平野莉玖×SEAMOインタビュー――「Cry Baby」を"feat.SEAMO"としてコラボカバーした平野莉玖の想い
――アルバム『Just The Way We Are』からの先行配信として、10月30日に「Cry Baby feat.SEAMO」をリリースした平野さん。平野さんとSEAMOさんの出会いはいつ頃、何がきっかけになるんですか?
平野莉玖「昨年の8月に、OMOIYA RELAYというプロジェクトの一環で子供たちを応援するイベントが愛知県春日井市で開催されたんですけど、そのイベントに向けて東海エリアのアーティスト9組が参加したチャリティソング「Each one Teach one」のレコーディングで初めてご挨拶させていただきました。お会いしてからはまだ1年ちょっとではあるのですが、僕にとってのSEAMOさんは小さい頃から家族で聴いていた大好きなアーティストさんだったので…。そのときが“はじめまして”ではあったものの、“これをきっかけにこれからもご一緒できたらいいな”と思ってご挨拶に行ったのが始まりでした」
――そのときのことをSEAMOさんも覚えてらっしゃいますか?
SEAMO「もちろんです。莉玖くんの存在自体は前から“名古屋にヤバい人気者の若手がいる”って耳にしていました。そんなときに「Each one Teach one」を作る話があって、その制作に関わっていたのが、「マタアイマショウ」とか「ルパン・ザ・ファイヤー」とかを手掛けてくれたGrowth(Shintaro“Growth”Izutsu)なんですけど、彼から参加アーティストの候補として莉玖くんの名前があがったんです。そのときは、“今の若い子は俺らみたいなベテラン世代に興味を持ってくれるのかな?”なんて話をGrowthとしたのを覚えているんですけど、莉玖くんの場合は幼少期に僕の楽曲を聴いてくれていたっていう。僕の肌感として、今の若い世代は良くも悪くも僕たち世代に興味を持っていないイメージがある中、莉玖くんはちょっと違って、僕たちにも興味を持ってくれているし、リスペクトがあるしっていうので、すごく嬉しかったです」
――お二人の出会いが昨年だったと思うと、今こうしてフィーチャリングの楽曲ができあがっているのは、かなりトントン拍子に話が進んだことになりますよね?
平野「OMOIYA RELAYのイベントが終わった後、ちょっとしてから一緒にごはんを食べに行かせていただいて…」
SEAMO「そうだ、そうだ」
平野「そこで初めて、“「Cry Baby」が好きで…”っていう話を打ち明けさせていただきました」
――数あるSEAMOさんの楽曲の中でも、平野さんにとっては「Cry Baby」が特別だったんですね。この楽曲との出会いは、やはり「Cry Baby」が主題歌となっていた映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』でしょうか?
平野「はい。家族で『クレヨンしんちゃん』を映画館で観て、映画のストーリーにも感動したんですけど、最後に「Cry Baby」が流れた瞬間、ぶわーって滝のように泣いた思い出があって…」
――2007年公開の映画なので、当時の平野さんは7、8歳ですね。
平野「そうです。当時は僕がラップを始める前(※小学生の頃からラッパー・Rickyとして活動を始め、中1でミニアルバム『晴天』をリリース。中学卒業と同時にラッパーとしての活動を休止した)で、ダンスはやっていたものの、自分でマイクを握ったことはなくて。それこそ、「Cry Baby」を聴いたときに初めて音楽で感動を覚えました。音楽は好きだけど自分が歌うってことを考えもしていなかったときにそういう経験をして、“自分も音楽をやりたい”と思うきっかけになりましたし、今の音楽人生があるのはSEAMOさんの「Cry Baby」に出会ったからと言っても過言ではなくて。なので、SEAMOさんの楽曲をやらせていただけるなら、「Cry Baby」以外は考えられませんでした」
――SEAMOさんは、そんな平野さんの熱い想いをどう受け止めましたか?
