフトウェア、セキュリティーシステムについて深く理解している必要があります。また悪用される可能性のある脆弱性や攻撃のパターンなども把握したうえで、攻撃者の目線からリスクを予測するスキルも求められます。あらゆる分野の知識を活用して、常にシステムを評価することがホワイトハッカーの重要な任務です。
ITに関わる法律の知識
セキュリティーシステムの設計やセキュリティーポリシーの制定には、IT関連の法律や法令を熟知している必要があります。具体的には「サイバーセキュリティー基本法」「不正アクセス禁止法」「個人情報保護法」「電子取引保存法」などは欠かせない知識でしょう。これらは改正されることも多いため、常に最新の情報を収集して学ぶことも欠かせません。
プログラミングスキル
セキュリティーツールのカスタマイズやセキュリティー対策用のプログラム開発に役立つため、プログラミングスキルを養うことが推奨されます。またプログラミング言語を理解することで、システムやプログラムに潜む脆弱性を発見するためにも役立ちます。
英語力
セキュリティーに関する文献や最新情報は英語で公開されることが多いです。常に最新情報を収集して対策を行う必要のあるホワイトハッカーは、最低限の英語力が必要といえるでしょう。またセキュリティーツールのマニュアルやサポートなども、英語のみに対応しているケースが多くあります。
ホワイトハッカーになる方法
では、需要の高まるホワイトハッカーとして働くにはどうしたらよいでしょうか。ここではホワイトハッカーを目指すための具体的な方法を二つ紹介します。
スクールで専門知識を学ぶ
ホワイトハッカーには幅広い分野の高度な専門知識が求められるため、大学や専門学校などで知識を習得することが方法の一つとして挙げられます。コンピュータ分野に加えて、数学や統計、機械学習などの知識を持つ人は需要が高まるでしょう。
時間や予算の関係で難しい場合は、社会人向けのオンラインスクールなどで情報セキュリティーやプログラミング言語などを学ぶこともおすすめです。
ITエンジニアからステップアップする
現在ITエンジニアとして働いている場合、蓄積したIT知識や実務経験を活かして徐々にステップアップしていくことを目指すとよいでしょう。転職も一つの手段です。
もし社内でセキュリティーに特化したプロジェクトに参加することができれば、実践的なスキルが身につきます。また業務以外でホワイトハッカーとしてのトレーニングプログラムを受講したり、ワークショップなどを活用したりすることで技術を習得することも可能です。
ホワイトハッカーに役立つ資格
ホワイトハッカーになるために必須の資格はありませんが、関連する資格を取得することで、知識やスキルを証明し、就職やキャリアアップに役立てることができます。代表的な資格としては、以下のようなものがあります。
Certified Ethical Hacker(CEH)
Certified Ethical Hacker(CEH)は、EC-Councilが認定する国際的な資格で、倫理的なハッキング技術に関する知識とスキルを証明します。攻撃者の視点からシステムやネットワークの脆弱性を診断し、対策を講じる能力を評価します。
情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)
情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)とは、日本の国家資格で、情報セキュリティーに関する高度な知識と技能を証明します。情報システムの企画・設計・開発・運用におけるセキュリティ確保を支援する専門家であることの証明になります。
Offensive Security Certified Professional(OSCP)
Offensive Security Certified Professional(OSCP)とは、Offensive Security社が認定する実践的なペネトレーションテストの資格です。実際の環境で脆弱性を発見し、攻略する能力を評価します。
ホワイトハッカーの将来性
ホワイトハッカーはサイバー攻撃の被害が増加する近年、社会的に求められている職種です。しかしその反面、高度な知識やスキルが求められるため人材不足の状態に陥っています。そのためホワイトハッカーの市場価値は非常に高く、将来性のある職種といえるでしょう。
また総務省所管の国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、情報セキュリティー人材を育成するためのナショナルサイバートレーニングセンターを設置しています。ここでは実践的なサイバー防御演習が企画・推進されており、政府としてもサイバー攻撃に対処可能な人材の育成に注力していることがわかります。
このようにホワイトハッカーは企業だけでなく、国や政府機関からも強く求められている存在です。待遇や将来性に限らず、社会貢献度が高いこともホワイトハッカーの魅力であり、やりがいを強く感じながら続けられる仕事といえるでしょう。
ホワイトハッカーはサイバー攻撃から企業を保護するプロフェッショナル
ホワイトハッカーはITに関する高度な知識やスキルを善良な目的のために活かす健全なハッカーです。ブラックハッカーによる不正アクセスや情報窃盗などの犯罪行為を未然に防ぎ、企業や国の情報を守る重要な役割を担います。またホワイトハッカーは需要に対して人材が不足していることからも、非常に市場価値が高く将来性のある職種です。
ホワイトハッカーには幅広い分野の高度な知識や責任感、モラルが求められる仕事です。簡単な仕事ではありませんが、その分やりがいを強く感じることができるでしょう。
文/江副杏菜 編集/エンジニアtype編集部