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認知症の方が不安を感じやすい場面とは?肯定的な声かけの具体例

「みんなの介護」ニュース

髙橋 秀明

認知症に対する考え方

一昔前、認知症の行動・心理症状は、「問題行動」と言われていた時代がありました。問題行動と捉えられていた背景には、認知症の状態にある方の言動は、あらゆることが症状として扱われ、「認知症だから」「症状だから」の一言で括られていたことがあります。

そしてもう一つは、介護する私たちが「善」で、困ったことをする人が「問題」と思われていたからです。時代は変わり、行動・心理症状は以下が重要だという考え方が一般的です。

本人の立場に立って考えれば至極真っ当なこと
行動・心理症状には理由があり、その理由を紐解き・策を見出し・手立てを打つ

このような視点が、行動・心理症状を考えるうえでの基本前提と考えていただきたいと考えます。

認知症は、原因となる疾患(アルツハイマー病や脳梗塞・脳出血等)が発病することで、知的能力が衰退し、日常生活に支障をきたした状態を差します。脳の機能低下により引き起こされる記憶障害や時間・場所・人の認識力が衰える見当識障害、手順が分からなくなる実行機能障害等は「中核症状」と言われています。

中核症状は人それぞれ程度に差はありますが、どんなタイプの認知症の方にも現れると言われています。その中核症状に、元々の性格や素質等、不快なストレス、環境不適応、体調不良等の影響が加わると、行動・心理症状が現れることが分かっています。

そのため、介護者には不快なストレスの軽減、できるだけ本人に合わせた環境を整える、体調不良に早期に気づく等が求められます。

認知症の方は不安を感じやすい?

「新しいことを覚えられない、覚えていたことを忘れる」
「今が何時で、今いる場所がどこで、目の前の人が分からない」
「考えや思いがまとまらない」

このような場面になった時、皆さんはどんな気持ちになりますか?安心した気持ちではなく、きっと不安な気持ちになるでしょう。

私も海外に行って一人で外出した際に、道に迷ってしまった経験があります。自分がいる場所が分からなくなり、道を聞こうとしたのですが、言葉も通じずに途方に暮れてしまいました。そのうち辺りが暗くなり、かなりの不安(というより恐怖)を感じ、心臓がバクバクし冷や汗が止まらなくなりました。

また、とある方から「久しぶりですね。」と声をかけられたものの、誰だか分からないこともありました。相手に失礼にならないように会話を取り繕いながら、一生懸命脳の中で記憶を呼び起こした経験があります。話しているうちに、思い出してホッとしましたが、不安を覚えたことがあります。

以上のことは、私の経験談ですが、本記事を読んでいる皆さんも上記のような経験をしたことがあるのではないでしょうか。

認知症の状態にある方たちは、先述した中核症状の影響により、不安な気持ちになりやすい状況にあります。「覚えられない」「記憶が衰えていく」「時間、場所、人の見当がつけられない」「相手に自分の思いがうまく伝えられない」「自分の言葉が相手に通じない」といった不安に駆られているにも関わらず、介護者が「早く〇〇してください」「〇〇できませんよ」「何をやっているんですか」などの言葉や、かかわりによってさらに不安感・緊張感・恐怖感が増す可能性もあるのです。

相手を安心させる望ましいコミュニケーションステップ

認知症の方とのコミュニケーションを取る際のポイントを下記に示しました。この通りでなくても、ポイントを意識してコミュニケーションを図ってみてください。

①話に耳を傾け、本人の主張を聴く。その際、相手の目線に合わせ、声のトーンをやさしくする。大勢で囲まない

②「それは違います、こっちが本当です」とは言わずに、認知症の方の真実を受け止める。否定しない、急かさない

③「私はあなたのことを気にかけている(心配している)」ことを伝えて、味方であることを実感してもらう

④本人の気持ちを汲み取ったうえで、本人がその気になるような言葉をかける

失見当が影響した事例

「ここはどこ?」突然どこにいるか分からなくなり、不安になる。

→今の時間や場所が分からなくなることで、本人は不安や焦り、混乱しています。まずは、本人の話を丁寧に聞くことが大事です。その際、困惑や焦りは出さずに余裕をもって対応するように意識してください。

①どうされましたか?どちらに行かれますか?何かお探しですか?

②お困りなのですね。不安ですよね。

③私にできることはお手伝いしますよ。私も困りごとに一緒に考えますね。

④よろしければ私が案内しますので、一緒に行きませんか?

理解力・判断力の低下が影響した事例

買い物先でお金を払おうとした際、財布からいくら出せばよいか分からなくなり、不安・焦りが生じる。

→どうやって払えば良いのだろう、いくら払えば良いのだろう?等不安を感じています。そのような方を見かけたら、怒ったり急かしたりせずに待つことが大事です。

①②③ゆっくりで大丈夫ですよ。私にお手伝いすることはありますか?何でもおっしゃってくださいね。

④「100円玉を〇枚、10円玉を〇枚、お願いします。」というように具体的に伝える。

記憶障害が影響した事例

毎日「息子はどこに行った?」と繰り返し聞く。記憶障害により、何度説明しても覚えられなかったり、忘れてしまい、本人は不安を感じている。

→何度も聞かれる方からしたら、「またですか」と思うかもしれません。しかし、本人からしたら息子が最も信頼している心の支えになっているケースも考えられます。

①息子さんは仕事に行かれていますよ。

②息子さんが見当たらないから心配しているのですね。

③息子さんも〇〇さんのことを気にかけていましたよ。お母さん思いのやさしい息子さんですね。

④息子さんに心配をかけないように、〇〇さんもご飯を食べて、元気でいましょうね。

幻視、幻聴等が影響した事例

現実には見えないものが「見える」「聞こえる」と訴え、本人は不安を感じている。

→レビー小体型認知症の方の特徴として、幻視、幻聴等が現れる方がいます。私たちに見えない、聞こえないものでも、本人にはハッキリと見えている、聞こえていると言われています(レビー小体型認知症の当事者の著書より)。幻視、幻聴が本人を苦しめているかどうかを見極めることが重要です。

①蛇(他にも虫やネズミ等)がいるのですね。子供が泣いているのですね。

②蛇がいたら怖いですよね。子供のことが気になりますよね。

③〇〇さんのために、私が追い払いますよ。私が子供の様子を見に行ってきますからね。

④追い払ってきたから、もう大丈夫ですよ。子供は家に帰っていきました。安心ですね。また、蛇(子供)が来たら言ってくださいね。

認知症の状態にある方の不安に焦点を当ててお話をしました。認知症を知っているからこそ、本人にとっての真実に向き合うことができます。裏返せば、認知症を知らずに対応をすることで、本人の不安を増長させてしまう可能性もあります。

介護者の不適切なかかわりにより、行動・心理症状をつくり出してしまう可能性もあれば、適切なかかわりによって、安心を生み出す可能性もあるということです。認知症の状態にある方、介護者双方がハッピーになっていただくことを願って今回のお話を締めくくりたいと思います。

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