SEAMO「もう本当にありがたかったです。僕の曲の中でも、「マタアイマショウ」とかじゃなく「Cry Baby」をあげてくれるところが、“信頼できるな”と(笑)。特に莉玖くんの音楽スタイルは、ラップしたり、ダンスしたり、割と自分のタフな一面を前面に出す感じだと思うんです。そういう中で、いわゆる泣き曲の「Cry Baby」をフェイバリット曲に挙げるって、本当に幼少期に聴いてくれてたとしても、ヒップホップアーティストとしてキャリアを積んできたことを考えるとなかなか言いにくいことだと思うんですよ。だから、すごく嬉しかったですし、“この男、信頼できる”と思いました(笑)」
平野「あははは」
――フィーチャリングすることが決まってからは、どのようなやりとりで制作を進めて行かれたんですか? 一口にフィーチャリングといってもさまざまなスタイルがある中で、今回のようにお二人が交互に歌い繋いでいく形にした経緯なども含めて教えてください。
平野「事前に打ち合わせをして細かく決めるというより、スタジオに集まって、その場で“こうしよう、ああしよう”っていう感じでしたよね?」
SEAMO「そう、そう。やらせていただくにあたって、これが一番大きなポイントだったんですけど、僕が一緒に歌ったほうがいいのか?よくないのか?って、そこを考えることから始まったんです。莉玖くんがこの曲を気に入ってくれているんだったら、彼のキャリアだし、莉玖くんが1人で歌ったほうがいいんじゃないか?と僕は思っていたんです。でも、莉玖くんから“一緒に歌いたい”という言葉をもらって、一緒に歌うことになりました。また、アレンジに関しても、今っぽいテイストに変えることも含めていろんなパターンが考えられたんですけど、莉玖くんから“オリジナルのテイストがいい”って強い意志があったので、“それなら絶対そっちのほうがいいよね”ってことで今の形になりました。僕からすると、フィーチャリングというより一緒に歌わせてもらったというか…だから、ちゃんと歌い直しました」
――歌入れも一緒にされたのですか?
SEAMO「フィーチャリングだと別々に録って終わりってことがザラにあるんですけど、今回に関しては一緒にスタジオに入りました。しかも、自分のパートをまとめて録るのではなく、交互にボーカルブースに入って、頭から順番に録っていきました」
平野「入れ替わりがすごかったですよね(笑)」
――出たり入ったりで大変そうというか、手間がかかっていますね。
SEAMO「むしろ、その熱量とか空気感を大事にしました。1番と2番とで同じリリックが繰り返されるサビも、僕たちの音楽の場合だと同じテイクを貼ることも多いんですけど、今回は毎回毎回ちゃんと歌いました」
平野「“やっぱりテンション感が大事だよね”って話をしていて。録り方については僕もイメージがなくて、SEAMOさんと今回ディレクションしていただいたGrowthさんと話して、アドバイスをいただきながら進めていきました。逆に、アレンジに関してや、“SEAMOさんと一緒に歌わせていただきたい”ってことは、僕のわがままをSEAMOさんにぶつけさせていただきました(笑)」
SEAMO「全然、全然! 本当に楽しかった!」
――SEAMOさんと一緒にレコーディングしたことで、刺激を受けることも多かったのでは?
平野「すごく(刺激を)受けました! 中でも驚いたのが、SEAMOさんの声量のすごさ。僕自身は、よくライブを観に来た親とかに、“全然声が出てない!”ってダメ出しをされることが多くて(苦笑)。今回のレコーディングでもそれは痛感しました。僕とSEAMOさんの声量が違いすぎて、交互にブースに入って歌うレコーディングではボリュームの調整がめちゃ大変だったと思います(苦笑)」
――また、アレンジを極力変えたくなかったのはどうしてですか?
平野「やっぱり、僕はあの当時の「Cry Baby」が好きなので。そこはもう、僕のゴリ押しです(笑)。でも、そこには一つメッセージがあって、あの「Cry Baby」を大人になった僕がSEAMOさんと一緒に歌うこと、そういうストーリーを世の中に発信することによって、夢が叶う瞬間を観てもらいたかったんです。特に、当時の僕のような小学生とか、今から頑張ってみたいと思っている子供たちに、“ガムシャラに頑張り続けていれば、手が届かないと思っていた人たちとも、こうして一緒にできる奇跡が起こるんだよ”って夢を与えられたらな…と思っています」
――一方、SEAMOさんとしては、17年前に作った楽曲が今こうしてまた若い世代のアーティストによって再び世に出ていくことを、どう感じますか?
SEAMO「莉玖くんが今、夢が叶った瞬間って言ってくれましたけど、ヒップホップ系の音楽では、昔の有名な楽曲をサンプリングという手法で生まれ変わらせて新しい世代に伝えていく文化があって、今回のもまさにそういうイメージというか…。僕のことをストライクゾーンだって言ってくれるお客さんって、30代くらいの人たちまでだと思うんです。それよりさらに10歳くらい若い莉玖くん世代に僕の代表曲が届いてくれるのはシンプルに嬉しいことですし、自分にとってかわいい子供のような楽曲が20年近くの時を経て再びスポットが当たるのは、制作者として至福のひとときなので、そういう機会を与えてくれた莉玖くんには本当、感謝しかありません」
――「Cry Baby feat.SEAMO」のレコーディング後も連絡を取り合ったりしているんですか? 例えば、音楽活動をする上での悩みを聞いてもらうとか。
平野「イベントでご一緒したり、僕のライブにゲストで来ていただいたりってことはあるんですけど、悩みを聞いてもらうまでは…」
SEAMO「というか、悩まないんだよね?」
平野「そうなんです。僕、あんまり悩まないタイプで」
SEAMO「すげぇなって思いますよ。ガンガン前に行くタイプなんだなって」
平野「どちらかと言うと、“どうすればいいですかね?”ってアドバイスを聞きに行くというより、現場で見て学びたいんです。なので、ライブとかイベントとかでご一緒するときには、SEAMOさんのパフォーマンスを観て勉強させていただいてるんですけど。割と1人で考えて解決しちゃう感じなんです」
SEAMO「だから、アドバイスすることがないんです。僕としては、“困ったことがあったらいつでも”って感じで肩作って待っているんですけど(笑)。そういうところは今っぽいなって思います。俺たちなんかはクヨクヨすることも多かったんですよ。莉玖くんの話を聞いてると、メンタルの違いなのか何なのか、そういうところがまったくないので。“この仕事が向いてるんだろうな”って思いました」
平野「でも、逆に自分では気付かないとこを、“あそこもうちょっとこうしたほうがいいんじゃない?”と言っていただいて気付くこともあったりします。なので、SEAMOさんから見て思うことがあったら、バンバンご指導いただけると嬉しいです!」
SEAMO「僕もいろんなことやってきたので、そこは任せてください(笑)」
――「Cry Baby feat.SEAMO」も収録されているアルバム『Just The Way We Are』が12月18日にリリースされます。今作は平野さんにとってメジャーデビューアルバムとなりますが、どんな意気込みで制作されましたか?
平野「そうですね…僕は音楽というものに対して、“俺が、俺が”っていうタイプではあまりなくて…。とにかく歌を歌うことが大好きで、そして、歌によって心を動かされる瞬間が、すごく好きなんです。だから、自分の曲で1人でも多くの人が救われたら嬉しいですし、1人でも多くの人が楽しめるアイテムになったらいいなという想いで音楽をやっているので、1曲でも聴いて感動してもらえたらいいな…と思っています」
――今回は初回限定盤と通常盤の2タイプがあって、初回盤は16曲入り、通常盤は10曲入りです。この違いにはどんな意図が?
平野「初回限定盤は、僕が音楽活動を再開してから現在までの作品の集大成になります。新曲も含めて、現時点での自分の全てを盛り込んだ16曲になっています。対して通常盤のほうは、その中でも割と最近の楽曲で構成しました。僕のコアなファンの方や、もっと知りたいと思ってくださる方はぜひ初回限定盤を聴いていただきたいですし、“まだちょっとそこまでじゃないな”って方は(笑)通常盤で、僕の音楽の入口を感じていただけたらと思って2タイプ作らせてもらいました」
――アルバムのタイトルにもなっている「Just The Way We Are」はすでに配信リリースされていますが、リスナーからはどのような感想が届いていますか?
平野「まず、「Just The Way We Are」をアルバムのタイトルにしたのには、このアルバムが僕の1stアルバムということで、これまでの集大成でもあるんですけど、同時に、ここからまさらに上の段階に進むためのスタートだと思っていて。だからこそ、ありのままの自分をもっと前面に出していきたいという想いを込めて、「Just The Way We Are」をリード曲にしましたし、アルバムのタイトルにもしました。実際にこの曲が配信された後、SNSとかに届いた感想を見ると、“この曲を聴いて頑張ります!”っていう声がすごく多くて。僕自身も“この曲でみんなの背中を押したい”って思っていたので、僕が本当に伝えたいことが届いていてよかったなぁって思います」
――SEAMOさんは平野さんの楽曲を聴いたり、ライブをご覧になったりしているなかで、“平野莉玖”というアーティストをどんなふうに見ていますか?
SEAMO「“平均値が高いな”って思います。僕の世代だと、例えば、ダンスだけとか、ラップするだけ、歌うだけとか、割と専業で精一杯なところがあったんですけど、莉玖くんを見ていると“あ、それ全部やるんだ!”みたいな(笑)」
平野「あははは」
SEAMO「時代背景もあるかもしれないですけど、それらをちゃんと高いレベルでできているのがすごいなって、感心するばかりです」
平野「ありがとうございます(照)。でも、本当に好きなだけなんです。ダンスも昔からやっていて好きだし、歌の前にラップを始めたからラップも好きだし、歌うことも大好きだったからメロディも自分のものにしてみたいって想いから作り出して。全部“好き”だけでやってきたところがあって…。たまに、“こだわりがないの?”みたいなことを言われることもあるんですけど、そういうわけじゃないんです。中途半端にアレコレつまんでいるわけじゃなく、大好きなものに対して本気で取り込んでるだけなんです」
――今回のアルバムでメジャーの世界に踏み出していく平野さんに対して、SEAMOさんからどんなメッセージを伝えたいですか?
SEAMO「莉玖くんを見ていると、なんでもチャレンジしてく精神がすごく感じられますし、“悩んでいる暇があったらとりあえず前に進め”っていうパワーも感じるので、何も言うことがないです。僕が言ってあげられるのって、10年後、莉玖くんのメジャーデビュー10周年とか、20代の頃に比べて体力が落ちてきましたっていうようなときに、“この栄養ドリンクがいいよ”だったり、“この病院がおすすめだよ”だったり、そういうことなのかなって思うくらいで(笑)。そういう意味では、今は何も心配することがないから、実はちょっと拍子抜けしているんです。今はやりたいことを片っぱしからやって、ガンガン進んでいけばいい。で、きっとやっていく中で自分にもっとしっくりくるものとか、逆にしっくりこないなと感じることが出てくると思うんです。それによって、どんどん自分のスタイルというものがよりできあがっていくというか…。これは僕の持論なんですけど、アルバムや楽曲って作って終わりじゃなくて、作ってから、ライブ、ツアーをやるまでが制作過程だと思っていて。なので、今回の莉玖くんのメジャーデビューアルバムも、そこできっと完成に至るんだろうなって思っています。ライブでやってみて、より好きになる曲とか、“手応えが良かったからもっとこういう曲を増やそう”とか、きっといろいろ出てくると思うんです。とは言え、莉玖くんはすでに現場の経験もしっかり積んでいるから、今は今のまま、“ガンガン行ってくれ!”って感じです」
平野「ありがとうございます。本当、今SEAMOさんがおっしゃっていた通りです。僕、ライブが一番好きなんです。もちろん楽曲を作ることも好きなんですけど、作ったものをお客さんたちの前でパフォーマンスしながら歌うっていうのが一番好きですし、大事にしてるところではあるんです。実際に今もリリース記念イベントとかで歌わせてもらう機会も多いんですけど、既に、“こういう曲を作りたい”とか、“ああいうラップをしてみたい”っていうのが、自分の中にたくさん生まれていて…。現場に立つことでより自分がクリエイティブになっていく気がするので、ここから死ぬまで現場に出続けたいと思っていますし、SEAMOさんも言ってくれたような“イケイケな心”を忘れずに、これからも頑張っていきたいと思います!」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
RELEASE INFORMATION
2024年12月18日(水)発売
初回限定盤/TECI-1827/5,000円(税込)/アルバムCD(全16曲収録)+封入特典
通常盤/TECI-1828/3,300円(税込)/アルバムCD(全10曲収録)
平野莉玖『Just The Way We Are』
2024年10月30日(水)配信
平野莉玖「Cry Baby feat.SEAMO」